傑作『恋のクレイジーロード』こそ、正に第二の『カメラを止めるな!』だ!

(C)白石晃士と坪井篤史の映画狂人ロード 

『貞子VS伽椰子』や『不能犯』、そして『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズなどで知られるホラー映画界の鬼才、白石晃士監督の最新作であり、5月5日より名古屋シネマスコーレで先行ロードショーされていた短編映画「恋のクレイジーロード」が、8月4日よりついに東京でも公開された。既にその評判だけは聞いていたが関東では中々上映されなかった本作を、今回は公開2日目の午後の回で鑑賞して来た。非常に小規模な製作状況で撮られた本作だが、果たしてその内容はどんなものだったのか?

ストーリー

静かな田舎の一本道を走るバス。そこに乗り込んだのは、シャベルを抱えた不気味な女装男(宇野祥平)。さっそく乗客の一人の頭を叩き潰し運転手に言い放った「とめたらアカン。赤信号でもレッツラゴーや」の一言。

そして女装男の目的は、乗っていたスミレ(芦那すみれ)とチューヤ(田中俊介)のカップルだった。「うちな、チューヤンに一目惚れして、キチガイになってもうた!」強引にチューヤと結ばれようとする殺人鬼の女装男。乗客たちを巻き込み、バスの中は阿鼻叫喚の地獄絵図となる!果たして恋のクレイジーロードの行方やいかに!?

製作スタッフを動かした、田中俊介の演技がスゴすぎる!

今回の短編映画製作には、主演の田中俊介の演技に魅了された二人の男、監督・脚本の白石晃士とプロデューサーをつとめた坪井篤史の熱意により実現したという経緯がある。実はこの映画、元々はシネマスコーレの副支配人である坪井篤史が放送しているニコニコチャンネルの番組「白石晃士と坪井篤史の映画狂人ロード」の雑談から始まった企画なのだ。二人が注目している俳優、田中俊介を使って映画を撮るなら、どんな役が良いか?番組の視聴者に向けてアンケートを取った結果、一番多かった意見が今回の作品に登場する多重人格の殺人鬼というものだった。そこから映画製作がスタートし、ついに作品として完成!名古屋での先行上映に続き、今回の東京での公開が実現したわけだ。

本作の主演は、名古屋地区で絶大な人気を誇る男性アイドルグループ、「BOYS AND MEN」(通称ボイメン)の一員である田中俊介。彼の演技力が周囲の人間を動かし、今回の作品が誕生したというエピソードだけでも、この俳優への期待は高まるばかり。では、果たして彼の演技はどれほどのものだったのか?

結論から言おう、いや、田中俊介の演技は本当にスゴかった!確かに二人が魅了されるのも無理は無い!

何しろ役を演じるというレベルを遥かに超えて、もはや田中俊介がチューヤという役を吸収して完全に一体化している様にしか見えないのだ。もちろんチューヤの彼女のスミレを演じる芦那すみれの迫力ある演技と、後述する宇野祥平の演技も全く引けを取っていないのが見事!

18分という短い時間に凝縮された、彼らの素晴らしすぎる演技対決を見るためだけにでも、劇場に足を運ぶ価値は充分ある本作。その演技の素晴らしさは、是非劇場でご確認を!

撮影期間1日、上映時間わずか18分の短編がスゴすぎる!

同時上映のメイキング映像でも分かる通り、本作の撮影はわずか一日だけという低予算振り!その中でスタッフキャストの熱意と協力により誕生した、この18分の短編映画が素晴らしいのは、ホラー映画の本質が実はラブストーリーである、という基本的なことを我々観客に教えてくれる点にある。本作のアイディアの元になったであろう映画『ヒッチャー』がそうだった様に、実はホラー映画における殺人鬼とファイナルガール(最後まで生き残って殺人鬼と対決する女の子)との間には、一種の片思いに似た恋愛要素が存在するからだ。

ストーリーを読まれただけでは、血みどろの残虐ホラーを想像されるかもしれないが、実は本作は紛れも無い恋愛映画!映画の中で強烈な印象を残す女装殺人鬼役の名優、宇野祥平の渾身の演技により展開する悲しい片思いの物語には、本来なら悪役であるはずの殺人鬼に観客も自然と感情移入してしまうほど!更に、走り去るバスを夕日の中で見送るその表情には、何故か観客も涙を流してしまうことは確実なのだ。

こうした出演キャスト陣の素晴らしすぎる演技が、ラストに爽やかな感動を呼ぶ本作。今一番見るべき作品として、全力でオススメします!

(C)白石晃士と坪井篤史の映画狂人ロード 

最後に

現在渋谷のアップリンクで単館上映中の本作は、わずか18分の短編映画。そのため劇場での公開時には、本作のメイキング映像や白石監督の過去の短編映画との同時上映という形が取られている。更に今回の東京での上映では、各回終了後に監督や出演者のトークショーとサイン会が行われるという大サービス振りなのだ。


上映後のトークショーの様子。左から、シネマスコーレ副支配人坪井篤史さん、出演キャストの久保山智夏さん、白石晃士監督。


上映後のサイン会にて。左から、白石晃士監督、出演キャストの久保山智夏さん、シネマスコーレ副支配人坪井篤史さん。

もはや映画界の枠を超えて大きな話題となっている、『カメラを止めるな!』の大ヒットにより、低予算、有名俳優の出演無し、という製作条件の作品にも注目が集まっている、現在の映画興行界。そんな中で公開されたこの『恋のクレイジーロード』こそ、正に第二の『カメラを止めるな!』と成り得る傑作なのは間違いない。

どうしてもそのストーリーからは、血みどろホラーとの印象を持たれるかも知れないが、もう一人のヒロイン?を演じた宇野祥平のラブストーリーとして見ると、本作は悲しい片思いの物語として本当に涙を誘う内容なのだ。特に本作の終盤、夕日に一人佇む宇野祥平の姿は、正に『悪魔のいけにえ』のラストの再現なので必見!

『カメラを止めるな!』で映画の新たな面白さに目覚めた観客にこそ、是非観て頂きたいこの『恋のクレイジーロード』、オススメです!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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