ゼロ年代を生きた世代には眩しすぎる『アリーキャット』と、天才・窪塚洋介の完全復活

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

今年1月に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙-サイレンス-』で主人公たちを日本に招き入れるキリシタンの男を演じ、ハリウッド映画で実力を証明するという華麗な復活を遂げた窪塚洋介。そんな窪塚が久々に主演を務める映画『アリーキャット』が7月15日から全国ロードショーとなります。

窪塚とともにダブル主演を務めるのは俳優・古谷一行の長男で、今年メジャーデビュー20周年を迎えるDragon Ashの〝Kj〟こと降谷建志。父親が主演を務め、端役で出演した2003年の『手紙』以来となる映画出演を果たすのだ。
もうこの二人が共演するというだけで、2000年代前半の最盛期を見てきた世代は興奮せずにはいられないでしょう。



(C)2017「アリーキャット」製作委員会



〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.40:ゼロ年代を生きた世代には眩しすぎる『アリーキャット』と、天才・窪塚洋介の完全復活

試合中の怪我で引退を余儀なくされ、その後遺症に苦しみながらアルバイトの日々を送る元ボクサーの秀晃は、可愛がっていた野良猫を探しているときに自動車工の郁巳と知り合う。ある時、ボディーガードを請け負っていた冴子を助けるために暴力事件を起こしてしまう秀晃。彼女を守るために、郁巳の力を借りて東京に向かうのである。

もう窪塚と降谷建志が同じフレームに収まっているだけで嬉しいというのに、ヒロイン格である冴子を演じるのが市川由衣となれば、まさにゼロ年代の輝かしい日本映画の様相が強まる。それでも、決して時代遅れな印象を与えず、純粋な懐かしさによって当時にタイムスリップしている気持ちにさせてくれます。

しかもロードムービー的なスタイルと、往年の名作を思わせる男2人と女1人のキャラクター構成。そこに日本のインディーズ映画らしい暴力描写が混ざり合い、魅力的な化学反応を起こす。



(C)2017「アリーキャット」製作委員会


窪塚といえば、代表作でもあるドラマ「池袋ウエストゲートパーク」での〝キング〟に端を発する、アナーキーで暴力的な姿がよく似合う。若き日の危なっかしい姿は、15年近く経た今でもスクリーン全体を魅了。

となれば、若き頃の凶暴さと見比べてみたい。2002年に公開された『凶気の桜』は、ヒキタクニオの同名小説を映画化した社会派バイオレンス映画です。

凶気の桜




渋谷で生まれ、渋谷で育った山口は、幼馴染み3人で〝ネオ・トージョー〟という名の結社を築き、白い戦闘服を身にまとって渋谷の街に巣食う不良を狩り続ける日々を送っていた。政治結社の会長・青田から見初められ、世話をしてもらうようになった彼らだが、ある時青田と対立する暴力団が経営するクラブを襲撃したことで、大人たちの抗争に巻き込まれていく。

窪塚自らが原作に惚れ込み企画を持ち込んだ同作は、舞台が池袋でなく渋谷であっても、若者の渇望感を体現した、彼の〝キング〟らしさが全開になっています。そう考えると、その面影がハッキリと残った『アリーキャット』の主人公は、当時の社会に疑問を持っていた若者や、よく言われていた〝キレる若者〟がそのまま大人になったら、という仮定が潜んでいるのかもしれません。

2000年代前半『GO』や『ピンポン』でとてつもない存在感と魅力を発した窪塚は、外の世界と混ざり合うことによって、その強さを最高レベルにまで昇華させる、日本人俳優としては非常に稀有な存在。それを象徴するように『凶気の桜』ではモデルのRIKIYA(現在は川口力哉として活動している)と、総合格闘家の須藤元気と共演し、その演技の振れ幅の広さを見せつけ、若手俳優としての地位を不動のものにしました。

そして今年に入り、『沈黙-サイレンス-』と『アリーキャット』で再び外の世界とぶつかり合った彼は、もう完全復活を遂げたといっても良い。日本映画界きっての天才の帰還というわけです。

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(文:久保田和馬)

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