映画コラム

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2019年09月28日

『アド・アストラ』は近未来の宇宙が舞台なのに、SF宇宙映画ではない理由

『アド・アストラ』は近未来の宇宙が舞台なのに、SF宇宙映画ではない理由

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。

42回目の更新、今回もよろしくお願い致します。


孤独になりたい時と、孤独から脱したい時。

相反する気持ちが交互に来るかと思うと、そうでもなくランダムに来たりと、なかなか難しいものです。こういう気持ちはコントロールがきかないもの。
傷つくことがあったり、干渉されたくなかったり、会話をすることすら嫌になったりと、日常を生きていると、ふと孤独になりたいと思ってしまったりする。

たまに発動する、孤独でいたがるモード。身体的にも精神的にも"触れてくれるなっ"といった感じに。でも時には、ただ単純に考えごとがあるからという理由からそうなったりするから、よく分からない。

一人。独り。

"ひとり"という同じ音だけれど、目にすると感じるニュアンスが大きく変わります。

「何名さまですか?」
「あ、一人です」

というのと、

「何名さまですか?」
「あ、独りです」

なんか感じるダメージが大きい気がする。とは言いつつ、この孤独モードな状態が悪いのかと聞かれると、それは決してそうとも言えない。他への関係性で疲れてしまった分の、休憩な状態と言いますか、自分自身のバランスを取るためにはきっと、正負の両方が必要です。正を生かすために負があり、逆もまた然り、なんだと思うのです。

関係性を取る大切さ、有り難さ、幸せを感じるためには必要な時間、他人とではなく自分と向き合う"独り"の時間。その時間を大切に思い、過ごしていると、また一つ新たな視界が開けると思います。

独りで、この映画を観てきました。

今回はこちらの映画をご紹介。

『アド・アストラ』





少し先の未来。人類は知的生命体の発見や資源の調達のため、宇宙へと旅立っていた。ロイ・マクブライド(ブラッド・ピット)は、地球外知的生命体の研究に人生を捧げた父・クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)を見て育ち、自身も宇宙飛行士の道を歩んでいた。しかし、父は探索に出掛けて16年後、太陽系の彼方で行方不明となってしまう。

ある時、宇宙船の船外活動をしていたロイは、"サージ"(=電気嵐)に巻き込まれ、墜落事故や火災にあい危うく命を落としかける。回復したロイは、アメリカ宇宙軍の上官から、極秘情報を告げられる。初の太陽外有人探査計画、通称・リマ計画の司令官で、消息を絶っていた父が生きているという。しかも、世界中を混乱に陥れたサージは、父が海王星付近で行っている実験によるもので、このままではあらゆる生命体が滅びてしまうと軍から伝えられる。

英雄だった父に憧れ、同じ宇宙飛行士という道に進んだロイだが、父は家族にはよそよそしく、ロイはいつも孤独を抱えていた。さらに突然、父が消えたショックから、さらに閉ざすようになっていた。人との関係をうまく築けないようになり、深く愛していた恋人のイヴ(リヴ・タイラー)も離れていってしまう。
そんなロイに、父・クリフォードを探し出せという、最高機密のミッションが与えられた。

宇宙空間で待つものとは、そして、この任務の本当の目的とは。ロイは父を見つけ人類を救うことが出来るのだろうか、、、




ブラッド・ピットが、主演・製作を務める2019年最大の注目作。

これまでの派手な宇宙モノからは、一線を画した作品が誕生しました。

宇宙という壮大な空間の中で、この映画が伝えるものは、人と人との繋がりや、人間の成長と再生の物語。そこをストレートに繊細に、時に大胆に、と見事に紡がれていました。大量のリサーチにより、本作はより科学、未来、事実に近いものになっているのも最大の魅力。

導入部から、一瞬にして宇宙の彼方へ、入り込みました。監督を始め、製作チームが入念なリサーチを重ねて、遙か彼方の未来ではなく、近い未来の世界を描いているところが、効果的に観客を感情移入させる要素になっているのではないでしょうか。

SF過ぎてしまうと、どこか引いて観たり、エンタメとしての作品という視点になってしまうところを、宇宙ステーション、衣装、色々な部分をリアル寄りに仕上げている。未来的なガジェットや武器は登場せず、科学、未来、事実に真摯に基づいている部分に心底称賛します。

計り知れないリサーチがあってこそのクオリティだと感じました。(火星の基地は、最後の有人開拓地に近いものであるとしていることから、現在の南極大陸の科学基地の画像が参考にされている。)新旧の技術のバランスの取り方が、近い未来という設定をよりリアルに表現。




そしてブラッド・ピットの"表情力"が堪らない。「ワンハリ(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)」でも、新たな魅力を見せつけられましたが、この方には、底というものはないのでしょうか、、、本作でも、また新たに魅力的な人物を造ってしまうあたり、さすがのカリスマ性です。

地上でも孤独を纏っているロイが、宇宙空間に出るとより孤独感が出る。ロイ自身というのももちろんだが、宇宙空間では人類というのはなんとちっぽけでチャチなものなのだろうと。宇宙服の透明なヘルメットから覗く、二つの瞳から幾つもの感情を感じました。その表現力たるや、、、素晴らしい。

SF宇宙映画ではなく、人間ドラマ。

孤独な男、というよりはロイは孤独でいたがる男。父は、自分が家族や同僚のことより自分が行っている研究にだけになり人間性を失っていた。そんな父のようになっている自分に気づき、それに抗い始める。そして彼は決心していく。

そういったストーリーが、本当に丁寧に繊細に感動的に造られているのです。

観た人の数だけ感じるものがある、普遍的な人間ドラマだと思います。

やはり宇宙ものは大きなスクリーンとダイナミックな音響設備のIMAXで観るのがオススメ。

是非早く映画館へ。

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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