マーティン・スコセッシも大絶賛した『消えた声がその名を呼ぶ』

■「キネマニア共和国」

いよいよ冬休み、仕事納めのかたも多いことかと思われますが、年末年始はぜひとも2016年度お正月映画でお楽しみいただきたいもの。
もちろん今年度は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』や『007スペクター』『クリード』などなど華やかな作品群が並んでいますが、それ以外にもミニシアター作品にも注目していただきたいもの。
少し前に紹介した『独裁者と小さな孫』も絶賛上映中ですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.87》

『消えた声がその名を呼ぶ』も負けず劣らずの秀作です!

20世紀最初のジェノサイドを越えて
娘を探し求める父親の壮大なる旅

消えた声が、その名を呼ぶ
© Gordon Mühle/ bombero international

本作は1915年、第1次世界大戦下のオスマン・トルコに始まります。

同年4月、東部アナトリアの都市ヴァンでアルメニア人による暴動が起き、政府はおよそ600人のアルメニア人を殺害。

その後、政府は“ロシアの侵攻に備えて、アルメニア人を保護する”という名目の下、ロシア国境地帯のアルメニア人を強制的に街の外へ連れ出し、過酷な労働や虐殺などを繰り返していきました。

後のヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたとも言われる、この20世紀最初のジェノサイドで、およそ100万人のアルメニア人が虐殺されたといいます。

本作の主人公である鍛冶職人ナザレットもまた、アルメニア人であるがゆえに、妻と双子の娘から無理やり引き離され、砂漠の強制労働の果て、ついには喉にナイフを刺されて殺されかけます。

何とか奇跡的に生き延びたものの、声を失ってしまったナザレットは、やがて妻はジェノサイドで死んでしまったものの、娘たちはまだ生きていることを知らされ、彼女らを探し求める旅に出ます……。

消えた声が、その名を呼ぶ
© Gordon Mühle/ bombero international

絶望を乗り越えて人間賛歌を奏でる
映画ならではのエンタテインメント

消えた声が、その名を呼ぶ
© Gordon Mühle/ bombero international

本作は、前半がジェノサイドの惨劇を、そして後半は娘たちを探す旅と、大きく2部構成になっています。

前半の砂漠で繰り広げられる過酷な労働や虐殺シーンなどは目を覆いたくなるほど凄惨ではありますが、それゆえに辛くも生き延びた後の主人公の孤独と絶望の念もより深く醸し出され、ようやく生きる希望を取り戻しての後半の旅に説得力がみなぎっていきます。

しかも、この主人公の旅は、レバノンから海を渡り、キューバ、そしてアメリカへと続いていき、実に壮大なロード・ムービーとしても屹立していきます。

ジェノサイドの地獄から、生きる希望を求めて地球半周ほどの距離を渡り歩く、およそ8年の旅の果て、主人公に何がもたらされるのかは見てのお楽しみとして、こういった歴史上のタブーに挑戦しつつ、その上で我が子に対する親の想いを描出しながら人間讃歌を訴え得ることこそ映画=エンタテインメントの持つ大きな力だと思います。

主演のタハール・ラヒムの存在感も圧倒的なものがあり、絶望と希望、愛、執念など人間の持ち得る感情のすべてを吐露していく名演に言葉もないほどです。

監督はベルリン、カンヌ、ヴェネツィアと世界三大国際映画祭で主要賞を受賞しているファティ・アキン。
本作も第71回ヴェネツィア国際映画祭ヤング審査員賞を受賞しています。

共同脚本は『レイジング・ブル』などの伝説的脚本家で、アルメニア人のマルディク・マーティン。

彼とコンビを組み続けていたマーティン・スコセッシ監督は、この映画に対して「私にとって非常に大切な映画」と賛辞を送っています。

メッセージのみならず、叙情と叙事、スぺクタクル、そしてヒューマニズムを備えた、映画ならではの真のエンタテインメント大作として、映画ファンのみならず必見と強く訴えておきます。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

『消えた声が、その名を呼ぶ』
12/26(土)角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次ロードショー
消えた声が、その名を呼ぶ
© Gordon Mühle/ bombero international

監督・脚本:ファティ・アキン
出演:タハール・ラヒム(『預言者』『ある過去の行方』)、シモン・アブカリアン、マクラム・J・フーリ
共同脚本:マルディク・マーティン(『レイジング・ブル』)
撮影:ライナー・クラウスマン(『ヒトラー ~最期の12日間~』)
美術:アラン・スタースキー(『戦場のピアニスト』)
音楽:アレクサンダー・ハッケ(『愛より強く』)
原題:THE CUT
2014年/ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・カナダ・ポーランド・トルコ/シネマスコープ/138分
提供:ビターズ・エンド、ハピネット、サードストリート
配給:ビターズ・エンド
© Gordon Mühle/ bombero international
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/kietakoe/



    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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