映画コラム

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2018年08月30日

なぜ芸能人も大絶賛?『カメラを止めるな!』人気を改めて分析してみた

なぜ芸能人も大絶賛?『カメラを止めるな!』人気を改めて分析してみた



(C)ENBUゼミナール


2018年の映画界は上半期のトレンドが『バーフバリ 王の凱旋』だとしたら、下半期は間違いなく『カメラを止めるな!』だろう。6月23日に公開が始まった当初はたった2館での上映ながら、口コミで評価が広まり連日各回上映が満席になる勢いに。8月に入って人気は衰えるどころか全都道府県制覇&上映劇場225館以上(予定含む)に拡大という展開を見せている。

もはや社会現象ともいえる『カメラを止めるな!』旋風は映画ファンのみならず、多くのニュースメディアに取り上げられたことで一般層にまで認知されることになった。上田慎一郎監督にとっては奇跡を起こした作品であり、観客にとっては“本物の娯楽邦画”となった本作。一体なぜここまで人気が拡大し、多くのファンを生み出すことになったのか? 本作の魅力は“ネタバレ厳禁”という言葉に全てが集約されるほど解説の難しい作品だが、今回は前半ネタバレなしで、後半ではなぜ芸能人までもこぞって絶賛するのか一歩踏み込んだ分析をしてみたいと思う。



(C)ENBUゼミナール



“ネタバレ厳禁”で拡大したカメ止め人気


繰り返しになるが、『カメラを止めるな!』の肝は“ネタバレ厳禁”のストーリー構成にある。SNSやレビューサイトでも散々念押しされて内容自体があまり見えてこないので、未見の方にとっては「またか」と思うかもしれないが、こればかりは映画の作法を超えた、もっと意味と価値のある“ネタバレ厳禁”として受け止めて頂くしかない。

本作で描かれるのは、ある撮影チームが人里離れた廃墟で“ゾンビ作品”の撮影をしていたところ実際にゾンビの襲来に遭ってしまい、相次ぐ異常事態にも「カメラは止めない!」と狂気を宿したような監督も加わってパニックに陥っていく──というもの。スタッフが一人また一人とゾンビに襲撃され“ゾンビ化”していく中で、ヒロインが叫び逃げ惑いつつやがて立ち向かっていく姿はある意味で王道のホラー映画展開だといえる。

もちろん“それだけ”の内容でここまで人気を博すとは正直全く言えないのだが、実は37分間におよぶファーストカットに本作の巧妙かつ絶妙な脚本の魅力が遺憾なく発揮されていることに驚かされる。まず観客は冒頭からその“ファーストカット=ワンカット”の映像に放り込まれることになる。映像がワンカットで撮影されていることはすぐに気づくと思うが、そうして途切れることなく続く映像に不穏な気配も胸の中に宿り始めるはず。やがてそれは時おり“違和感”となって頭をもたげることになるのだが、もちろん映像は止まることなく続いていく。“ゾンビの襲撃”と幾度となく垣間見える“違和感”が交互に観客に提示されながらもついにカットが途切れる瞬間がやってくるのだが、では本作の“2カット目”以降はどのような場面が展開していくのか。それがやはり重要なカギであり、「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」というコピーが示す意味が明確になる。



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実は映画全体の構成を俯瞰して見ると、思いのほかシンプルであることに気づかされる。その構造の中で入念に伏線を張り巡らせそして回収していくわけだが、その“入念”ぶりがとにかく尋常ではないレベルだ。その結果、鑑賞後に観客は外に向かって「何も言えない」感想しか書くことができず、“ネタバレ厳禁”という言葉(いわば概念)が『カメラを止めるな!』とともに大きく成長することになった。

人間とは不思議なもので、やはり「何も言えない」「ネタバレ厳禁」などと言われれば中身が気になり始める。作品を鑑賞した彼ら彼女らが劇場で「いったい何を見たのか」「何を経験したのか」を知りたいという欲求が芽吹き始め、観客が溺れた豊穣なアイデアの深淵の先を覗き込みたくなる。しかも本作の場合、SNSには少なからず存在するデリカシーなくネタバレをかましてしまう厄介な人々すら“黙らせた”ことが功を奏した。例えばツイッターには「ふせったー」という伏せ字投稿機能があり、もちろんそれを使って核心部に踏み込む人もいるがそれを“見る”かどうかは自己責任。本作では“誰も何も語れない”ことが興味を掻き立て、しかも実際に劇場に足を運んでみればめっぽう面白い作品が観られるというのだから、その感染力が半端ないというのは無理もない話だ。

カメ止めを愛しカメ止めに愛されたキャストたち


作品の面白さに加えて、本作は観客と“中の人たち”の距離が近い点も作品の親しみやすさに繋がっている。キャストに名の知れ渡ったような俳優は一人もおらず、本作を紹介する際にどうしても「無名のキャスト」という枕詞が先にきてしまっていた。今回、作品に集まったキャストはオーディションによって選ばれ、その人物にあったキャラクターが作られていったという。そんなキャスト陣がどれだけ作品に情熱を注いだのかは見ての通りだが、公開当初からキャスト陣が劇場を訪れサプライズ的に舞台挨拶を行っていたのは有名。実際に筆者が鑑賞した際にも(十何年ぶりに“立ち見”を経験した)二人のキャストがスクリーン前に登場した。



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“出演したら終わり”ではなく、キャストが一丸となって上映劇場を駆け巡ったおかげで、観客がより身近に作品を感じられるようになった部分は大きい。それだけキャスト陣が作品を愛しどれだけの想いが込められたものか直に触れることができ、こればかりは大手配給を通さない自主製作体制の強みが濃く反映された結果なのだろう。上映が終われば観客の見送りに立ち、一人ひとり丁寧に声をかける姿からはこの作品を成功させたいという思いが伝わってくるし、ムーブメントを巻き起こした今でも各地の舞台挨拶へと飛び回っている。作品がキャストを愛しキャストも作品を愛した結果、観客もまた作品とキャスト(キャラクター)を愛した。そんな連鎖が少なからず『カメラを止めるな!』という作品のムーブメントを支える一因となったのではないか。

さて。後半からは本編に一歩踏み込んだ文章となるので、できれば鑑賞を済ませてから読むことをお勧めしたい。

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