インタビュー

2018年05月09日

「カーッ!ペッ!って、痰を吐くのは初めて(笑)」『孤狼の血』役所広司インタビュー

「カーッ!ペッ!って、痰を吐くのは初めて(笑)」『孤狼の血』役所広司インタビュー

2018年5月12日(土)公開の映画『孤狼の血』。今作は「警察小説」×「仁義なき戦い」と評される柚月裕子の同名小説を、ハードな描写に定評のある白石和彌監督が実写化し、かつての東映を思わせるハードボイルドな作品に仕上がっている。

シネマズby松竹では、大上章吾巡査部長を演じた主演の役所広司さんにインタビュー。大上を演じるうえでの思いや、バディを組んだ松坂桃李さんにまつわるお話、初参加となった白石組についてなど、幅広く語ってくださいました。




──まず、最初に脚本を読まれたとき、どういった印象を受けましたか?

こういう映画を久しく観ていないな、僕もしばらくやっていなかったな、という印象で、すごく興味が湧きました。これまでの白石監督の作品もすごく勢いがありましたし、実際にお会いしてみて「元気のある映画を作りたいんです」というお話を聞いて、ぜひ参加したい、と思いました。

原作も読ませていただきました。こちらは、よりハードボイルドでカッコよくて、演じるのはちょっと照れるなという感じで(笑)。でも、脚本では、監督の色が加わって、愛嬌があって少し身近な、愛すべきキャラクターになっていましたね。

──大上は暴力的だったり型破りだったり、一面的な部分を見せていることが多くて、周りの人の話から彼の本当の姿が見えてくるというところも、今作の魅力のひとつだと感じました。そんな大上を演じるうえで、いちばん大切にされたことはなんですか?

大上も根っこはやっぱり正義の味方なんだと思います。でも、彼はそれを殊更に、自分がやっていることは正義だとは主張しないんですね。自分が目指すことのために、ある意味では無意識で、暴力団との交渉で効果的ないちばんいい方法だけを実践している。だから、やっていることは悪いやつと同じ、ということをはっきりさせて、正義感を見せずに演じるということを意識しました。




──では、クランクインのときに、いちばん重点をおいたところはどこでしょうか。

方言ですね。クランクイン前から撮影中まで、2か月くらいは呉弁にどっぷりと。いまだに呉弁を使ったりしていますよ(笑)。

言葉から、その土地で育った人間というのが染み出てくる感じがしましたし、今回は呉という実際の舞台に腰をすえた撮影だったので、町から聞こえてくる言葉も呉弁でしたし。それをすごく大切にしたいなと思いましたね。

──松坂桃李さん演じる、巡査の日岡修一との関係が劇中でとても細かく描かれていますが、このバディ感を出すために意識されたことはありますか?

芝居で表現する必要はないと思いましたけれど、「こいつが自分のあとを継いでくれる男かもしれない」という思いは大切に演じました。日岡の正義感というのは青くはあるけれど、正しいといえば正しい。大上にとって、日岡が自分を継いでくれる刑事だという思いはあったと思います。

──そんな松坂さんとの共演はいかがでしたか?

彼とは前にも共演していましたし、後半にかけて、だんだん成長していく過程は非常に見事でした。日岡を描いた続編ができるんじゃないかと思うくらいに、彼が呉原という街で活躍していくという雰囲気が漂っていましたね。そこに到達するまでの流れがうまくいっている気がしました。

──久しぶりにお会いしたということですが、そこではどんなやりとりを。

一緒にご飯に行ったりしましたよ。どんな話をしたか? それは秘密です(笑)。




──今回、初めて参加された白石組はいかがでしたか?

やっぱり若松孝二監督のところで育っているからでしょうね、昭和の香りがする監督と言われるって、本人も言っていました。撮影現場も確かに、昭和の監督の雰囲気がありましたね。

自分がこのカットが欲しい、このカットが一番大切だ、というところに粘ってテストを繰り返して時間を掛けて作り上げる。あと、今はもうデジタルの時代になって、たくさんの素材をいろんなアングルからとっておくというのが主流だけど、白石監督は自分が必要なカットだけを非常に丁寧にとる監督だなと思いました。

監督が決断と割り切りが早いので、現場はやっぱり早く仕事が進むし、皆が幸せです(笑)。編集でどうこうしようというのではなく、頭の中にしっかりとしたイメージがある監督だなという印象です。

──印象的だったご指示や演出があれば教えてください。

痰を吐くシーンですね(笑)。これはもともとは台本になく、現場で監督がつけた芝居なんです。最初は「えー!?」って思いましたけど、若松監督のオマージュだったみたいですね。それはあとから聞きました。

映像のなかで「カーッ!ペッ!」って、痰を吐くのは初めてでしたが、昭和のアウトロー感を出すにはなかなかいいのかもしれないなと。



(C)2018「孤狼の血」製作委員会


──この作品に出演されて、俳優として感じたことはありますか?

若い頃はこういう映画を単館系でよく上映してましたね。昔はたくさんありましたが、ぱったりとなくなってから結構時間が経って…。そういう映画があったなぁ、なんてことも忘れかけた頃にこの映画の話がきたんです。

予算も厳しいなかで、熱くて激しい作品を作っていた時代があって、その頃は日本映画がもっと豊かな感じがしていました。あの頃はもっといろんなタイプの映画があって、面白い時代だったんだな、と改めて思いましたね。

こういう作品は、大手映画会社の中では東映さんにしかできないお家芸だと思います。男の子が映画を見た後に、強くなった気分で肩を切って劇場を出てくるような映画が、もうちょっとあってもいいかなと思いましたね。

──かつては豊かな作品が多かったということですが、そんな東映作品の看板を背負って出ることに対する思いや、そう言った作品への思い出はありますか?

あの頃はまだ、こういう作品が多かったですし、深作欣二さんの「仁義なき戦い」シリーズも青春時代に見た記憶があります。この時代に、男の子が男らしく活躍するとか、女を命がけで守るとか、そんな作品がもっと増えてもいいんじゃないかとは思いますね。そんな男たちを「かっこいい!」と思わせる時代がくると、恋愛映画も熱苦しくて面白くなるんじゃないかな(笑)。




当時は予算的には全然豊かではなかったけれど、いろんな個性的な映画監督たちが「こんな映画はどうだ」と作った、バラエティにとんだ作品が多い時代だった気がします。今は、ヒットが狙える原作ありきということも感じるけれども、昔は映画が流行を作っていた時代があったと思うんです。だから、もう少し、オリジナル作品映画を頑張って作らなきゃいけないんじゃないかな、と。

──暴力的なシーンも多いですが、その奥にあるものは女性にも響くと思います。そこで、女性にはどのように観てもらいたいか伺いたいです。

「バカだねぇ、男って。でも可愛いな」って思いながら観てもらえたら、女性にも受け入れてもらえるんじゃないかな。男の子はバカなことをするんですよ。そんな男の描き方がはっきりしていると思います。

最近は、映画館に入るときと出るときで、自分が全く変わるような映画を観ていないですね。昔はこの手の映画をみると、恥ずかしいけど、ちょっと気分が変わっているものでした。なので、男性にはそんな気分を味わってもらえたらうれしいですね。




古き良き時代の空気をまとった映画『孤狼の血』は、2018年5月12日(土)全国公開です。

役所広司プロフィール


1956年生まれ。日本を代表する俳優として、数多くのテレビドラマや映画に主演する。1995年、『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。
翌年の『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』では、国内の主演男優賞を独占。また、『CURE』『うなぎ』(いずれも1997年)、『ユリイカ』『赤い橋の下のぬるい水』(いずれも2001年)など、国際映画祭への出品作も多く、数々の賞を受賞している。
スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭(2014年)では、『渇き。』で日本人初の最優秀男優賞を受賞。2009年、主演の『ガマの油』で初監督を務める。12年に紫綬褒章を受章。映画の近作としては『関ヶ原』『三度目の殺人』『オー・ルーシー』などがある。
役所広司 松坂桃李 真木よう子 音尾琢真 駿河太郎 中村倫也 阿部純子 /中村獅童 竹野内豊/滝藤賢一 矢島健一 田口トモロヲ ピエール 瀧 石橋蓮司 ・ 江口洋介

原作:柚月裕子(「孤狼の血」角川文庫刊)
監督:白石和彌 脚本:池上純哉 音楽:安川午朗
撮影:灰原隆裕 照明:川井稔 録音:浦田和治 美術:今村力
企画協力:株式会社KADOKAWA
製作:「孤狼の血」製作委員会 配給:東映 126分
www.korou.jp
(C)2018「孤狼の血」製作委員会

(写真:生熊友博、スタイリスト:安野ともこ(コラソン)、勇見 勝彦(THYMON Inc.)、文:大谷和美)

<衣裳協力>/GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ) 問い合わせ先:ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社(03-6274-7070)

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