身体が勝手にミュージカル!?『ダンスウィズミー』矢口史靖監督&三吉彩花対談

「ミュージカルって、どうして突然歌い出すの?」

華やかな歌と踊りで繰り広げられる楽しいエンタテインメント“ミュージカル”ではありますが、一度そういう風に疑問に思ってしまうと、どうしてもそれ以降は素直に観られなくなる?
(私自身カミングアウトしますと、突然歌い出す類いのものはさほど違和感はないのですが、全編の台詞が歌になっているオペレッタ形式のものは少し苦手だったりします)

しかし、もしあなたが催眠術をかけられて、音楽を聞くとその場で歌って踊ってしまう体質になってしまったとしたら? これはもう十分説得力を持ったリアルなミュージカルになりますよね……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街400》

映画『ダンスウィズミー』のヒロインこそは、まさにそんな風にして歌って踊るミュージカルOLにさせられてしまった不幸な乙女(?)。

今回はそのヒロイン静香を演じたと三吉彩花さんと、これまで誰も思いつかなかった奇想天外な発想で今までになかった新しいミュージカル映画を見事に実現させた矢口史靖監督をお招きして、作品の魅力をお伺いしてみることにしました!

オーディションのとき
三吉彩花は不機嫌そうだった!?

──『ダンスウィズミー』楽しく拝見させていただきました。特に今回は矢口監督の初期作品群に顕著だった、怒濤の巻き込まれ方コメディのノリを彷彿させられるものがありました。後半も監督がお好きなロード・ムービー仕立てになりますし。

矢口 そうかもしれません。『裸足のピクニック』(93)とミュージカルをまぜちゃったみたい感じは確かにありますね。

──三吉さんはこれまで矢口作品をご覧になったことは?

三吉『裸足のピクニック』はまだ拝見できてないのですが、私は『ウォーターボーイズ』(01)がすごく好きで、あの作品は私が生まれて間もない頃の作品なのですが……。

矢口 生まれて間もない……!?(笑)。

三吉(笑)『ウォーターボーイズ』はうちの地元の学校がモデルだったこともあって、私の親の世代が夢中になったようで、みんな矢口監督のことを知ってるんです。ですから今回私が矢口監督の映画に主演するって両親に伝えたときも「え、矢口監督ってあの『ウォーターボーイズ』の!?」と(笑)。

──それにしましても、今回のアイデアは矢口監督ならではの卓抜したものですね。

矢口 実は自分にとってミュージカルって、好きだったり嫌いだったりを行ったり来たりしているというのが真相で、何だかんだ言いながらもついつい見てしまったりもするし、ミュージカル・シーンそのものの素晴らしさに感銘を受けることもよくあります。ただ、ミュージカルが苦手な人ってみなさん「突然歌い出すのがダメなんだ」っておっしゃいますよね。

三吉 私自身はミュージカルは大好きで、舞台も映画も見に行きますし、特に抵抗もないんですけど、確かに私の周りの友達にも「苦手だ」とか「リアル感がない」とかいう人もいたりして、確かに言われてみれば……というのも無きにしも非ずではありますけど(笑)、でも今回の作品はそういった方々でもすっきり見ていられる視点の作品ですので、そこもすごく面白いなと思います。何よりも、いつかは挑戦してみたいと思っていたミュージカルに、こんな早く出られることになろうとは思ってもみませんでした。

──監督はオーディションの際に、三吉さんが不機嫌そうにしていたのがよかったと。

矢口 そうそう、すごく不機嫌だったんです(笑)。

三吉 いえ、決して不機嫌だったわけではなくて(笑)、緊張してたんですよ。歌とダンスとお芝居をするオーディションだったんですけど、ダンスも難しくて、歌も歌ったことのないジャンルのものだったので、当日はとにかく不安でにこやかにしている余裕もなかったんです。

矢口 でも実はそれが良かった。主人公は女友達とワイワイキャッキャと仲良くしているようでいて、そうではなくて裏がある。そして実際に歌って踊っちゃうと「しでかしてしまった後悔」から、ズーンと落ち込んじゃうわけです。そういう日常生活のリアリティと歌って踊るミュージカルの差が大きければ大きいほどいいわけで、その点でも彼女は歌やダンスのときと普段とで激しい差があった。そこが合格のポイントだったんです。

エンタメの名優・宝田明が演じる
いかがわしい催眠術師!

──リアルな日常にミュージカルを持ち込むために催眠術を導入するというのも素晴らしいアイデアですが、それはパッと閃いたのですか?

矢口 どっかから降ってきましたね(笑)。ただ、昔から催眠術のことは好きだったんです。でも映画に出てくる催眠術って、殺人の道具とか怖いものという扱いでした。

──日本のミュージカル・エンターテインメントの第一人者でもある宝田明さんがその催眠術師マーチン上田を演じるというのもユニークです。

矢口 実は恥ずかしながら宝田明さんが旺盛にやられていた時期の舞台は見たことがなかったのですが、ディズニーアニメ―ション『アラジン』(93)の日本語吹き替え版でジャファーの声と歌の両方をやられていたのがすごく印象に残っていたのでお願いしてみたら、即了承していただけてすごく嬉しかったですね。

──華麗さといかがわしさを両立させているあたりも、宝田さんならではの魅力ですね。

矢口 クランクアップの日に三吉さん、いきなりキスされたんだよね(笑)!

三吉 ね(笑)!

矢口 三吉さんのほっぺにチュッ。その後、やしろ優さんを抱きかかえて唇を奪う!(笑)。

三吉 でもそれがサマになるとでもいいますか、さすが宝田さん!って、逆に拍手したくなるようなほどでした(笑)。

矢口 そう、まさにホンモノ(笑)。撮影中も「今日は何をやらかしてくれるんだろう?」って。

三吉 毎日がドキドキでした(笑)。

──ところで三吉さんご自身は、催眠術って?

三吉 私自身は正直半信半疑なんですけど、ただ今回やしろ優さんが生のタマネギを食べるシーンがあって、そのときリンゴのように甘く感じられるよう催眠術をかけてもらったら、本当にやしろさんが美味しそうに食べたのを現場で目の当たりにしたときは、さすがにすごいと思いました。

矢口 僕は催眠術信じてるんですけど、全然かからないんですよね。きっと心が荒んでるんです(笑)。

三吉 そんなことはないですよ!(笑)

ビデオ・コンテを用いて
ミュージカル・シーンを撮影

──映画の話に戻りますと、リハーサルはかなり時間をかけて行われたそうですね。

三吉 そうですね。準備にはかなり時間をかけましたし、私自身撮影期間よりも準備期間のほうがしんどかったです。特に最初の頃は、正直日本でここまでのコメディ・ミュージカル映画はないってこともあって、ダンスや歌のスキルがなかなか追いつかなくて「どうしよう!」という焦りながら練習してました。とにかく回数を重ねるしかなくて、でもやしろさんや三浦貴大さんなどみなさんと一緒に踊るシーンのとき、みなさん抱えてる不安は同じなんだってことがわかり、それを共有しながらポジティヴにモチベーションをあげていく安心感が生まれたので、撮影に入ってからの不安はそんなになくなってました。ただかなりの曲数でジャンルの幅も広かったので、この作品で相当体力もメンタルも鍛えられました(笑)。

──矢口監督の演技指導ということではいかがでしたか?

三吉 これまでご一緒させていただいた監督さんの中ではとても役者に寄り添って、言葉を選んで演出してくださる監督さんだなという印象があります。たくさんテイクを重ねて焦ってしまったシーンがあったときも、みんなよいものが撮れるまで待ってくださる体制が整っているとでもいいますか、時間が経つとだんだん誰かしら疲れやイライラが見えてきたりっていうことがありますけど、矢口監督の組はスタッフさんも誰一人怒る人はいないし、とてもおだやかでみんな納得できるものを作りたいというのがこちらにも伝わってきて、それが安心感に繋がって、とても信頼できました。

矢口 ものすごい模範解答(笑)。

三吉 一言一句、ぜひ使ってください(笑)。

──ミュージカル・シーンではビデオ・コンテを作られたそうですね。

矢口 はい、ミュージカル・シーンは早めから自分で絵コンテを描いて、それをスキャンして、音楽合わせで見られるようにしておいたんです。コンテでカットを細かく割ったはいいけど実際は撮れないというのも勿体ないので、無駄なくきっちり必要な部分を撮っていこうということで。ただお芝居に関しては当日の朝にコンテを描く。これはいつも通りです。

そのシーンに合う歌詞の
エヴァーグリーンな歌を選曲

──楽曲のチョイスですが、マスコミ用の宣材には「40代以上の人もわかるような歌」となってますが。

矢口 実は結果的にそうなっただけなんです。今回のコンセプトとして、そのシーンにピッタリあった歌を選ぶというのがあったのですが、要するに歌詞の内容ですよね。たとえばレストランのシーンですと、イケてる彼氏を捕まえて「今に乗るわ、玉の輿」という彼女の気持ちが《狙いうち》の歌詞にぴったりはまるんです。マーチン上田を探してるときも「探し物は何ですか? 見つけにくいものですか?」ということで《夢の中へ》に行き着く。実際シーンと関係ない歌をどんどんぶち込んじゃう映画もありますけど、やはりそこには必然があるからこの歌が出てくるというものを、しかも絶対古びないエヴァーグリーンな曲を当てはめていったら、こうなっちゃったという感じなんです。

──《ウエディング・ベル》がかかると、そこで何が起きるかの想像がつく。

矢口 とおもうでしょ? 《ウエディング・ベル》を知らない若いスタッフも多くて、この映画のために作ったものと勘違いしている子もいました。まあ新曲と捉えてもらっても、僕は構わないんですけど(笑)。

三吉 私も《ウエディング・ベル》は知らなかったんですけど、あのシーンにぴったりですよね(笑)。実際、このフレーズは知ってるけど1曲丸々は知らないとか、逆に1曲丸々知っているものは少なかったです。

──これぞ矢口映画ならでは! と唸らされるのが、華麗なミュージカル・シーンを魅せた後で、グチャグチャになった現実の風景を見せてしまうところですね。

矢口 ミュージカル映画って数多くありますけど、ミュージカル・シーンの後で実は大変な騒動だったってことを描いたものは皆無に等しいんですよね。実際に街とか高速道路とかで歌ったり踊ったりしたら大抵メチャクチャになりますよ。もう捕まらないほうがおかしい(笑)。そういう今までのミュージカル映画が無視していたところにあえて目を向けて「ちょっと待った!」とやってみたかったんです。

──演じるときはミュージカルと現実、どちらを先に撮られていたのですか?

三吉 ほぼ順番通りでした。会議室のシーンなら、そこに入ってきて普通にしていたら音楽が鳴り出して、ひとしきり踊ってから「あ、やっちゃった……」と(笑)。その落差がコメディの要素として面白く描けていると思いますし、それがあることでよりリアルに観客のみなさんに受け止めていただけるのではないかと思って、楽しみながら撮影していました。

──ただ、あのあたりのダンス・シーンはほぼハイヒールで踊ってますよね。実際のところ痛かったりしませんでしたか?

三吉 シューズとか安全なものを用意してくださっていたので、さほど辛くはなかったです。ただ撮影そのものに時間はかかりましたので、途中で氷で冷やしたりとかはしていましたね。

運命に巻き込まれながら
女たちが成長していく映画

──後半はロード・ムービー仕立てになっていきますが、そのあたりは?

三吉 やしろさんとchayさんと3人でライヴをしてお金を稼ぎながら各地を渡り歩いていきますけど、撮影そのものも楽しかったし、またその道中でいろいろな人に会いながら静香も大人になっていくとでもいいますか、身に着けているものをどんどん剥がしていきながらナチュラルな自分に戻っていく。今回は意外とストーリーの時系列に沿った撮影でしたので、感情もどんどん静香と一緒になって成長していく感じでお芝居できていたような気がします。やしろさんは映画をご覧になって、ラストで私が笑う寄りのカットを見て、泣きそうになったって(笑)。

矢口 それは出来上がった映画を見て?

三吉 そうです。でも実はそのシーンを撮影しているときから「今の彩花ちゃんの顔見てたら、もう泣きそうになっちゃったよぉ!」って言ってたんですよ(笑)。そんな風に、演じる側もみんなどこかリアルに感情を感じながらやれていたのかなと思いますね。

矢口 やしろさん演じる千絵のスタンスに関しても、見終わった方々の反応を聞いたりしますと「思った通り!」というところはありますね。単にお笑い芸人の人に芝居させてみましたということではなく、ちゃんとキャラクターが存在している感じを出したかったし、静香と千絵という絶対出会わなそうなふたりが偶然出会って旅をしていくことで、一生ものの友情が結ばれていくところが見た方々に伝わってくれたらいいなと。

──ミュージカル映画であり、ロード・ムービーであり、その旅を通して女たちが成長していく映画。しかもスクリューボール・コメディのように、どんどん運命に巻き込まれていきながら展開していく。これぞ矢口映画の醍醐味であり、そういった本来の資質がフルに発動した原点回帰の中に、ミュージカルという新しい挑戦を施した作品のように思えます。

矢口 気がつくと、そういう映画になっちゃってました。僕自身、緊張と笑いと何が起きるかわからない予測不可能なところを、登場人物と一緒になって観客のみなさんも楽しんでいただけたらと思いながらいつも演出していますし、今回もそういう映画だと受け止めていただけたら嬉しいですね。

(撮影:生熊友博、取材・文:増當竜也)

(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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