『アルキメデスの大戦』数学で描く戦争、菅田将暉の計算力に萌える!? 

 ©2019 映画「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

平成から令和に元号が変わって初めての夏がやってきました。

日本の夏といえばどうしても1945年8月15日の終戦といったイメージから戦争の記憶を呼び起こす企画がさまざまなメディアで展開されるのが常ではあります。

その意味でも、今年の日本映画が放つ『アルキメデスの大戦』は従来の戦争映画とは一味も二味も違う異色作として大いに注目すべきものがあります。

なぜならば……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街396》

この作品、数学をもって戦争の惨禍を食い止めようとした男たちの物語だからです!

巨大戦艦建造計画にまつわる
推進派と反対派の対決

映画『アルキメデスの大戦』は『ドラゴン桜』などで知られる三田紀房の同名漫画を原作としたもので、第二次世界大戦を数学者の視点で描くという、これまでになかった発想で繰り広げられる戦争秘話です。

そして今回描かれるのは、原作コミックの始めから第3巻あたりまでにあたるエピソードで、そのモチーフはずばり戦艦大和の建造。

時代は1933年(昭和8年)、欧米列強との対立を深め、軍拡路線を邁進していた当時の日本が舞台となります。

この時期、海軍省は世界最大級の巨大戦艦を建造しようと目論んでいましたが、これからは飛行機の時代であると確信していた当時の海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、大艦巨砲主義がまかり通って久しい当時の海軍の方針を危惧し続けていました。

まもなくして巨大戦艦建造推進派のプランを知った山本らは、あまりにもその見積もりが安すぎることに疑問を抱きます。

まもなくして山本は、100年にひとりといった若き数学者・櫂直(菅田将暉)と知り合い、彼に見積もりのカラクリを暴かせ、建造計画を阻止しようと目論みます。

軍需産業の社長令嬢・尾崎鏡子(浜辺美波)の家庭教師を務めていたことからその仲を疑われ、圧力で帝国大学を退学させられた櫂は大の軍隊嫌いでもありましたが、そんな彼に山本は「巨大戦艦を建造すれば、その力を過信した日本は必ず戦争を始める」と説き伏せました。

かくして櫂は少佐として海軍内に入り込み、独自の調査を進めていくのですが、当然ながらにして建造推進派の妨害が……。

ここで描かれるのは、数学の力を用いて巨大戦艦の建造を止め、ひいては戦争を避けようと努めた男たちの熱い戦いです。

しかしながら史実としては巨大戦艦=大和は建造され、その沈没から数か月後に日本は敗戦を迎えています。

何せ映画自体、冒頭いきなり戦艦大和が米軍の総攻撃で沈没していくさまを圧倒的描出で描いていくのです。

ということは、山本や櫂の努力はまったく報われなかったのか? しかし、それでは2時間強の映画としての面白さを保持できないのでは?

これが面白いのです。実にスリリングなのです!

 ©2019 映画「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

優れたキャスティングの妙と
山崎貴監督の勢いある演出

なぜ映画『アルキメデスの大戦』が面白いのか? それは何といってもキャスティングの妙にあります。

良く言えばインテリですが、即ちそれって変人だよね? といったイメージを見事にひきずりながら、その天才ぶりをカリスマ的オーラを放ち続ける菅田将暉の素晴らしさをまずは讃えるべきでしょう。

特に細かくも長々とした計算を一気に黒板に書きあげていくときの計算力というか、もっとも演じているわけですから、これは記憶力といったほうがいいのかもしれませんが、こちらからすると一体何を書いているのかわからない分、ただただ圧倒されるとともに、菅田将暉の記憶力はもとより、俳優そのものとしての魅力に改めて萌えてしまうこと必至なのでした!

やがては連合艦隊司令長官として太平洋戦争を戦うことになる山本五十六役に舘ひろしと聞いたときは正直軽すぎるのではないかと思ったのですが、いざ見ると飄々とした存在感が実に見識ある名将の壮年期を忍ばせた好演となっています。

また櫂の付き人となる田中少尉(柄本佑)や櫂を愛する令嬢・鏡子(浜辺美波)は原作とは異なるイメージで描かれていますが、こうした改変も映画として成功しているのなら良しで、事実両者とも限られた上映時間内でのドラマを動かす上での巧みなフック、もしくは映画自体にゆとりを持たせる存在としても映え渡っています。

そしてクライマックスは建造推進派と反対派がガチンコで対決する会議の席へと持ち越されますが、推進派の中心となる平山造船中将を演じる名優・田中泯の存在感も特筆しておくべきでしょう。

監督は『永遠の0』(13)を右にも左にも思想的に傾かせることなく、東宝特撮戦争映画へのオマージュとして屹立させながら未来の平和を問うた山崎貴。

CGとドラマを巧みに組み合わせた力量は『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズ(05~09)などで既に証明済みではありますが、やはり今一番ノリに乗っている監督であることは、本作およびその1週間後に公開となるCGアニメ映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を見ても明らかでしょう。

特に今回、いわゆる戦闘シーンは大和沈没の冒頭だけなのに、むしろクライマックスの会議シーンでのバトルにこそ、この監督のドラマ演出の本領を見た想いもあるのでした。

果たして櫂の数学的インテリジェンスは巨大戦艦の建造を阻止できるのか? また、ならばなぜ後に戦艦大和が作られたのか?

映画はそれらすべての疑問に答えてくれます。

その答えに、特に日本人ならばゾッとさせられること請け合いでしょう(もっとも、私自身はこの点に関してだけはちょっと物言いしたいところもあるのですが、ネタバレになるので今は止めておきます)。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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