クリント・イーストウッドはスターであると、『運び屋』『サッドヒル~』で再確認!

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今の若い映画ファンにとってクリント・イーストウッドは、かつて俳優だったが今は映画監督として80代になっても秀作を連打し続けるパワフルな巨匠といったイメージでとらえられているのではないでしょうか?

しかし20世紀、もしくは昭和の時代から映画を見始めた私らのような世代からすると、最近のそういった風潮にはちと不満を抱きたくなるときもあります。

そう、私たちにとってクリント・イーストウッドとは、『荒野の用心棒』をはじめとするマカロニ・ウエスタンはもとより『ダーティハリー』シリーズなどを代表とする映画スターなのです。

もっとも、さすがに齢80を越えて彼が演じ隊と思う役も少なくなってきたか、それよりも少しでも多く監督として映画の現場に携わっていたいという表れが、ここ数年の彼のスタンスでもあったように思います。

しかし、ここに至ってついに、クリント・イーストウッドが主演する映画が登場しました。

主人公は何と90歳のドライバー!

そんなぶっとんだ設定の快作に加え、同時に彼が半世紀前に主演した映画をめぐる素晴らしきドキュメンタリー映画も公開されます……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街366》

前者の邦題は『運び屋』、後者は『サッドヒルを掘り返せ』。そう、この2作こそ長年イーストウッド・ファンおよび映画ファンが真に待ち望んでいた彼の“映画”なのではないでしょうか!

90歳の老人が『運び屋』と化す
痛快エンタメ・サスペンス

『運び屋』の主人公は90歳の老人アール・ストーン(クリント・イーストウッド)。

元退役軍人でもある彼は、高級ユリの生産に勤しみますが、その分家庭はほったらかしで、娘の結婚式にも欠席してしまう始末。

それから数十年後、アールの事業はネット・ショッピングの普及に対応しきれず、ついに自宅も農園も差し押さえられてしまいます。

そんな90歳の孤独な彼でしたが、あるときメキシコ人の男から車の運転の仕事を勧められ、それを難なくこなしたところ、法外な報酬を手に入れます。

実は彼が運んでいたのは麻薬だったのです。

そのことに気づいたアールでしたが、ためらいつつも生きるためにその後も幾度となく仕事を引き受けます。

しかし、やがて麻薬取締局の捜査官コリン(ブラッドリー・クーパー)の捜査が始まり、同時にマフィア内でも揉め事が起き、そのトラブルにアールも否応なく巻き込まれていくのでした……。

本作は実在した87歳の運び屋をモデルにクリント・イーストウッドが製作・監督・主演したものです。

正直多くの映画ファンは、本作と同じく車を重要なツールとした監督・主演作『グラン・トリノ』(08)で俳優としての己を全うし、後進のロバート・ロレンツが監督した『人生の特等席』(12)を最後に俳優業を引退したものとばかり思い込んでいたのではないでしょうか。

その後はほぼ1年に1本のペースで新作を監督し続けていったイーストウッド、そのバイタリティは驚嘆に値するものがありますが、しかし今回久々に彼は演じてみたい役柄と巡り会えたようです。

この主人公、世間的にはイキな男にみえるでしょうが、家族からすると正真正銘のダメ親父で、あと10年で100歳になるというのにまだ女の尻を追っかけ回したがっている節もあります。

元軍人ということもあってか言葉遣いも荒っぽく、今では差別用語とみなされているような単語もごくごく普通に放っては良識派を戸惑わせたりもしています(彼自身には差別意識がないのもわかるので、よけいに相手は困ってしまうといった図式です)。

これまでイーストウッドはさまざまな役を演じてきましたが、こういったイキで頑固でどこか不器用で……といった男は十八番といってもいいほどでしょう。

もうこちらとしては、今見ている映画の中に彼がいるという、ただそれだけの事実で感激してしまうものがあるのです(それこそ彼が映画スターである所以でもあります)。

さまざまな人種の若い衆を手玉にとるロートルならではの自信も彼ならでは。

またイーストウッドは不思議と自作の中でやたらヌードになりたがる傾向があるというか、それは年を経るごとに顕著になっていくのですが(もちろん年齢の割にはいい体ではありますけど……ねえ)、今回もほんの少しですけど脱いでます。その意味では一貫しています。

また『アメリカン・スナイパー』(14)のブラッドリー・クーパーや『ミリオンダラー・ベイビー』(04)のマイケル・ペーニャ、イーストウッドの愛娘で『タトロープ』(84)のアリソン・イーストウッドといったイーストウッド映画出演のキャリアを持つ者から、ダイアン・ウィースト、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシアなど芸達者が多数今回のために見参していることも嬉しい事象ではあります。

果たしてこのアールじいさんの奇想天外な人生、どのような結末を迎えるかは、ご自身の目で確かめてください!

『続・夕陽のガンマン』のロケ地
『サッドヒルを掘り返せ』

『運び屋』が日本公開される3月8日、奇しくもクリント・イーストウッドに関係した1本のドキュメンタリー映画が公開されます。

『サッドヒルを掘り返せ』、この“サッドヒル”という言葉だけでピンと来た人はかなりのイーストウッド・マニアといっていいでしょう。

サッドヒルとは、クリント・イーストウッドが主演したセルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタンの傑作『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(66)のクライマックスとなる、およそ5000もの墓標が円形に配置された巨大墓地の名称です。

『続・夕陽のガンマン』の英語原題は“THE GOOD,THE BAD,AND THE UGLY”ですが、このサッドヒルにて“THE GOOD(良い奴)”クリント・イーストウッドと“THE BAD(悪い奴)”リー・ヴァン・クリーフ、そして“THE UGLY(卑怯な奴)”イーライ・ウォラックが映画史上に残る三つ巴の大決斗を繰り広げたのでした。

アメリカの本場西部劇とは一線を画し、イタリアとスペインの合作スタイルで作られ続けたマカロニ・ウエスタンの場合、大概スペインのマドリード地方で撮影が行われがちでしたが、『続・夕陽のガンマン』のサッドヒルもマドリードの北方250キロに位置するミランディージャ渓谷に建てられたロケセットでした。

しかし映画の公開から時を経て、そのロケ地が荒れ果てた荒野と化していたことを知った地元の映画ファンたちが、そこを掘り返し、サッドヒルを復元しようとする様子を記録した画期的な映画、それが『サッドヒルを掘り返せ』なのです。

現在、映画やアニメのロケ地を訪れる“聖地巡礼”は世界共通のものとなっているようですが、荒れ果てたロケ地を自分たちの力で蘇らせるとは、並大抵のことではありません。

しかし映画ファンなら誰しも、自分もそういったものに参加してみたいと思うのではないでしょうか。

現にこのプロジェクトもインターネットを通じて世界中からボランティアが集まってきます。

理由はただ一つ。

『続・夕陽のガンマン』が大好きだから!

やがて彼らの労苦は報われ、『続・夕陽のガンマン』撮影50周年を記念するイベントが、蘇ったサッドヒルにて開催されます。

そして、そこにある奇跡が……!

それが何であるのかは見てのお楽しみとして、やはりこの作品を見ていて痛感させられるのは『続・夕陽のガンマン』という作品および監督セルジオ・レオーネの偉大さと、それに主演したクリント・イーストウッドのカリスマ性です。

およそ半世紀以上の月日を越えても、主演映画が色あせることなく熱く映画ファンの間で語り継がれていく……。

サッドヒルを掘り返す作業も、その一環なのです。

本作はそういった映画ファンならではの熱さと並行して、『続・夕陽のガンマン』の制作に関わった人々や作品のファンである著名人のインタビューなども交えながら、いささかも飽きさせる瞬間など微塵もないまま、感動のクライマックスに突入していきます。

これが日本なら、さしずめ『七人の侍』(54)の舞台となる村を映画ファンの手で再現しようとするものなのかなと、おぼろげに思いつつ(でもさすがにそれは難しいかな)、終始自分が映画ファンでいてよかったと、そしてクリント・イーストウッドのファンでいて本当に良かったと自負させてくれる作品です。

いずれにしましても、クリント・イーストウッドが何よりも偉大なる映画スターであることを楽しく知らしめる『運び屋』と『サッドヒルを掘り返せ』、どちらも等しく必見なのです。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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