『ダウンレンジ』が絶対恐怖的『この世界の片隅に』であった嬉しい驚き!

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北村龍平監督といえば、それこそ現在大人気の『カメラを止めるな!』に先駆けること20年以上前から『DOWN TO HELL』(97)『ヒート・アフター・ダーク』(99)『VERSUS―ヴァーサス―』(01)といったヴァイオレンス映画をひっさげて日本映画界に殴り込みをかけ、インディペンデント・パワーを高らかに謳い上げたタフガイ監督で、その後も『あずみ』(03)『ゴジラFINAL WARS』(04)や実写版『ルパン三世』(14)といった話題の大作の監督に抜擢され、大任を見事に果たしてくれた頼もしきアニキ的存在でもあります。

しかし一方で彼の活動は狭い日本に留まることなく、ロサンジェルスに拠点を移してクライヴ・バーカー原作のホラー『ミッドナイト・ミート・トレイン』(08)、バイオレンス・スリラー『NO ONE LIVESノー・ワン・リヴス』(12)と、アメリカ映画を続けて監督。しかも前者はブラッドリー・クーパー(『アメリカン・スナイパー』14『アリー/スター誕生』18)、後者はルーク・エヴァンス(『ドラキュラ・ゼロ』14、『美女と野獣』17)と、現在押しも押されぬハリウッド・スターのブレイク前に彼らを主演に起用するといった先見の明も大いに讃えられるべきでしょう。

そんな北村監督のアメリカ進出第3弾『ダウンレンジ』が、9月15日よりいよいよ日本上陸となります。

この作品、実は『この世界の片隅に』のプロデューサー真木太郎が製作総指揮した作品でもあるのですが、その中身は……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街333》

まさに“この世界の片隅に”て起きた地獄そのものを描いたソリッド・シチュエーション・スリラーなのでした!

荒野に残された若者たちを
理不尽に狙う狙撃者の恐怖

灼熱の日差しが照りつける荒野を走る一台の車のタイヤがパンクしました。

車に乗っていたのは、相乗りした6人の大学生男女。

彼らはタイヤを交換しようとしますが、そこでひしゃげた銃弾を見つけます。

タイヤはパンクしたのではなく、実は撃ち抜かれていた……?

そして彼らは、既に何者かの射程圏内に入っている!?

まもなくして、銃弾が次々と容赦なく放たれていきます。

ケータイの電波も不安定で、滅多に車が通ることもない広大な一本道で、若者たちはひとり、またひとりと……!

映画『ダウンレンジ』は、悲鳴を上げても誰も助けに来てくれない荒野の中、謎の狙撃者のマンハントの標的にされていく若者たちの恐怖と壮絶な運命を描いていきます。

タイトル“DOWNRANGE”とは、銃弾の射程圏内を指す用語で、兵士たちの間では“戦闘地帯”を表しているとのこと。

のどかな山道が一転して地獄と化していく中、若者たちはどうやって危機を脱出するのか? そもそも脱出できるのか? といった緊張感が、絶望と希望を巧みに交錯させながら、およそ90分の上映時間ずっと持続し、見る側にいささかも気を緩ませる暇を与えません。

しかし、こういった残酷極まりない状況下のバイオレンス映画でありながら、そこから不思議と詩情に満ちた情感が醸し出されていきます。

それはかつてのアメリカン・ニューシネマの、ひいては往年の西部劇の抒情とも比較できる秀逸なもので、これこそは北村監督ならではの卓抜した映画的美意識の顕れともいえるでしょう。

「暴力的で美しくチャレンジングな映画」
(インタビュー)ステファニー・ピアソン

では、ここで6人の若者のひとりケレンを演じたステファニー・ピアソンさんの話を聞いてみましょう。

子役出身で現在若手女優として活動中の彼女、実は3カ月ほど日本(大阪)に住んでいたことがあるとのことで、たまたま今年の春に再び日本を訪れていたところをお声がけし、貴重なお時間をいただくことができた次第です。

── 今回の役はオーディションで勝ち取ったものですか?

ステファニー・ピアソン(以下、SP):そうです。オーディションを受けてコールバックされ、そこで初めて北村監督に会いました。実はそれまで誰が監督でどんな映画であるかは、具体的に知らされていなかったのです。衝撃的な内容ですから、あえて表に出さないようにしていたのかもしれませんね。

──では、その後で内容を聞かされて、かなり驚いたのでは?

SP:それはもう!(笑)ただし脚本を読みますと、暴力的で残酷な描写とは対照的に、空がゆっくり暗くなっていく様子とかの情景描写がとても美しく描かれていたんです。とてもチャレンジングだと思いましたし、事実、完成した作品も北村監督がビジュアル面とストーリーの両方で魅力的に具現化してくれています。

──北村監督の作品は何かご覧になってますか?

SP:『ミッドナイト・ミート・トレイン』や『ノー・ワン・リヴス』などを見ましたが、『ゴジラFINAL WARS』をまだ見てないのは監督に内緒です(笑)。彼の作品はいつも議論を起こしますよね。ルール・ブレイカーだと思います。でもそれは自分のやりかたに対する強い信念を持っているからであって、だからこそ何があっても彼についていくという人がたくさんいます。私たちキャストも同様でした。

── 北村監督そのものの印象は?

SP:実は最初のリハーサルのとき、時間を間違えて1時間以上も遅刻してしまったんです。しかもドアは鍵がかかっていて、窓から中を覗いたら監督が怖い顔をして腕を組んでいて……。その日は私のキャリアの中でも最悪の一日でしたね(笑)。でも後で監督に謝って事情を話したらわかってもらえて、それ以降は良好な関係を築けたと思っています。彼はすごく思慮深く、自身のヴィジョンを私たちキャストに明確に説明してくれるので、仕事がすごく楽しめました。

── では、あなたが演じたケレンに関しても、いろいろディスカッションを経ながら役作りしていったのでしょうか?

SP:ええ、ケレンの生い立ちや旅の目的、グループ内での立ち位置などを通して、彼女がいかにみんなの支えとなっているかなどの話をしました。彼女がいなくては、状況はあっという間に悪くなっていたはずです。

── 軍人の娘という設定が、劇中ではすごく効いてますね。

SP:北村監督の『ミッドナイト・ミート・トレイン』にはブラッドリー・クーパーが出演していますが、その後彼は『アメリカン・スナイパー』で軍のスナイパーに扮していますよね。だから私はずっと、彼のことをケレンのお父さんだと思いながら演じていました(笑)。

──撮影の期間はどれくらいだったんでしょうか?

SP:オーディションからクランクアップまで4ヶ月ほどでした。撮影そのものは1ヶ月と少しですね。

── 映画を見ていると日中はかなり暑く、夜は寒い中での撮影だったと思われましたが?

SP:観客のみなさんの目から見て感じられることの多くは本当です(笑)。それに私たちが予想もしなかったのは、撮影で使用した血糊が糖分ベースのシロップだったことで、おかげでハエやアリ、それにスズメバチなどが本番中もずっとあたりを歩き、飛び回っていたんですよ。もっとも撮影が終わる頃には、ハチが顔に止まっても動じなくなってましたけどね(笑)。

──宿泊所からロケ地は遠かったんですか?

SP:私たちはみんなロサンゼルスに住んでいましたので、そこから毎日撮影現場まで1時間以上かけて車で行ってました。通うのが何とか可能な距離ではあったわけですが、やはり過酷な撮影の後、自分の家で温かいシャワーを浴びて、自分のベッドで寝起きできるのはありがたいことでしたね。また毎日の長い行き来の時間を通して、私たちキャストはみんな仲良くなりました。あのような才能ある共演者と一緒に仕事ができるのは素晴らしいことです。このプロジェクトはロケーションがすごく小規模なので、その分どうやって作品を面白くするかを、常にみんなで考えましたね。観客は同じような風景をずっと見ているわけですから、だからこそ視覚的に面白く見せ続けることが最大の挑戦だったんです。

── 撮影中は危険なことなどありませんでしたか?

SP:実は当時、山火事が多く起きていまして、撮影中止の可能性を考えるほど近くまで火が迫ってきたことも2回くらいありました。あたりは常に乾燥していて埃っぽかったですし、あるときスタッフが「火事だ!」と叫び、瞬く間に電気機器の焦げ臭い匂いが現場に充満してきたこともありましたが、幸運にも彼がすぐに声を上げてくれたおかげで消し止めることができました。

──現場での北村監督の演技指導などは?

SP:監督はリハーサルの際に、たくさんの良いディレクションを私たちに与えてくれました。撮影現場では「もっとエネルギッシュに! もっと怒りを!」とか「もうちょっとワァァァァァッと!」みたいに擬音のようなアドバイスも多かったですね(笑)。撮影そのものも順撮りでしたので、シーンの順を追って役を体験できるという意味でも演じやすかったです。監督はひとつひとつのショットをすごく計算されていて、恐らく1日あたり80セットアップは撮っていたと思います。これは通常の2倍以上の量で、本当にエネルギッシュでした。

── 完成した作品をご覧になっての感想は?

SP:とても感激すると同時に、驚きもいっぱいありました。何が起こるのかも、キャラクターの誰がどう殺されていくのかも当然知っているのに、それでも手に汗握りましたね。この作品はノンストップのサスペンス・スリラー映画として、絶望と希望が猫とねずみの追いかけっこのように繰り返され、かと思うとじっと焦らし続けたりもして、観客を楽しませ続けるレイヤーがたくさんあるんです。ケレンがどういう結末を迎えるのかも、観客には予測できないほどスリリングに映画は進んでいきます。私自身、最初に脚本を読んだときにとても驚きましたので(笑)。

──また北村監督の映画に出演したいですか?

SP:もちろんです。北村監督の才能と仕事に、私たちは大きなリスペクトを抱いていますので。みんな「何でもやりますよ、ボス!」と言っていますよ。

見逃し厳禁の
真のエンタテインメント!

ステファニー・ピアソンさんが語る通り、この作品はノンストップ・サスペンス映画としての展開の中、極限状況下で理不尽に尊い命が奪われ、残された身体が肉の塊と化していく残酷極まりない暴力的諸描写と、それでも人が必死に生き抜こうとするさまの詩的なまでの美しさが見事に両立しています。

即ちデスゲームとしての人間狩りの惨状を徹底的に描ききることで、人が誰しも原初的に備え持つ生存欲を見る者の心に蘇らせるとともに、無慈悲かつ不可思議な生と死の関係性にまで想いを馳せさせてくれる秀逸なものに仕上がっているのです。
(その意味では『この世界の片隅に』とも大いに呼応しあう要素があるように思えてなりません)

こういった作品こそを真のエンタテインメントと呼ぶべきであると、私は思います。

いずれにしましても『ダウンレンジ』という名のノンストップの絶対恐怖、映画ファンならずとも見逃すのはあまりにも勿体ないと強く訴えておきましょう。

怖いものが苦手な方も、ちょっとばかし勇気を出してみてください。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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