『ボス・ベイビー』鑑賞には「海月姫」の芳根京子が絶品な吹替版がオススメ!

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日本でも翻訳が出版されている、マーラ・フレイジーの絵本『あかちゃん社長がやってきた』を原作に、ユニバーサル映画とドリームワークスがタッグを組んで映画化したのが、この『ボス・ベイビー』だ。今回はこの話題作を、公開初日の最終回で鑑賞して来た。予告編やチラシからは、ほとんどそのストーリーが判らない作品だけに、多少の不安を抱きながらの鑑賞となった本作。果たしてその内容と出来はどうだったのか?

ストーリー

パパとママに愛されて幸せに暮らす7歳の少年ティム。ところがある日突然彼の家に、黒いスーツに黒いネクタイ姿の赤ちゃん、ボス・ベイビーがやって来る。両親からティムの弟だと紹介されたその赤ちゃんは、まるで大人の様に話すことが出来、口が悪い上にティムを部下扱い。さっそく二人は大ゲンカで険悪な関係になるのだが、実は赤ちゃんにはある重大な秘密任務があり・・・。

予告編

とにかく可愛すぎる、ボス・ベイビーに注目!

つぶらな瞳に二頭身、外見はどう見ても赤ちゃんなのに、何故か黒のスーツでキメたその格好が可愛すぎるボス・ベイビー。

映画の中でも随所に登場する、その可愛さと大人のビジネスマン的言動のギャップに、もはや観客のハートは釘付け!中でも最高に可愛いのが、生まれたばかりの大勢の赤ちゃんたちが、それぞれの親元へと仕分けされて行くオープニングシーンだ。生まれたままの姿の赤ちゃんが、オートメーション作業でおむつを履かせられたり、おしゃぶりやミルクをもらったりするその光景こそ、男女を問わず世の可愛い物好きには正に至福の時!

もちろん単に可愛い赤ちゃんを見せるためではなく、実はこのオープニングシーンが、映画後半で今回の悪役の悲しい過去へと繋がる展開が泣かせる本作。

この最高に癒されるオープニングだけでも劇場で観る価値は十分にあるので、鑑賞を迷っている方は心配せずに今すぐ劇場へ!

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アラフォー世代には懐かしすぎる、オマージュが素晴らしい!

お子さん連れで鑑賞される親御さんへのサービスを忘れていないのも、本作の魅力の一つだ。実はこの映画には、アラフォー世代には非常に懐かしいオマージュが随所に散りばめられている。

例えば、日本でも放送された「特別狙撃隊SWAT」のテーマ曲が追跡シーンでかかるのは序の口で、ティムが空想の中で高くジャンプする時の効果音が『600万ドルの男』だったり、『レイダース失われたアーク』や『ハネムーン・イン・ベガス』『ミッション・インポッシブル』などの映画のオマージュまで飛び出すなど、アラフォー世代の親御さんにとっては涙物のシーンが続出する本作。

中でも印象深いのは、ティムの両親が子守歌として歌うのが、ビートルズの名曲「ブラックバード」という点だ。映画の中でも繰り返し登場するこの歌を、ティムがボス・ベイビーに向けて歌うシーンでは、歌詞の内容が兄から弟への想いとして解釈出来る点が実に見事!

こうしたサブカル的ネタが単にアラフォー世代への目配せで終わっていない点に、製作陣の志の高さを感じさせる本作。個人的にはティムの空想の中で登場するバイクスタントシーンが、あのスタント界のレジェンド、イーブル・ニーベルへのオマージュとなっていたのがツボだった、と言っておこう。

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実は大人向けの深い内容の本作は、吹替版がオススメ!

実は字幕版の上映劇場が少なかったため、今回は日本語吹替版での鑑賞となった本作。

事前に吹替キャストの情報をほとんど入れずに鑑賞したためか、エンドクレジットで配役を見て「えっ、あの人が?」と思わされる部分が多かったのは、それだけキャラクターと吹替の声が良く合っていたということだろう。

ただ、ボスベイビーの声をムロツヨシが担当していることだけは事前に知っていたのだが、これが逆に違和感を感じる結果となってしまったのは残念だった。イメージ的にはまさにピッタリ!の配役なのだが、いざ本編を見てみると、やはりムロツヨシ本人が喋っている様にしか思えず、終始彼の顔が浮かんでしまって、もう少しキャラクターに寄せてくれても良かったのでは?そんな想いが全編に付きまとって離れなかったのだ。(実は海外版のソフトには、飛行機の機内上映版の日本語吹替音声が収録されており、そのバージョンではボス・ベイビーの声を『ワンピース』などでも有名な声優のチョーが演じているとのこと)

だが、その違和感を見事にカバーしてくれるのが、今回日本語吹替版で主人公ティムの声を担当した芳根京子による絶品の吹替だ!実際、自身の個性を見事に消して、完全にキャラクターに寄せて7歳の少年を演じているので、最後まで誰が吹替えているのか分からなかったほど。
先日最終回を迎えたフジテレビの月9ドラマ「海月姫」でも、その確かな演技力が評価された彼女の新たな才能を見ることが出来るのも、本作の魅力の一つと言えるだろう。

更に、意外と言っては失礼だが、今回素晴らしかったのが本人のイメージと全く違うティムの父親を演じた、NON STYLEの石田明だった。標準語でのセリフにも関わらず、普段のあの騒がしい感じを見事に消して、誠実で穏やかそうなティムの父親のイメージに合ったその吹替は、是非劇場でご確認を!

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実は字幕版にも注目して頂きたいポイントが!

今回日本語吹替版での鑑賞となった本作だが、実は字幕版にも是非注目して頂きたいポイントがある。それは、吹替版ではムロツヨシが演じていたボス・ベイビーの声を、字幕版では何とアレック・ボールドウィンが演じている点だ。

そう、外見は赤ん坊ながら中身は中間管理職のビジネスマンというキャラクターには、正にこのアレック・ボールドウィンこそピッタリのキャスティングなのだ!昔は二枚目俳優として主演作も日本で公開されていた彼だったが、やがて時代の流れや年齢と共に徐々に脇役へとシフト。そしてテレビドラマへと活躍の場を移し、人気コメディドラマ「30ROCK」のイヤな上司役で再ブレイクを果たした彼だけに、このボス・ベイビーの性格そのものが、文字通り彼の当たり役を連想させるのが見事!

本作を字幕版で見て興味を持たれた方は、是非「30ROCK」の方も一度チェックして頂ければと思う。

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最後に

冒頭で述べた様に、予告編やチラシからはその詳しい内容やストーリーが良く分からなかった本作。

そもそも、ビジネススーツを着た赤ちゃんが大人の様に喋るというこの設定が、ストーリーの上でどう生かされるのか?こんな疑問をもって鑑賞に臨まれた方も多かったのではないだろうか。

ところが実際に鑑賞してみると、可愛いキャラクターたちの裏に隠された深いテーマと、予想外に大人向けの内容に驚かされた本作!

そもそもボス・ベイビーという存在が何故誕生したのか?それは、映画冒頭に出てくる赤ちゃんの自動選別シーンで描かれる、ある最終テストの結果が一般的な赤ちゃんとは、たまたま違うものだったという理由によるものなのだ。

実はこの部分、本来得られるはずだった幸せや愛情が、機械的な判断によって見過ごされるという危険性を描いている。

つまりボス・ベイビーに代表される赤ちゃん会社の社員たちは、実は機械によって誤って選別された、ある意味被害者的存在であり、最終テストの結果が他人と違ったという理由だけで、選別・隔離され社会のために働かされ、特別なミルクによって成長すら止められ大人の意識を維持させられているという、一種の犠牲者とも受け取れるのだ。

本作のストーリーは、そんなボス・ベイビーが、ある重要な任務のために派遣されたティムの家で、両親の愛情を独り占めしたいティムとの共通の利益のために協力する内に、次第にお互いの今までの生き方に疑問を持つ様になり、他者を受け入れ自身の愛情を分け与えることを覚えて成長するというもの。

ここで興味深かったのが、ボス・ベイビーがティムの両親や家族からの愛情のためではなく、ティム個人との兄弟愛や絆のために最後のある重要な選択をするという展開だった。

実はこれには、彼が家族の愛情を知らず誰にも愛されずに育ったことや、会社組織こそが彼にとっての家族であり世界の全てという設定が大きく関係している。加えて今回のラスボスの正体やその悲しい過去、そして復讐に燃える動機にも、この設定は大きく影響しているのだ。

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更に凄かったのが映画の後半で、ある理由からボス・ベイビーが普通の赤ちゃんに戻ってしまうまでの時間的制約が設定される展開だった。

それは、タイムリミットが迫るにつれて、今まで大人の様だったボス・ベイビーの意識が赤ちゃんのそれに戻ってしまい、周囲の物に気を取られたり、歩いたり喋ったりが出来なくなる頻度が増えて行き、更にはその変化をボス・ベイビーが恐怖するというもの。

実際、ボス・ベイビーに訪れるこの変化は、大人がやがて年老いてボケたり認知症を発症する過程を連想させてかなり怖いものがある。

しかも、本来のあるべき姿、つまり両親や周囲の人々の愛情を一身に受ける可愛い赤ちゃんに戻るということを、ボス・ベイビーが否定する!というこの描写が、実は重要な意味を持っていることに、我々観客は気付かされることになる。

なぜなら、今まで家族に愛された経験の無いボス・ベイビーにとっては会社組織こそが唯一の家族であり、大人の様に行動出来なくなることは、その家族からも追放されることになるからだ。しかもこの部分の展開が、本作の悪役誕生の理由になっている点も、実に上手いと言えるのだ。

赤ちゃん、いや、人間にとっての本当の幸せとは何か?

そして、仕事と家族のどちらが本当に大切なのか?

本来は家族の一員として迎えられ、愛情に満ちた生活を送るはずだったのに、たまたま人と感じる場所が違っていたという、それだけの理由で赤ちゃん会社の幹部候補性として組み込まれてしまった、ボス・ベイビー。そう、本作は彼が初めて自身の判断で、本当の自分の生き方と幸せを見つけるまでの物語なのだ。

一見子供向けの作品に見えながら、実は大人の観客に向けられたテーマやメッセージが満載の本作。ボス・べイビーの殺人的な可愛さを見て頂くためにも、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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