『運び屋』が観客の心に刺さる「3つ」の理由!“デイリリー”の花言葉が深過ぎる!

©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

クリント・イーストウッド監督・主演作としては、『グラン・トリノ』以来10年振りとなる映画『運び屋』が、いよいよ3月8日から全国公開された。

今回は実話の映画化、しかも自身の実年齢を反映させた様な主人公だけに、久々に主演も兼ねた彼がどんな演技を見せてくれるのか、個人的にもかなりの期待を胸に鑑賞に臨んだ本作。果たしてその内容と出来は、どの様なものだったのか?

ストーリー

90歳になろうとするアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、ないがしろにした家族からも見放され、孤独な日々を送っていた。ある日、男から「車の運転さえすれば金をやる」と話を持ちかけられる。なんなく仕事をこなすが、それはメキシコ犯罪組織によるドラッグの運び屋。気ままな安全運転で大量のドラッグを運び出すが、麻薬取締局の捜査官(ブラッドリー・クーパー)の手が迫る……。(公式サイトより)

予告編

理由1:人生のやり直しに遅過ぎるということは無い!

本作の主人公アールは、自分の家庭や娘の結婚式よりも仕事で熱中している“デイリリー”栽培を最優先させるほど、自分勝手な男として登場する。

人生の終盤を迎えたとはいえ、花の品評会には洒落た服装で出かけるほど社交的な彼は、常に自分が一番輝ける場所にいることを好む人生を送ってきた様に見える。

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だが、時代の流れには逆らえず、ネット通販に押されて自身の栽培所を手放し途方に暮れたアールは、勇気をもって孫娘のパーティーを訪ねるが、疎遠だった妻と娘に冷たく扱われてしまう始末。

しかし、このパーティーで偶然話しかけてきた男が持ちかけたある仕事によって、アールは90歳という年齢になって全く新しい世界へと足を踏み入れることになるのだが…。

最初は運ぶ荷物の中身や、仕事の報酬がこれほど高額とは知らなかったとはいえ、結果的に麻薬の運び屋という犯罪行為に手を染めてしまったアール。自分よりも遥かに年下のギャングから細かい指示を受け、慣れないスマホを渡されてもメールの打ち方さえ分からないアールだったが、意外にもこの新たな仕事で能力を認められ、次第に生きる意味を見出していくことになる。

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初回こそ想像以上に高額な報酬に驚いたものの、孫娘の学費援助や友人たちへの支援の資金欲しさに2回、3回と繰り返すうちに、次第に運ぶ麻薬の量も増えていくが、持ち前の人当たりの良さと善良そうな外見を武器にして、いつしか麻薬の運び屋の世界では知られた存在になってしまうアール。

“デイリリー”栽培という自己表現の場と、自身の承認欲求を満たしてくれる仕事を失ったことで、身勝手にも家族に心の拠り所を求めようとしたアールだが、一度失った家族の信頼や愛情を再び取り戻すことは、そんなに簡単なことではない。

だが、偶然とはいえ大金を得られる仕事に就いたことで、アールは自信を取り戻して家族にも向き合う勇気が持てる様になっていくのだ。

多くの感想やレビューでも触れられている通り、確かにアールが加担しているのは完全に犯罪行為であり、他人に危害を加えたり無理やり金品を奪うなどの直接的な被害は出ていないが、彼が運んだ麻薬がギャングの資金源になったり、麻薬常習者の増加に関与したであろうことは紛れもない事実。

だが、本作が描こうとするのは必ずしも単純な“勧善懲悪”ではなく、むしろアールの様な年齢からでも、新たな環境に飛び込もうとする勇気と柔軟さがいかに大事であるかということを示すもの。更には、新しい環境で人生を再スタートさせたり家族や周囲の人間関係を修復するのに、決して遅すぎるとことは無い! というメッセージに他ならない。

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加えて、仕事の面では対外的に認められたが、恐らく経済的にはそれほど裕福ではなかったであろうアールが、思いがけない高額報酬の仕事のお蔭で、周囲の人々に感謝されて再びコミュニティの中心になっていく様子は、逆に家族を持たず、社会との接点である仕事も無く充分なお金も無い老後が、いかに味気ないものかを物語るものとなっている。

ラストで彼は自分が犯した罪を償うことになるのだが、90歳にして新たな世界への扉を開く勇気を示した彼の姿勢には、きっと多くの観客が勇気を貰ったのではないだろうか。

「新しい出会いやチャンスが来たら、あれこれ考えずにとにかく乗ってみること!」

そんな人生の心得が学べる本作こそ、年齢を問わず全ての観客必見の映画なので、是非劇場へ!

理由2:“デイリリー”の花に込められた意味が深過ぎる!

本作で主人公アールが生涯を賭けて栽培しているのが、“デイリリー”という花。別名を“ヘメロカリス”ともいうこの花の花言葉は、「とりとめの無い空想」「一夜の恋」「愛の忘却」と、正にアール自身の性格や彼の過去の行動を象徴しているのが面白い。

だが、ここに“デイリリー”のもう一つの花言葉、「苦しみからの解放」を踏まえて映画を観ると、ラストでアールが“デイリリー”を栽培している場所の持つ意味が、まるで違ったものとなってくるのだ。

映画のOPに繋がる円環構造となっているラストの描写を、自身の犯した罪により家族から離れて孤独に花を育てていると見るか、それとも花言葉の意味通り、家族との関係を修復し麻薬の運び屋としての終わりなき苦しみからも解放された、アールの安らぎの場所と見るか?

それによって鑑賞後の余韻やラストシーンの意味が違ってくるので、是非ここは花言葉の意味を考えつつ、ご自分の目で判断して頂ければと思う。

理由3:真のテーマは、人情より効率を優先させる社会への問題定義!

予告編やポスターのイメージとは違い、意外にもコメディ要素が強い本作で観客の笑いを誘うのは、主人公アールの昔ながらの考えや、細かいことは気にしない自由すぎる行動に次第に影響されて彼と仲良くなっていく、本来は悪人である男達の可愛らしさ!

そんな彼らと触れ合う中で、時代の流れに乗り遅れたアールが次第に時代に適応していく姿と、それとは逆に彼の昔ながらの自由な考え方や行動に、周囲の人々も人情や思いやりという人間の心の部分を思い出して和やかな人間関係を築いていく様子が描かれていく本作。

このまま双方にとって良好な関係が続くと思われたのだが、この一種の家族めいた運命共同体にも、遂にリストラや世代交代の波が押し寄せることに!

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特に印象的だったのは、妻の葬式に出席するために運び屋の仕事を無断でエスケイプしたアールに対して、さすがにこの理由なら大目に見ては? と思う組織の手下たちも、ボスの容赦ない命令には従う他はないことが描かれる点だった。

そう、本作の終盤で描かれるのは、ベテランの経験や判断が仕事を円滑に回して成果を上げていても、新しい上司がデータに頼り、生産性や能率を重視するあまり、それまで円滑に機能していたシステムを崩壊させてしまうことの弊害と、一人の指導者の考え方一つで社会がギスギスしたものになってしまうことに他ならない。

こうして、今までの家族的で人情が通用する組織から効率と生産性を優先させたブラック企業へと変貌した麻薬組織の中で、次第に追い詰められていく主人公の姿は、正に現代の企業に勤める男性の姿や悩みを象徴するものだと言える。

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お互いの正体を知らない状況とはいえ、事件を追う捜査官とでさえ心の交流を得るほどの“人たらし”であるアール。

彼の人間的魅力や、運び屋として働く姿の若々しさが映画の前半部で印象的なだけに、全て上手くいっていたバランスが一気に崩れる終盤の展開には、人生の空しさや喪失感を強く感じた、と言っておこう。

最後に

人生の終盤になっても、監督・俳優として次々に素晴らしい作品を世に送り出してくれる、映画人クリント・イーストウッドという希有な存在。

その尽きることのない創作意欲とエネルギーには、観る側もただ感服するしかないのだが、久々に監督だけでなく主演も務めた本作の素晴らしさには、やはり次回作への期待を抱かずにはいられないのも事実。

映画産業と花の栽培という違いはあるが、自身の能力を表現出来て対外的に評価される仕事に没入するあまり、家庭や家族を省みずに人生の晩年を迎えてしまったアールの姿は、正に映画人クリント・イーストウッドの実人生を思わせるものとなっている。

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元々社交的で人当たりのよいアールが、家庭よりも自分が輝ける外の世界との関わりを優先させてきたお蔭で、人生に息詰まることになるのだが、ここで今までの自身の行いを悔いて、家族と向き合って関係を修復するという物語なら、これはこれでかなりの感動作になったに違いない。ところがアールは、麻薬の運び屋という犯罪行為に手を染めて得た大金で、家族や周囲の人々に良い行いをして回ることに! しかも、それまでの自由な生き方(女性関係も含めて!)を改めることが無いという始末…。

こうした自分勝手な生き方に加えて、運び屋という犯罪行為に手を染める彼に対して、観客が次第に好感を抱いて感情移入してしまうのは何故か?

それは、前述したアールの明るい社交的な性格と、映画の中でも度々セリフで出てくる「ジェームズ・スチュワートに似てる」に象徴される、アメリカの良心を象徴する様なその外見が、彼に対して否定的な感情を抱かせないからに他ならない。

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更には、大金を手にした代償に犯罪から抜け出せなくなる恐怖よりも、むしろ再び仕事を得て他人に必要とされたり、社会の一員として自身の能力と存在価値を証明する喜びが、アールの表情や行動から感じられるからだ。

ところが、一見上手く機能していたかに見えた運び屋のビジネスも、指導者が変わっただけで全てがメチャクチャになっていく様は、正に現在のアメリカ社会の問題点を象徴するものだと言える。

現代のアメリカが取り戻すべきもの、それが何かを我々に教えてくれるこの『運び屋』。全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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