映画コラム

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2017年02月28日

もう他人が信じられない!『愚行録』は、「リア充爆発しろ!」映画の傑作!

もう他人が信じられない!『愚行録』は、「リア充爆発しろ!」映画の傑作!

愚行録 ポスター


(C)2017「愚行録」製作委員会



俗に言う「イヤミス」=「読んで嫌な気持ちになるミステリー」の傑作とされている、第135回直木賞候補にもなった、貫井徳郎の長編小説の待望の映画化。それがこの映画『愚行録』だ!

「イヤミス」と呼ばれる作品内容にも関わらず、劇場内には意外にも女性客やカップルが多く、情報に敏感な方たちや原作小説のファンが集まっていると感じた本作。

漢字三文字のシンプルなタイトルから、いまいちイメージが湧きにくい本作だが、果たしてその内容と出来はどうだったのか?

予告編


ストーリー


エリートサラリーマンの夫、美人で完璧な妻、そして可愛い一人娘の田向一家。絵に描いたように幸せな家族を襲った一家惨殺事件は迷宮入りしたまま一年が過ぎた。週刊誌の記者である田中(妻夫木聡)は、改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始する。

殺害された夫・田向浩樹 (小出恵介) の会社同僚の渡辺正人(眞島秀和) 。 妻・友希恵 (松本若菜) の大学同期であった宮村淳子 (臼田あさ美) 。 その淳子の恋人であった尾形孝之 (中村倫也) 。更に、大学時代の浩樹と付き合っていた稲村恵美 (市川由衣) 。次々に田中の取材に当時の状況を答える関係者たち。

ところが、関係者たちの証言から浮かび上がってきたのは、理想的と思われた田向夫婦の、見た目からはかけ離れた実像。そして、証言者たち自らの思いもよらない姿であった。

その一方で、田中も問題を抱えている。妹の光子 (満島ひかり) が育児放棄の疑いで逮捕されていたのだ——。(公式サイトより)


妻夫木聡はもちろん、数々の名優による名演技が続出!


本作鑑賞後の率直な感想は、「こんなに良い俳優が日本には大勢いるのか!」ということ。
昨年の妻夫木聡の大活躍振りは記憶に新しいが、正直ここまで彼が優れた俳優に成長していたとは思わなかった。

本作での彼の役柄が、実は原作では姿を見せないキャラクターだけに、その役作りにはかなりの苦労があったと思う。だが、本作での彼の「受け」に徹した演技の素晴らしさといったら!
微妙な視線の移動や、僅かな表情の変化だけで、「あ、こいつは全く相手に興味が無いな」と観客に理解させる。

更に、今回の演出も実に細かくて上手い!
例えば受け取った名刺の扱い方、その描写だけでその人の性格や人間性をも見事に観客に判らせるなど、役者の演技を生かして魅力を引き出す演出には、「この監督の次回作が早く見たい!」と思わされた。

もちろん、妹役の満島ひかりを始め、本作出演キャストの演技はどれも素晴らしい物ばかりなのだが、個人的にはなんといっても小出恵介の説得力のある「クソ野郎」演技!これに心を奪われたと言っておこう。
正に自分の出世と成功のためにはどんな手段も使う「ゲス野朗」なのだが、その迷いの無い「最低男」っぷりに、思わず昔の恋人が「感動する!」という、凄く魅力的だが表現するには難しい役を、今回見事に演じているからだ。

原作小説では、登場人物たちへのインタビューだけで物語が進行するため、各登場人物の外見や性格までは、読者に明確にはされていないのだが、本作のキャスト陣は脇役に至るまで、見事にそのキャラクター達に命を与えてくれた!まずはそのことに感謝の念を送りたい。

愚行録 妻夫木聡


(C)2017「愚行録」製作委員会




最後に


タイトルにも含まれている「愚行」とは、果たして何を意味するのか?

実は、本作冒頭とラストに用意された、小説には無い映画オリジナルのシーンがある。
双方で円環構造を成す仕組みなのだが、まず冒頭のシーンで主人公が非常に頭が切れて、計画性のある「悪意」のある人物であることが提示される。

次に問題のラスト。ここで主人公が取る行動が、冒頭とは全く正反対の物であり、一見すると主人公が成長・変化したと、単純に好意的に見ることが出来るかも知れない。或いは、見る人によってはそこに救いやハッピーエンド的な物を感じるかも知れない。

しかし問題のラストで、主人公の回りで我関せずを決め込んで、自分たちだけの世界にいる傍観者的なバスの乗客たちの存在に気が付いた時、観客は気が付くのだ。

そう、自分のことが第一であり、他者には決して眼を向けず、他人のために行動せず逆に他人を蹴落としてでも、自分の利益を優先させようとする現代の人々にとっては、ここで主人公が取った行動こそが「愚行」なのだと。

思えば、ことの是非はともあれ、本作で主人公が取って来た行動は、全て自分の大切な存在=社会的に弱い存在を守るための物であり、主人公自身は成長や改心などしていない。そう、実は最初から彼の行動は一貫していたのだ。

残念ながら、小説ではこの部分はトリックの種明かし的に提示されるだけであり、やはり今回の脚色と演出は素晴らしく、映画と小説の違いと、映像化における無限の可能性を感じた、と言っておこう。

他人のことを考えて他人のために行動することが、果たして現代にとっては愚行なのか?と自分の胸に問いかけたくなる、そんな重いラストが待ち構えている本作。

個人的には、少なくとも主人公がラストに見せた微かな変化が、決して「愚行」などでは無いと信じたい。
あなたなら、いったいどう考えるだろうか?

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(文:滝口アキラ)

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