映画コラム

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2017年07月22日

中学“性”の実態が暴かれる……!ヤバすぎる問題作『狂覗』の魅力と意義はこれだ!

中学“性”の実態が暴かれる……!ヤバすぎる問題作『狂覗』の魅力と意義はこれだ!



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アップリンク渋谷で7月22日より公開される映画『狂覗』は、低予算ながら作り手の圧倒的な熱量を感じる意欲作にして、衝撃の問題作でした!その魅力と意義を以下にお伝えします!

1:舞台はほぼ教室のみ!役者の熱量がすごい!


本作のあらすじを一行で表すのであれば、「中学校での教師半殺し事件といじめの真相を、教室での荷物検査だけで暴く」というもの。大切なことなのでもう一度書きますが、“教室での荷物検査だけで真相を暴く”のです。つまり、映画の舞台はほぼ教室の一室のみなのです!

本作の原案となっているのは、深夜ドラマ化や舞台化もされている宮沢章夫著の「14歳の国」。この原案および『狂覗』では問題の当事者であるはずの中学生の姿がほとんど登場せず、あくまで“教師からの視点”がメインになっています。ここが重要で、中学生の恐るべき実態が徐々に明らかになっていく過程にはミステリーのような面白さがありますし、何よりその(荷物に限定したがゆえの)情報の少なさこそが、予測できない衝撃の展開につながっていくのですから。

出演者はほぼ無名の方ばかりですが、その演技は“入魂”の一言。良い意味で嫌悪感を覚えるクセの強い教師たちを、これ以上ないほどに演じきっていました。しかも撮影日数はたったの5日間だったということで、藤井秀剛監督は現場を振り返り、ただ「地獄だった」と語っていました。低予算であるのにスクリーンから圧倒的な熱量を感じるのは、窮屈な教室が舞台になっていることだけでなく、役者とスタッフたちが疲弊しきってしまうほどの“凝縮された”作品作りがあったおかげなのでしょう。

本作を観て真っ先に思い出したのは、同様に一室での登場人物のやり取りだけで物語が進む名作映画『十二人の怒れる男』でした。室内のうだるような熱気や、論理的に構築された“事実の提示”や“逆転”に、似たものを感じられるでしょう。


2:中学校だけでなく国の問題も描いている?“怒り”が込められた作品だった!


藤井監督が本作を作るきっかけとなったのは、「中学生の男女がSNSを通じてお互いの性器を見せあっている」という衝撃の事実が書かれた新聞の小さなコラムだったのだそうです。本作ではこうした中学生の性の問題や、いじめや教師による性犯罪について、“問題提起”をしている内容と言ってよいでしょう。

映画を観て感じられるのは、圧倒的なまでの“怒り”という感情です。その怒りは劇中の問題の当事者である中学生だけではなく、生徒に許可を得ずに勝手に荷物検査をしている教師たちにも向けられています。まるで「勝手に誰かを問題視しているけど、お前たちも異常なんだぞ」と訴えられているかのように……。

さらに、本作ではいじめや犯罪行為だけでなく、国家規模の汚職事件や隠蔽工作を暗喩していると思しきところもあります。本作の“学校(教室)”を“国”に、“教師”を“政治家”に、“中学生”を“国民”に置き換えても面白く観られるでしょう。社会の体制や理不尽な出来事に憤りを覚えている方にとって、本作は重要な意味を持つ映画になるのかもしれません。

また、劇中ではセックスという意味の性の事情を明らかにするだけでなく、「サガ」と読むほうの性(避けられない性質のこと)を描いているとも取れます。いじめや性犯罪を人間のサガだとは思いたくはないのですが……あえて本作はそこに踏み込み、人間の残酷さや矛盾をしっかりと描いている映画なのです。



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3:“不愉快”という感情こそが重要だった


はっきりと申し上げて、本作を観終わった時に沸き起こった感情は「不愉快」でした。それもそのはず、前述したように、勝手に持ち物検査をする教師たちが物語の中心にいるばかり、次々と中学生たちのおぞましい“悪意”も明らかになるのですから……。

ただ、その不愉快さは、作り手が“意図的”に提示してきたものであることは間違いありません。「わざわざ映画を観て気分を悪くしたくない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これがあるからこそ、前述したようないじめや性犯罪の問題が、深刻かつ“考えなければいけないこと”に思えてくるのですから。

本作の終盤の驚天動地の展開には、(良い意味で)最悪な気分になりました。ただ、繰り返しますが、本作は徹底的にイヤな気分になるどころか、その不愉快な感情を呼び起こすことを目的にしていると言っても過言ではない、そして、それこそが作品に重要であった、という映画なのです。

ちなみに制作過程において、硬派な内容に難色を示した映画会社から、エンディングを変えるほか、内容をコミカルにしてほしいという要望があったそうですが、監督はそれら全てを拒否したのだとか。不愉快な人物描写や、衝撃のラストは、藤井監督が“絶対に譲れない”ものだったのでしょう。監督が本作に込めたメッセージと、何より猛烈なまでの“怒り”が込められた結末を、見届けてほしいです。



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おまけ:良い意味でイヤな気分になれる、この映画を観て欲しい!


ここからは、前述した『十二人の怒れる男』以外で『狂覗』が気に入った人に観て欲しい、またはこの作品が好きな人に『狂覗』をおすすめしたい、“良い意味でイヤな気分になれる”3つの映画をご紹介します。

1:『トガニ 幼き瞳の告発』






韓国で現実に怒った性的虐待事件を映画化した作品です。加害者の大人たちが演技に見えないほどに醜悪に見え、おぞましい性的虐待のシーンを逃げることなく描いているため、本気の憎しみが湧いてくるでしょう。この世の地獄のような辛苦を受け続ける子どもたちと、彼女たちを守ろうとする優しい主人公に目いっぱい感情移入でき、「性的虐待を絶対に許してはならない!」と誰もが思えるはず。ホラーや法廷サスペンスとしても抜群に優れているので、重いテーマだと敬遠せず、一度は観て欲しい傑作です。

2:『渇き。』





R15+指定では甘いと思わせる直接的な残酷描写だけでなく、売春やドラッグ描写もてんこもり、この世の“社会悪”で煮詰めたような内容です。現実離れしていると思いきや、現実に起こった児童買春組織による事件が元ネタの1つになっており、決して絵空事でもないという事実に悲しくなりました。小松菜奈演じる悪魔のようなキャラクター、どこからどう見てもクズな男になった役所広司もすさまじいインパクト。家族や恋人と観るにはまったくおすすめできない、痛烈な印象を残す映画です。

3:『葛城事件』






秋葉原の通り魔事件や「黒子のバスケ」脅迫事件など、複数の事件をモデルにした作品です。殺傷事件が起こるまで(起こった後も)“家族という地獄”をとことん見せる描写の数々には良い意味でゲンナリとさせられました。この映画を観ると、殺人や放火などの怖いニュースを聞いても“対岸の火事”のように安心してしまうことはなくなるでしょう。「自分もこんな家族の一員になってしまう可能性があったかも」と思ってしまうシーンまでもがたっぷりあるのですから……。この世に偏在する地獄を描くことで、逆説的に現実で「どうすれば幸せになれるのか」を考えられる大傑作です。

『狂覗』も含め、これらの映画は現実に起きた事件がモデルになっており、良い意味での嫌悪感や不快感でいっぱいになれる作品です。そこから沸き起こる圧倒的な“怒り”という感情は、書籍や新聞の記事だけでは沸き起こらないでしょう。映画でしか成し得ない“問題提起”が、そこにはあるのです。

『狂覗』はアップリンク渋谷で7月22日より公開のほか、別府ブルーバード劇場で8月19日、大阪シネ・ヌーヴォXで8月26日より公開されます。

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(文:ヒナタカ)

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