映画コラム

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2016年11月25日

『ファンタスティック・ビースト』はハリウッド版ポケモン!ハリポタからアップデートされた差別と偏見とは?

『ファンタスティック・ビースト』はハリウッド版ポケモン!ハリポタからアップデートされた差別と偏見とは?





(C) 2016 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights (C) JKR.


その名を知らない人はいないファンタジー『ハリー・ポッター』の新シリーズとなる映画、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(以下、本作)が現在公開中です。

まずこの場で本作について明言しておきたいのは、以下の2つです。
(1)『ハリー・ポッター』シリーズを観ていなくても、まったく問題なく楽しめる!
(2)『ハリー・ポッター』シリーズに登場する用語や世界観を知っていると、
よりおもしろい!

本作は主人公も舞台も一新して“物語を初めから描く”内容であるために、『ハリー・ポッター』のことを何も知らなくても、それどころか何も予備知識がないまま、いきなり劇場に足を運んでOKなのです。

『ハリー・ポッター』シリーズのファンであると、おなじみの言葉や魔法がたくさん出てくるために、さらにワクワクしながら映画を観られることでしょう。

また、そうしたシリーズから引き継がれた奥深さがありながらも、舞台を一新したことによる、“アップデート”されたメッセージやテーマもありました。ネタバレのない範囲で、以下にその魅力を紹介します。

1:1920年代のアメリカで魔法が溢れ出す!


ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 011


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本作の舞台は1926年のアメリカ、ニューヨークです。『ハリー・ポッター』の舞台は1990年代のイギリスなので、70年近くも前の時代が舞台になっているんですね。

突然ですが、ハイ・ファンタジーとロー・ファンタジーという言葉をご存知でしょうか。

ハイ・ファンタジーとは、魔法などの現象が当たり前になっている世界を舞台にしたもので、『ロード・オブ・ザ・リング』などがその代表です。
一方でロー・ファンタジーとは「ベッドにお化けが現れた!」といった、私たちの住む現実の世界に普通はあり得ない出来事が起きるもの。『ゴーストバスターズ』や『メリー・ポピンズ』がいい例ですね。

『ハリー・ポッター』は、主人公のハリーが現代(今から10〜20年ほど前)のイギリスに住んでいるので、どちらかと言えばロー・ファンタジーに分類されます。しかし、“魔法学校”という不思議な世界が主な舞台となっているため、ハイ・ファンタジーの要素を合わせ持っていると言ってもいいでしょう。

そして、本作は『ハリー・ポッター』に比べると、かなりロー・ファンタジーの比重が大きくなっています。なにせ、その物語は“ニューヨークの街に魔法動物が逃げ出しちゃって、大騒ぎになる!”というものなのですから。

それの何が楽しいって、“現実の70年前ニューヨーク”で、“現実にはない魔法が溢れかえっている”ことです。

この“現実世界に魔法がある”という魅力は、『ハリー・ポッター』にはあまりなかったんですよね(舞台のほとんどが魔法学校なうえ、人間世界で魔法を使うことは禁じられていたのですから)。

現実にも存在する、だけどちょっと古めかしい建造物や美術の中に、“魔法”や“見たこともない動物”が現れるというこのビジュアルこそが、本作のもっとも大きな魅力でしょう。子どもはもちろん、大人も童心に戻ってワクワクできるはず。『ハリー・ポッター』ファンも、新たなファンタジーの魅力に気づけるでしょう。

2:“初めての魔法”を体験できる!


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本作でもう1つ賞賛すべきは、缶詰工場で働いている“普通の人間”が物語の中心にいることです。このジェイコブという男は、“これから魔法に初めて触れる観客”の気持ちを代弁してくれる存在と言えるでしょう。

ジェイコブは初めての魔法に戸惑うも、それ以上にたくさんの感動に出会います。まるで少年のように瞳を輝かせて魔法に触れ、しかも初めて出会った人たちにとても親切で、いざという時に頼りになって……要するに、めちゃくちゃ可愛いらしくて、それ以上にカッコいいのです。小太りのおじさんなのに!

『ハリー・ポッター』のハリーも初めは何も知らない少年でしたが、魔法学校では“生き延びた男の子”として、すぐに“特別な扱い”になっていました。

でも、本作のジェイコブという人間は、最初から最後まで“普通の人間”なのです。偉大な使命を背負うような主人公ではなく、現実にそのままいる平凡な人物にとことん感情移入できるのも、本作の大きな魅力なのです。

何より、ジェイコブの“初めて魔法を体験する感動”が伝わって来るのがうれしいんですよね。

『ハリー・ポッター』は長くシリーズが続いていたので、魔法という不思議な存在も見慣れてしまいがちでした。しかし、本作では“リセット”が行われただけでなく、ジェイコブという普通の人間の感動を通じて、新鮮な魔法の楽しさを届けてくれているのです。

しかも、ジェイコブが“普通”に主人公のニュート・スキャマンダーという人物と接していることも、とても重要になっています。それは……。

3:『ハリー・ポッター』の物語には“差別と偏見”が根付いている?




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実は、『ハリー・ポッター』シリーズには、楽しい冒険だけでなく、差別と偏見という要素も描かれています。

例えば、ホグワーツ魔法学校の寮の1つ“スリザリン”は、魔法族の純血を重要視し、非魔法族の血が混じった者やその出身者を差別する選民思想の持ち主の集まりでした。ドラコ・マルフォイとその父親のルシウスはその代表です。

ハリーがダーズリー家の連中にいじめられたのは、彼らが魔法を忌まわしきものと思い込んでいることが理由の1つでした。ハーマイオニーがガリ勉になったのは、魔法世界で純血以外の者(ハーマイオニーも含む)への偏見や差別があったために、勉強で見返したいという考えがあったことも理由でしょう。

そういう偏見や差別意識を持たないのは、ハリーの親友となるロンでした。彼はおおらかな大家族の中で育ったおかげもあるのか、ハリーのことを救世主などではなく、普通に同級生として接してくれました。

このように『ハリー・ポッター』という作品内では、大きいものから小さいものまで、どこかに差別や偏見が顔を出しているのです。

そして、本作『ファンタスティック・ビースト』でもその要素が脈々と受け継がれていました。主人公のニュート・スキャマンダーは、非魔法族(マグル、またはノー・マジと呼ぶ)と友だちになれなかったり、結婚もできないことを悲しそうにつぶやいたりするのですから。

ニュートが魔法動物と仲良くしているのも、そうした人間や魔法族たちによる差別や偏見に嫌気がさしていたことが理由の1つなのかもしれません。ニュート自身は、魔法動物たちみんなに愛情を注いでおり、差別や偏見なんて持たなそうでしたしね。

また、前述のジェイコブという男は、『ハリー・ポッター』のロンと同じく、“普通”に、偏見なくニュートと接してくれた存在でした。ジェイコブが魔法に感動したしたように、ニュートにとってもジェイコブは新鮮で、とてもありがたい存在だったのかもしれません。

4:舞台がアメリカになったことで、差別と偏見の中身も変わっている?




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『ハリー・ポッター』と本作は様々な要素が地続きになっていますが、舞台がイギリスからアメリカに変わったことで、前述した差別や偏見が示しているものが、少し変わってきていると捉えることもできます。

『ハリー・ポッター』の舞台であるイギリスは“階級社会”がある場所です。上から上流階級、中流階級、労働者階級と分けられており、それは一概には上下関係や優劣を示すものではないのですが、それぞれで教育や交流が制限され、将来の選択肢も限られてしまうという現状があります。

劇中で、前述したような選民思想を持つ者がいたり、“出身などではなく、どの選択をするかが重要だ”というメッセージがあるのは、このイギリスの階級社会への批判とも捉えることができます。スパイ映画の快作『キングスマン』もこの階級社会を皮肉ったメッセージがありましたね。

そして、本作の舞台はアメリカなので、やはり“人種差別”という問題が真っ先に思い浮かびます。もちろん人種差別はアメリカだけでなくイギリスのほか世界中にあることなのですが、黒人への差別意識がまだまだ根強かった1920年代のアメリカで、“差別と偏見”という要素が顔を出すということに、『ハリー・ポッター』とはまた違ったメッセージがあるのではないか、と考えるところがあるのです。

なお、この時代のアメリカは“狂騒の20年代”と呼ばれ、経済、インフラ、新技術などが大きな躍進を遂げていたそうです。同時に女性の働き口も広がり、男女共学も進んでいったのだとか。

ヒロインのティナが単調なデスクワークから捜査官の地位に復帰したいと思っていたり、ジェイコブが缶詰工場の労働から抜け出してパン屋になるという夢を持っていることも、当時のアメリカの労働環境を反映した設定なのでしょう。

主人公のニュートが動物たちに分け隔てなく愛情を注いでいたことは、人種差別の皮肉のようでもありますしね。

5:これはハリウッド版『ポケモン』!?


ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 014


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ちょっと小難しいことも書きましたが、そのようなことを考えなくても、“楽しかった!”という気持ちで劇場を後にできる、素敵な娯楽ファンタジーに仕上がっているのが本作のいいところ。老若男女分け隔てなくおすすめできる1本と言えるでしょう。

また、本作には『ポケットモンスター』っぽさがあったりもします。個性豊かな魔法動物を捕まえようとしたり、その魔法動物を育成しようとしたり、信頼関係を築こうとしたり、さまざまな不思議な力を使って道を切り開くというのは、『ポケモン』の魅力そのままではないですか!

せっかくスマホゲーム『ポケモンGO』が世界的な大ヒットとなり、最新作 『ポケットモンスター サン・ムーン』も発売されたばかりなのですから、「映画でもポケモンの楽しさを味わおう!」という気持ちで劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか?すでにポケモンはハリウッドで実写化が決まっていたりもするのですが、その楽しさをいち早く体験できるチャンスですよ!

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(文:ヒナタカ)

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