原作ファンはあり?なし?実写版『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 ポスター


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


衝撃と話題を巻き起こした、昨年2016年9月の製作発表から早1年。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』がついに公開された。

今年2017年で30周年を迎える原作の「ジョジョの奇妙な冒険」は多くのコアなファンを抱えているマンガであり、また実写化は困難な作品と思われていたため、発表時から様々な声が聞こえてきた。

とりわけ「ジョジョ」の映画化作品というと、いまだにパッケージソフト化されていない劇場版アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』がファンには思い起こされる。
「君は知っているか?幻の映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』」をご参照ください)

さて、実際のところ実写版「ジョジョ」は、原作ファンにとってどのように受け止められた作品だったのか?

原作マンガの第4部「ダイヤモンドは砕けない」、そして先に映像化されたTVアニメシリーズを見てきた筆者は、「ジョジョ」実写化という困難なプロジェクトに対して「暗闇の荒野に進むべき道を切り開く覚悟」をもって勇気ある挑戦をした、ある意味原作のスピリットを持った作品だったのではないかと思う。

マンガの実写化の重要ポイントとは


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 ロゴ


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社



本題に入る前に。マンガの実写化で重要なのは、俳優がいかにキャラクターに似ているか、また名シーンを忠実に再現出来ているかという点よりも、テーマなどの本質的な部分に原作の根幹が感じられるかという点だと考えている。

そもそも二次元の「絵」であるマンガを、生身の俳優が演じて三次元で表現することには限界がある。描き方が「実写」、また「映画」というフォーマットに合うようにアレンジされていたとしても、そこにある本質が重要なのではないだろうか。

また、原作では出来なかったことが実写映画となることで実現されるなど、別のベクトルを目指したことが映画としての面白さにつながっている作品もある。



Part4からの実写映画化は現実的な選択


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』は、現在Part8まで展開されている壮大なストーリーのうちのPart4の中の、序盤から虹村兄弟との戦いまで(ジャンプ・コミックスでは29~30巻)を描いている。つまり、マンガでいうと29巻からいきなり読み始めるようなものだ。

しかし「ジョジョ」は1世紀以上にもおよぶ大きなストーリーがあるものの、各Partはそれぞれ固有のストーリーを持っているため、どのPartから読んでも楽しむことが出来るのが特徴のひとつであり、これは特に気にならない。

なにより「ジョジョ」を実写化する際に、世界各地を舞台にしているシリーズの中では日本が舞台となり、キャラクターの多くが日本人であるPart4が最も企画しやすいストーリーであり、この選択は現実的だったと思う。

スペインは杜王町だったか?


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 サブ2


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


ところが、設定としては日本で撮影して問題ないところを『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』はロケ地をスペインにしたことが、製作発表時から話題になっていた。

原作では日本の地方都市である杜王町(モデルは宮城県仙台市)が舞台となっており、国内の撮影で実現出来そうな企画で、なおかつ原作のイメージとも遠そうなため「なぜスペイン?」という声も多かったかと思う。

このスペインロケがプラスに働いた点は、リッチな画作りが出来たことだ。

「ジョジョ」には、個性的なファッションやヘアスタイルのキャラクターが多く登場する。このキャラクターのルックスこそが、「ジョジョ」の独特のビジュアル世界を形作る要素のひとつだ。そのセンスあるビジュアルは、グッチが「ジョジョ」とのコラボレーションを展開するほど!

実写化においてこのキャラクターのルックスを再現しなければ、「ジョジョ」らしさが薄らいでしまう。ただ、キャラクターをマンガに忠実に再現すると、コスプレ感が際立ち浮いてしまうおそれがある(おそらく同じ理由により、マンガでは大きな魅力のひとつである独特のポージング「ジョジョ立ち」は実写版では取り入れられていない。あれを実写でやると一発ギャグになってしまうからだ)。

そこで、本作ではスペインロケを行うことで画面全体をリッチにすることで、インパクトのあるキャラクターたちのビジュアルを中和していると感じられた。これは、日本の日常的な風景では出来なかったはずで、これにより自然に「ジョジョ」のキャラクターたちを実写の世界に展開することが出来ている。

要は、絵になり非日常感のあるロケーションなので、ある意味マンガの実写化には適した方法論なのかも知れない。スペインの杜王町…意外や意外、なじむぞっ!

難点は、確かにスペインの海岸線は海沿いの街である杜王町らしさが不思議と出ているし、マッチしているシーンはあるものの、ところどころで映画のマジックが足らず「スペインの街角に、学生服を着せたエキストラを集めて撮影しました」感の強いシーンもやはりあり、現実に引き戻された時もあったということだ。

ファン最大の期待ポイント!スタンドによるバトルシーン


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 サブ3


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


「ジョジョ」といえば、超能力での戦いをビジュアル化したスタンドバトル。各キャラクターの個性を反映し、多様な能力を持つスタンドを駆使した戦いは、単純な力の比べ合いではなく、能力の相性やその使い方によって勝敗が決まる点が秀逸で、マンガに限らず幅広いエンタテイメントの世界に多くのフォロワーを生み出した。

これをいかにして実写化するかは、本作の成功の是非がかかっていると言っても過言ではない重要ポイントだが、これは原作のイメージにかなり近い形で表現出来ている。

特に、虹村億泰(新田真剣佑)の「ザ・ハンド」との戦いは、スタンドの存在感とその能力の描写も含めて、ファン納得の実写化ではないだろうか!ついにVFX技術は「ジョジョ」を実写化するポイントまで到達したのかと思うと、感慨深い…

だが、バトルシーンで少し希薄に感じたのは、絶望的な逆境を勇気と機転で覆すという「ジョジョ」ならではの精神力を見せる戦いだ。絶体絶命のシチュエーションに追い込まれたキャラクターたちが、能力を活かしたトリッキーな方法でピンチを打開する様子を、もっと魅力的に描いて欲しいところだった。

ホラーが足りない!


もうひとつ、実写版に足らなかったものはホラーの要素だ。一見、平和そうな街に潜む悪意を描いた「ダイヤモンドは砕けない」に限らず、「ジョジョ」は独特の擬音とコマのアングル、また常軌を逸した残酷さによる不気味な雰囲気がその魅力のひとつである。

特に、正体のわからないスタンド攻撃による奇妙な光景は「ジョジョ」らしいシーンなのだが、実写版ではアクション重視のためか、その不気味さの演出がいまひとつと感じる。

キャストのMVPは、虹村形兆を演じた岡田将生


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 サブ5


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


上述のように、俳優がいかにキャラクターに似ているかだけがマンガの実写化で評価するべきポイントではないが、それでもあのキャラクターたちがどこまで再現されているのか気になるのがファン心理というもの。

その点で言えば、岡田将生演じる虹村形兆は原作のイメージにぴったり!通常の現代劇とは差別化したセリフ回し(もちろん、あの名セリフも披露)で、自身の目的のためには他人を何とも思っていない残酷さとともに、ただ冷徹なだけではない悪役を演じている。これは原作ファンも納得のキャスティングではないだろうか!

実写版『第一章』は「To Be Continued」出来るか?


ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 サブ1


(C)2017 映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」製作委員会(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社


そんな『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』だが、東宝とワーナー・ブラザースが初めて共同製作・配給を行い、豪華キャスト・スタッフを起用した作品にも関わらず、その公開週である「2017年8月5日〜6日の全国映画興行ランキング」では初登場5位と、そのネームバリューに反して控えめなスタートとなってしまっている。

『第一章』と堂々と銘打っているし、本作のラストは続編があることが前提のようなものだ(原作ファンは、終盤のシーンでの「ある改変」にそう来たか!と思うはず)。しかし、続編の製作は興行収入に大きく左右されてしまうだろう。

これまでにも数多あった、シリーズ化が前提のエンディングでありながら、結局続編は作られなかった映画たちに『ジョジョの奇妙な冒険』も名を連ねてしまいかねない。

同じくこの夏に公開された「週刊少年ジャンプ」連載マンガを原作にした『銀魂』とは対照的に、原作ファンを上手く味方に付けることが出来なかったことがこの状況の要因かと思われる。

ただ、冒頭に記したように、「ジョジョ」の実写映画というチャレンジングな企画へのひとつの回答として興味深い作品だったため、『第一章』で「再起不能(リタイア)」となるには惜しいと感じている(原作ファンへの目配せの意味でも、ラストには原作お約束の「To Be Continued」を入れておくべきだった)。

ネガティブなことを書き連ねる様々な声に惑わされず、自分の目で確かめて自分が何を感じたか。これが大切なことだ。

(文:藤井隆史)

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