まるで役者版“寅さん”⁉ 快作『俳優亀岡拓次』

■「キネマニア共和国」

『俳優 亀岡拓次』メイン

(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会

男が独りで生きていくために必要なものは……などと、時々考えることがあります。

考えたって仕方がないから、そのうち酒でも飲んで、翌日は二日酔いで、でもそんな日に限って仕事があって……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

『俳優亀岡拓次』の主人公も、そんな男なのです。
もうシンパシーを抱かずにはいられません!

俳優・亀岡拓次とは何者か?

37歳独身の亀岡拓次は、いわゆる脇役の俳優です。

でも、仕事にあぶれることはないみたいです。

映画でもドラマでも、主役を引き立てるためには脇が充実していないといけませんが、もちろんこの男は、別にそんなことを意識しているようにも思えず、お仕事として与えられた役を淡々とこなしていくだけです。

ヤクザでも泥棒でもホームレスでも、とりあえずは何でもやります。

映画でもテレビドラマでも舞台でも、とりあえずは何でもやります。

求められれば日本全国、いや世界中どこにでも行ってみようとは思っています。

サインを求められたら、そこらの紙でも書けてしまいますが、でも本当は色紙がいいなあとも思っています。

そんな彼の楽しみは、酒。地方ロケの合間に、居酒屋でもスナックでも、フラリと入ってはヘベレケになり、ごくたまにですが、翌朝の撮影でゲロを吐いてしまうこともあります。

ときには、店の女将などイイ女に思わず恋してしまうこともありまして……。

シリーズ化を望みたい
亀岡拓次の魅力

主演は、このところ亀岡拓次さながら映画にドラマにひっぱりだこの安田顕。原作は戌井昭人の同名小説ですが、映画を見ていると、まるで彼を想定しながら記されたのではないかと思わせるほど、役にはまっています。

地味なキャラクターではあるのですが、妙に色気も感じられ、それは快作『ウルトラミラクルラブストーリー』で知られる横浜聡子監督による、女性ならではの目線による男の色香の描出のようにも思えます。

また、だからこそ今回の麻生久美子演じる飲み屋の女将への恋模様も、切なくユーモラスに映えていくのです。

その恋路の結果がどうなるかは見てのお楽しみとして、まあ、これが松竹の制作だったら『男はつらいよ』シリーズみたいに日本全国ロケをして、毎回綺麗なマドンナを配して……と、長寿シリーズが見込めるのではないかと思えるほどにユニークな男なのでした。

役者としての力量も実はものすごいものがあることを示唆する、三田佳子扮するベテラン女優との舞台稽古シーンも素晴らしいものがあります。
(ここでの三田佳子は、どことなく『Wの悲劇』の看板女優を彷彿させるものがあります)

特にドラマティックな事件があるわけでもないのに、とにもかくにも彼を見ているだけで全く退屈しない、これぞ映画俳優の鑑とでもいいたくなるような亀岡拓次の生きざまは、映画を見終えてもどことなく心の片隅に残り続け、再び彼に会いたくなること必至です。

脇役人生を歩み続ける素敵な“主人公”亀岡拓次、やはりシリーズ化してもらいたいものと、切に願う次第です。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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