『家族はつらいよ2』で、山田洋次が語り続ける松竹映画の家族の歴史

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」





日本映画界の重鎮・山田洋次監督の最新作が今月27日から公開される。すでに85歳を迎えながら、コンスタントに作品を発表し続ける彼の、85本目の劇映画となる本作は、昨年公開された『家族はつらいよ』の続編だ。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.32:『家族はつらいよ2』で、山田洋次が語り続ける松竹映画の家族の歴史>

熟年離婚の危機から逃れた平田家は、新たな問題に直面していた。老齢を迎えたドライバーの事故が多発する昨今、父・周造の運転する車も毎日新しい傷を蓄えて帰ってくるものだから、家族は心配して周造に免許を返納するように促す。例によって頑固な周造は言うことを聞かず、家族は困りあぐねていた。そんな折、周造は偶然にも高校時代の同窓生・丸田と再会するが、それが新たな災難の幕開けとなる。

現代の社会問題のひとつである「高齢ドライバーの事故」問題に切り込んだ作品かと思いきや、そんな話はどこへやら。次から次へと起こる大事件にてんてこ舞いする平田家の様子を、シニカルな笑いで面白おかしく描き出した、実に愉快な人情喜劇に仕上がっている。これは前作よりも、喜劇としてさらにグレードアップしているではないだろうか。

前作では「熟年離婚」が大きなテーマとなっていたが、今回はその先にある「無縁社会」が最大のテーマとして掲げられている。劇中で橋爪功演じる周造がたびたび「うちの家族は崩壊している」と口走るように、家族というミクロの社会のあり方を問題提起しているという一面も感じられるのである。

そう考えると、この山田洋次監督の〝家族〟シリーズはますます小津安二郎の『東京物語』と密接な関係にあるということがわかる。今回と同じキャスティングで作られた『東京家族』は同作のリメイクに当たり、前作のクライマックスで橋爪功がDVDで『東京物語』を再生していたりと、すでに繋がりを明確化していた。そこに、今回の「無縁社会」というテーマは、近代化が進む都会における家族制度の弱体化を描き出した小津安二郎の名作を、より現代的なスタイルに塗り替えているというわけだ。




もはやこの映画について過剰な説明は不要だろう。日本映画界が世界に誇る最も優れた映画として、時には世界のベスト映画として讃えられることもあるほどの作品だ。

東京で暮らす息子や娘を訪ねて尾道から出てきた老夫婦を主人公に、彼らを邪険に扱う子供達と、唯一優しく接してくれる戦死した次男の嫁。戦後、急成長を続ける東京という街の中で、家族というものは前近代的な代物なのか、という問いを我々に投げかけてくれるのである。

今となってはもはや、「家族とは何か」という問いは時代に関わらず浮き彫りになっている。そこをあえて、より現代めいた姿にうつしかえるという作業は、他の監督では到底無理な話だろう。こういった松竹映画におけるスタンダードな日本家族のあり方を、様々な形で描き出してきた山田洋次だからこそ、物語に説得力が生まれ、喜劇という娯楽に落とし込むことができるのだ。

多くの映画界のレジェンドたちがこの世を去る中、山田洋次監督は新たなシリーズを築き上げたのである。この家族の騒動を描いた喜劇もまた、日本映画界の金字塔でもある『男はつらいよ』や、90年代に高い評価を獲得した『学校』シリーズに続く、山田洋次監督の定番シリーズとなっていくのだろう。

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(文:久保田和馬)

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