映画コラム

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2022年12月19日

「鎌倉殿の13人」“のえ”を演じ切った菊地凛子をもっと知る映画「3選」

「鎌倉殿の13人」“のえ”を演じ切った菊地凛子をもっと知る映画「3選」

(C)NHK
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NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条小四郎義時の3人目の妻、のえ。
キノコ大好きアピール(ブラフ)で義時の心を掴み、八田殿にも「下心なし!」とのお墨付きをいただき、まんまと玉の輿に乗ってしまった。問題は、この2人が二大“女心がわからない御家人”だったということだ。

ただ義時がメロメロだったのは最初だけで、彼女の裏表に気づいたのか、最近はめっきり冷たい。
「八重も比奈も、もう少し出来たおなごであったが……」とか、いちばん言ってはいけないことも言ってしまう。(もしかしたら義時は、いまだにのえの機嫌を損ねても、キノコさえ与えておけば大丈夫と思っていそうではある)

それでもなんとかブリッコを保っていたのえではあった。だが、兄・伊賀光季を殺され、息子・政村の存在を無視され、夫が自分の知らないところで死の決意をしていたことにより、彼女の中で何かが切れてしまったようだ。悪鬼羅刹のような顔で泣く姿は、この世の者ではなかった。彼女も、修羅の道に入ったようだ。

のえを演じるのは菊地凛子。世界で活躍する彼女だからこそ、このヒロインなのかラスボスなのかよくわからない複雑な役を演じられたのだと思う。

彼女の演じる役柄は、どれも個性的で独創的で魅力的だ。中でも特におすすめの作品を3本、紹介したい。

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『ノルウェイの森』(2010)

(C)2010「ノルウェイの森」村上春樹/アスミック・エース、フジテレビジョン

文学少年少女が一度はハマる村上春樹の世界的代表作を『青いパパイヤの香り』のトラン・アン・ユンが映画化。

「大学生・ワタナベ(松山ケンイチ)は、高校時代に親友のキズキ(高良健吾)を自殺で失っていた。その後、キズキの元恋人・直子(菊地凛子)と付き合うようになるが、彼女は心を病んでしまう」

唐突に死にそうな登場人物ばかりであり、事実みんな唐突に“ふわっと”死んでしまう。中でも、菊地凛子演じるヒロイン・直子の“死にそう感”が素晴らしい。まるでかげろうのような、デコピンだけで死んでしまいそうな、あまりにも繊細な姿がもはやこの世のものとは思えない。「鎌倉殿」で、あの図太く逞しい「のえさん」を演じている人と同一人物だとは、どうしても思えない。

キズキが死んだ時、直子の魂も半分死んだのだと思う。常に黄泉の国に片足を掛けている彼女を現世に引き戻そうと、空回り気味にがんばるワタナベだが……。

原作小説での直子は、静かに少しずつ、壊れていく。直子の症状の悪化具合は、主に彼女の施設での同居人・レイコさん(霧島れいか)からの手紙により語られる。一方で映画の直子は、もう少しわかりやすく、かつエキセントリックに壊れていく。

やはり、ただの“薄幸ヒロイン”で終わらないのが菊地凛子だった。

『パシフィック・リム』(2013)

(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LCC

「人型ロボット『イェーガー』に乗り込み、『KAIJU(怪獣)』と戦う兵士たちの姿を描く」

とにかくギレルモ・デル・トロ監督の「日本のアニメとマンガと特撮大好き!」感が炸裂しており、観ているこちらも幸せな気分になる。溢れ出す押井守感に庵野秀明感に大友克洋感。だけではなくタツノコプロ感や筒井康隆感もあり、和製SFを好きな方には迷わずおすすめしたい。2時間強の長尺だが、体感時間は30分ほどだ。

菊地凛子演じる「森マコ」は、幼い頃KAIJUに両親を殺された(その時のマコを演じているのが、弱冠8歳時の芦田愛菜。さすがの貫禄である)。復習のためにイェーガーの研究者になり、パイロットを目指す。

菊地凛子は顔に“力”があるため、女戦士が似合う。ギレルモ監督には、ぜひ「攻殻機動隊」を撮ってほしい。もちろん、草薙素子は菊地凛子だ。スカーレット・ヨハンソンも悪くないのだが、やはり草薙素子は日本人が演じてほしい。

本作では前線に立つ女パイロットだが、続編の『パシフィック・リム/アップライジング』(10年後の世界)では、偉くなって管理側にまわっている。そのマチルダさんのような菊地凛子も必見だ。

『47RONIN』(2013)

(C)Universal Pictures

忠臣蔵で有名な赤穂浪士の47人目が、なぜかキアヌ・リーヴスであるというお話。

最初に断っておくが、本作を鑑賞するにあたって固定観念・一般常識・公序良俗などの要素は不要だ。頭を真っ白にして観てもらいたい。でなければ、ツッコミ所が多すぎて先に進まない。

まず、日本だと思って観てはいけない。頭がおかしくなる。日本なのか中国なのかインドなのかタイなのかわからない。舞台はアジアっぽい架空の国だ。そうに違いない。

菊地凛子が演じるのは、吉良上野介(浅野忠信。『北斗の拳』のシン似)の側室兼妖術使いのミヅキ。吉良をたぶらかし、浅野内匠頭(田中泯)を妖術で操り吉良に斬りかからせることで、切腹に追い込む。忠臣蔵のそもそもの発端は菊地凛子であった……という新事実。

かつての深作欣二監督のSF時代劇の名作である『魔界転生』や『里見八犬伝』を思い出す。
『魔界転生』で細川ガラシャを演じた佳那晃子。
『里見八犬伝』で毒婦・玉梓を演じた夏木マリ。
“妖術美女”の枠に、菊地凛子も加わった。(筆者の中で)

ラストでは、巨大な龍に化けてキアヌ・リーヴスと一騎討ちを行う。『ノルウェイの森』での“繊細ヒロイン”と同じ人とは思えない。

菊地凛子の役柄の幅は、宇宙より広い。

「鎌倉殿の13人」報いの時

(C)NHK

北条義時の死因には諸説あり、一説には「伊賀の方(のえ)による毒殺説」もある。あくまで“一説”だ。

ただこのドラマは、信憑性よりもよりドラマチックになる説を採用する傾向にあった。「泰時の母上が八重さん説」しかり、「巴御前が和田義盛の愛妾になる説」しかり。そして、のえ役として菊地凛子が発表されるにあたり、筆者は「毒殺説決定」を確信した。

北条義時は、妻・のえに盛られた毒により、もがき苦しんで死ぬ。這いつくばり、烏帽子を落とし、床を舐めようとまでした。だが最終的に引導を渡したのは、のえではない。

姉・政子だ。

この物語は、最初から最後まで「北条家」の物語だった。のえの悲劇は、結局最後まで北条家の一員になれなかったことだ。

のえが、かつての八重さんのようにすんなり北条家の一員となっていれば。妻として義時に愛されていれば。息子・政村の存在も認めてもらっていれば。このような展開にはならなかったはずだ。

それで良かったのだと思う。義時を修羅の道から降ろすには、殺すしかなかったのだ。義時は長い永い地獄から、やっと救われた。救ったのは、八重さんでも比奈でもない。皮肉にも唯一愛されなかった妻である、のえだ。

菊地凛子演じるのえは、ラスボスでありながら、ヒロインでもあった。

(文:ハシマトシヒロ)

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