映画ならではの格調と品格に満ちた人間ドラマの秀作『光をくれた人』

■「キネマニア共和国」

光をくれた人 ポスタービジュアル2

(C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

キラキラ映画もアメコミヒーローものもアニメ映画もいいけれど、たまには人間を深く描いて、格調高く、それでいて押しつけがましくない、そんな映画を見てみたいと思うあなたへ。

ぜひともお勧めしたい作品があります……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.235》

『光をくれた人』、もう邦題を聞いただけで心が浄化されるかのような、その期待を裏切ることのない秀作です。

孤島の灯台に住む
夫婦の幸福と悲劇

舞台は1918年のオーストラリア。第1次世界大戦の英雄として帰還したものの、実は心に深い傷を負い、人との接触を拒むかのように絶海の孤島ヤヌス島の灯台守の仕事に就いたトム(マイケル・ファズビンダー)は、たまたま町に戻ったときに出会った女性イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)と恋に落ち、やがて結婚し、ふたりで孤島に生活するようになります。

光をくれた人 サブ4

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誰にも邪魔されないふたりだけの幸せ。しかし、そんな楽園はイザベルの流産によって一転。しかも失意を乗り越えて再び妊娠したイザベルですが、またも悲劇が……。

そのとき、島に一隻の小舟が漂着してきました。中には男性の死体と、その子と思しき女の赤ちゃんが……。

保全局にモールス信号を送ろうとするトムを、イザベルが制します。二度も我が子の顔を見ることができなかった彼女は、赤ん坊を手放すことができなくなっていました。

苦渋の決断で、トムは赤ん坊を自分たちの子どもだと世間に偽り、育て始めていきますが、2年後、家族で久々に町に戻ったとき、トムはかつて海に消えた夫と娘の墓でむせび泣く未亡人ハナ(レイチェル・ワイズ)と出会いました。

本作は、心に傷を負った者たちが、光を与えてくれる他者によって生きる希望を取り戻し、しかしそれゆえに新たな心の傷を負っていくという、まさに人生はその繰り返しであることを示唆しているかのような奥深いヒューマンドラマです。

監督はラブストーリーの傑作『ブルーバレンタイン』(10)で絶賛されたデレク・シアンフランス。彼は本作の原作小説『海を照らす光』を一読して、即映画化に邁進。脚本執筆の段階からトム役にマイケル・ファスベンダーを想定。一方イザベラ役のイメージをキャスティング・デイレクターに伝えたら、即「アリシア・ヴィキャンデルに会うべき」と返されたとのこと(彼のイメージは『風と共に去りぬ』のヴィヴィアン・リーや、『こわれゆく女』のジーナ・ローランズ、そして『奇跡の海』のエミリー・ワトソンだったそうです。映画ファンなら、もうこれだけでピンとくるものがありますね)。

光をくれた人 サブ2

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光をくれた人 サブ1

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孤島の灯台が象徴する
人生の光と闇

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本作の映像美にも大いに着目すべきでしょう。主な舞台となるヤヌス・ロック灯台を探すべく、スタッフは300以上の灯台をロケハンした末に、激しい大自然の風雨にさらされ続けるニュージーランド南島最北端のキャンベル岬灯台へたどり着き、そこでスタッフ&キャストが共同生活しながら撮影を敢行。

それゆえのリアルな雰囲気を『マクベス』(15)などの撮影監督アダム・カポーが巧みに映像に定着させています。

撮影中、実際に主演ふたりは恋に落ちてしまったほどの熱演を示していますが、今やベテランの域に達しつつあるレイチェル・ワイズの抑えた演技にもご注目を。

またオールド・ファンとしては『F/X引き裂かれたトリック』(86)や『カクテル』(88)のブライアン・ブラウンと、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(83)にも出演したジャック・トンプソン、オーストラリア出身のふたりの名優がいぶし銀のごとき存在感を放っているあたりも嬉しいところです。

ここには、いわゆる悪人はひとりも登場しません。しかし、それでも(いや、だからこそか)悲劇は起きるのであり、そうした人生の光と闇を、孤島の灯台の光が見事に象徴しているともいえるでしょう。

光をくれた人 サブ6

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久しぶりに映画ならではの格調と品格を堪能させてくれる作品です。波乱のドラマの結末は、ぜひその目で確かめてみてください。

ガーディアン紙によると「クリネックス(ティッシュ会社)の株価が上がるほど、観客は涙するに違いない!」とのことです(まあ、さすがにそれは大げさですが、ラスト10分の心の中のざわざわ感はもうハンパないことは、こちらも保証しておきます)。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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