『レディ・バード』に見る青春の輝きと痛みを3つのポイントから考察!

© 2017 InterActiveCorp Films, LLC.

6月1日より、映画『レディ・バード』が公開されます。本作は映画レビューサイトRotten Tomatosで驚異の100%の評価(現在は314人中310人が肯定して99%の評価)を得て、アカデミー賞では5部門にノミネート、ゴールデングローブ賞は作品賞と主演女優賞を受賞、各映画賞で述べ100部門を受賞し191部門にノミネートと、絶賛で迎えられています。

本作がなぜそこまでの評判を集めたのか、どういったところに魅力があるのか、以下よりたっぷりと紹介します。

1:主人公の女子高生が痛い! “青春あるある”が満載だった!

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本作の大きな特徴の1つが、主人公の女子高生がとても“痛い”女の子であることです。

具体的には、主人公は自分の本名がイヤだと言って、レディ・バードというあだ名で呼んでほしいと周囲に頼むのです。(「赤毛のアン」のアンがその平凡な名前よりも、憧れの名前で呼んでほしいと言っていたことを思い出す方もいるかもしれません)

他にも、主人公は教師の目の前で自分の評価に不服を漏らしていたり、本当はサクラメントの田舎で生まれ育ったのに出身地を聞かれてサンフランシスコだと嘘をついたりもしています。特に、“初体験”に並々ならぬ期待を寄せていたのに、それがひどい思い出になってしまうのは、観ているこちらの胸が痛い!

こうした主人公の痛い行動は、同時に“青春あるある”でもあります。羞恥心や自信のなさ、田舎で生まれ育ったがゆえのコンプレックス、あるいは過度な自尊心のために、嘘をついてしまったり、大人になった時に黒歴史になる行動(若気の至りとも言う)をしてしまうというのは決して特異なことではなく、誰もが思いあたることでしょう。(「ここではないどこかに憧れる」「自分は特別な存在だと思い込む」というのは、日本で言うところの中二病に近いのかもしれません)

監督と脚本を務めたグレタ・ガーウィグは、「本作で起こる出来事に実話は1つしてないけれど、故郷、幼少期、巣立ちに対する想いに繋がる核心部分は本物である」と語っています。

まさにこの通りで、フィクションとは思えないほど、本作の“思春期特有の痛い行動”と“青春あるある”はリアルです。「青春の輝きと痛みを知る」「誰もが共感して心震わせる」「これは、あなたの物語」という触れ込みは伊達ではなく、世界中の多くの人が“思い当たる”内容になっていることが、本作の最大の魅力と言って良いでしょう。

2:物語の中心は“母親と娘”! レディ・バードという名前の由来はこれだ!

本作では高校3年生になる主人公と、その周りの友人や恋人などの多様な人間模様が描かれています。その物語の中心となるのが、実は“母親と娘”である、ということも特筆しなければならないでしょう。(何しろ、本作は長い間「Mother and Daughter」という仮のタイトルがつけられていたのですから)

父は失業してしまい、家計を支えているのは看護師の母で、家ではスーパーで働く養子の兄とその恋人が居座っている。主人公は、そんな家族に嫌気がさしており、離れた場所の大学に通いたいと告げるものの、地元の大学に行かせたいと願う母と大ゲンカしてしまう……。その後も主人公とその母は衝突を繰り返しており、これもまた、“思春期特有の痛い行動”または“青春あるある”でした。(また、映画の冒頭に主人公が母とのケンカの末に起こした行動は、かなり衝撃的です)

監督と脚本を務めたグレタ・ガーウィグは、「母親と娘のどちらにも感情移入ができるようにしたかった」「どちらかが“正しい”や“間違っている”という構図は避けたかった」「お互いが相手と理解し得ないことに苦しみながらも、最終的にはお互いの究極の愛に報いたかった」とも語っていました。世の中に普遍的に存在する母と娘の関係のほとんども、えてしてそんなものですよね。繰り返しますが、世の中の多くの青春映画では男女の関係が物語の中心になるところを、本作では母と娘の関係を主軸にしているのです。

ちなみに、レディ・バードという主人公のあだ名は、なぜ思い浮かんだかがグレタ・ガーウィグ自身にも初めはわからなかったそうです。しかし、後から「マザー・グース」の歌に「レディ・バード、レディ・バード、おうちに飛んで帰りましょ」とあったことに気付いたのだとか。その歌詞の意味は、「子どもたちが無事かどうかを確かめるために、母親が家に帰ってくる」というものであったそう。それはまさに、本作の母と娘の物語に通じています。

撮影中のシアーシャ・ローナンとグレタ・ガーウィグ監督 / © 2017 InterActiveCorp Films, LLC.

 

3:元々は6時間の映画? 膨大な時間を費やして書いた脚本だからこその“余白”があった!

グレタ・ガーウィグは、本作の脚本に膨大な時間を費やしたようです。ずっと書き続けたわけではないものの全体で数年はかかっており、その執筆スタイルは不要な部分を次第に削り落とし、エッセンスを見つけ出すというものだったのだとか。作品によっては書きすぎて何百ページも削除してしまうこともあるそうで、本作の脚本の初稿は何と350ページにもおよび、そのまま映画にすると6時間近い上映時間(!)になっていたのだとか。

結果的に本作の上映時間は94分と短めになりましたが、その情報量は2時間を超える大作映画よりも多く、また登場人物の誰もがリアルであるため、映画で描かれていなかった“余白”にも想像がおよびます。そのような映画としての豊かさがあるのは、この“たくさん書いてから削ぎ落とす”脚本の作り方のおかげでもあったのでしょう。

余談ですが、グレタ・ガーウィグが共同脚本と主演を務めた映画に『フランシス・ハ』があり、こちらは27歳になってもまったく芽が出ない冴えないダンサーの物語になっています。若者の生活をリアルに描いていること、青春の苦さを思い知る内容であることが『レディ・バード』とかなり似ていました。この2本を観れば、その“作家性”が如実にわかることでしょう。(グレタ・ガーウィグはこのような“マンブルコア”と呼ばれる低予算のインディペンデント映画のジャンルで、知名度を上げていた人物であったりもします)

さらに余談ですが、グレタ・ガーウィグは現在公開中のストップモーションアニメ映画『犬ヶ島』で、偏見と思い込みが蔓延する世界で、巨悪の腐敗を暴こうとする留学生の女の子の声を演じています。この女の子の性格を一言で表すと痛快無比、映画界で躍進する彼女自身の姿にも重なるようで、何とも嬉しくなりました。

おまけ:女優シアーシャ・ローナンの魅力とは? 8月公開の主演作『追想』も要チェック!

ハンナ (字幕版)

本作で主演を務めたのが、シアーシャ・ローナンということも重要です。『つぐない』で13歳という若さでアカデミー助演女優賞にノミネートされ、『ラブリーボーン』で主役に抜擢された以降は、『ハンナ』で銃を使いこなすサバイバル術に長けた少女、『ビザンチウム』では吸血鬼、『ザ・ホスト 美しき侵略者』では地球外生命体に寄生されてしまう少女と、一風変わった役を多くこなしています。

ブルックリン   (字幕版)

シアーシャ・ローナンは、『ブルックリン』と『レディ・バード』ではついにアカデミー主演女優賞にノミネートされます。彼女が演じてきた女性は、決して誰もがうらやむような美人ではなく、一見すると弱々しくもあるものの、その瞳や表情からは“芯の通った強さ”を感じさせます。その作品群を観れば、名女優の階段を駆け上がっていったことに誰もが納得ができるでしょう。

そして、この『レディ・バード』の日本公開からわずか2ヶ月後、シアーシャ・ローナンがまたしても主演を務めた映画『追想(原題:On Chesil Beach)』が8月10日に公開されます。実は、これがかなりの衝撃作だったのです!

『追想』 © British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

何しろ、『追想』で描かれる新婚夫婦の結婚生活は、わずか6時間なのですから。主人公の2人が結婚式を挙げてから、6時間後に決裂するんです。繰り返しますが、6ヶ月でも6週でも6日でもなく6時間です。しかも“初夜”をまだ日が出ている時間に始めてしまうので、「早すぎるだろ!」と心の中でツッコミを入れてしまいました。

『追想』はパッと見のイメージではマジメなドラマ作品にも見えますが、ある意味ではブラックコメディと言っても良いのです。さらに、終盤には予想だにしない衝撃の展開があり、これはまだ観ていない人には口が裂けても言えない! 前半の主人公2人の“違和感のあるイチャつき”や“家族の関係”の描写は正直に言ってちょっと退屈にも感じたのですが、その全てに重要な意図が隠されていたことにも感動しました。

ちなみに、シアーシャ・ローナンは性的な意味でひどい目にあったり、理不尽な女性差別を受けてしまう役をなぜか多く演じています。(ある意味で、この『追想』の役柄がもっともかわいそうとも言えるのかもしれません)男性が『追想』を観ると、『レディ・バード』以上に良い意味で胸が痛くなりますよ。

 

まとめ:前向きに生きるヒントがもらえる映画だった

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『レディ・バード』の映画本編には、(衝撃的な冒頭の展開を除いて)全くと言っていいほど派手さはありません。大きな出来事はそれほど起こらず、悪い言い方をすれば地味な内容と言っても良いでしょう。世界中で高い評価を得た作品ではありますが、わかりやすいエンターテインメントとしての面白さや、起伏のある物語のダイナミズムを求めてしまうと、肩すかしに感じてしまうのかもしれません。

しかし、それを言い換えれば、若者の日常を丹念に描き、彼女たちの気持ちに寄り添うことで、“誰もが思い当たる”面白さが満載ということでもあります。そうして“(ちょっぴり痛い)普通の青春”や“身近な人の愛おしさ”に触れられるというのは、貴重な体験になることでしょう。

痛い女の子にとことん感情移入したい方、または身近な人とケンカをしてしまった、将来の選択肢に悩んでいる、という方に、この『レディ・バード』をオススメします。きっと、現実で前向きに生きるためのヒントがもらえますよ。

(文:ヒナタカ)

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