弘法大師から犬のお父さんまで多彩に演じきる北大路欣也

■「キネマニア共和国」

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.16

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。

日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

北大路 欣也さん

弘法大師から犬のお父さんまで
多彩に演じきる北大路欣也

最近ではソフトバンクCMの犬のお父さんの声でお茶の間に微笑ましい印象をもたらしたかと思うと、TVドラマのほうで黒幕的人物を貫録で演じる機会も多く、なかなか一筋縄ではいかないユニークな活動の中から、誇りとユーモアを備え持ちつつ映画界に君臨し続ける名優・北大路欣也。

私も幾度かお会いしたことがありますが、映画スターとしてのオーラを放ちつつも、実に聡明でおしゃべり好きで、そして気さくな方です。

時代劇スター市川右太衛門を父に持ちつつ
俳優としての演技の幅を拡大

北大路欣也は1943年2月23日京都府京都市生まれ。父は時代劇の名優・市川右太衛門で、13歳のときに父が主演した松田定次監督の『父子鷹』(56)で若き日の勝海舟を演じて映画デビュー。

その後も東映時代劇に次々と出演し、『葵の暴れん坊』(61)では初主演を果たしますが、本人は俳優になる自覚など当時は全くなく、また大スターの御曹司といった貴公子的イメージやそういった役柄を嫌い、早稲田大学文学部入学を機に現代劇への転向を希望し、『海軍』(63)に主演。

64年には深作欣二監督作品『狼と豚と人間』で三國連太郎、高倉健と共演し、芸域を拡大していきます。
また同年には舞台デビューも果たし、ミュージカルにも進出するなど活動の幅を大いに広めていきます。

68年にはNHK大河ドラマ『竜馬がゆく』に主演しています。その後も大河ドラマ出演は多数あります。

俳優としての大きな転機になったのは『仁義なき戦い 広島死闘篇』(73)でここで彼はヤクザ組織に利用された挙句裏切られ、最期に非業の死を遂げるチンピラ山中正治を熱演。実は当初、彼は大友勝利をオファーされ、山中は千葉真一が演じる予定だったのですが、シナリオを読んだ北大路が役の交換を要求。結果、両者にとってキャリアの大きなプラスとなりました。

この後、『アラスカ物語』(77)『八甲田山』(77)『燃える秋』(78)『漂流』(81)と超大作への出演が続きますが、その合間に岡本喜八監督のヤクザ野球映画『ダイナマイトどんどん』(78)で菅原文太扮する主人公の恋のライバルで、戦争で人差し指を失ったせいで魔球を投げられるようになった男を好演しています。

1980年代に入ると弘法大師の生涯を描いた佐藤純彌監督の『空海』(84)に主演し、宗教者の枠にとどまらないスケールの大きな魅力ある男を好演。そして翌85年、柳町光男監督『火まつり』に主演。ここでは日本の土着的世界の神話性と現実性のはざまに翻弄され、やがて狂気を帯びていく主人公を熱演し、キネマ旬報および毎日映画コンクール、報知映画賞の主演男優賞を受賞しました。

この後、テレビ時代劇で父・市川右太衛門の当たり役でもあった早乙女主水之介を受け継いでテレビ時代劇『旗本退屈男』(88)に主演。後に舞台でもこの役を演じるようになっていきます。

テレビや舞台で拝一刀、大岡越前といった時代劇のヒーローから大石内蔵助、徳川家康といった歴史上の偉人を演じる機会も多く、最近では『桜田門外ノ変』で井伊直弼と対立する水戸藩主・徳川斉昭を気品高く演じています。

遊び心の持ち主ゆえに成し得た
犬のお父さん!

犬のお父さんの声を好演しているソフトバンクモバイルの白戸家シリーズCMは2007年の春から始まり、今なお続く人気ぶりで、それが高じて、ハチ公物語をアメリカで翻案した映画『HACHI 約束の犬』(08)では主演リチャード・ギアの声を吹き替えています。

そもそも彼は東映動画初期作品『安寿と厨子王丸』(61)で既に声優デビューを果たしており、その後も『FUTURE WAR 198X年』(82)『アシュラ』(12)『劇場版トリコ 美食神の超食宝』(13)など声優としての仕事も意外に多いのでした。

どちらかというと上品で格式ある紳士的イメージの強い北大路欣也ですが、実は犬のお父さんみたいなノリが大好きな遊び心を持った人で、テレビゲームのCMにもコスプレして出演するゆとりを大いに持ち合わせた人です。

中年のおっさんたちが大活躍するコメディ『三匹のおっさん』シリーズ(14~15)も実に楽しそうに演じていました。

こういった大スターが好もしく出演するコメディ作品を、映画でもぜひ見てみたいものです。今の日本映画界ならば、それも不可能ではないと思うのですが……。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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