『ラスト・ムービースター』鑑賞後はもう“ワンス・アポン~”なんて言っていられない!

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クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でレオナルド・ディカプリオが演じる主人公の俳優リック・ダルトンと、ブラッド・ピット演じるスタントマン、クリフ・ブースのモデルはバート・レイノルズとハル・ニーダムであると伝えられています。
(タランティーノはレイノルズを『ワンス~』に起用しようとしていましたが、惜しくも2018年9月6日に死去したことで実現はならず、代わりに彼の盟友ブルース・ダーンが出演することになりました。盲目のスパーン映画牧場主の役です)

1960年代にTVスターとして活躍したバート・レイノルズは、やがて映画スターとしても開花し、彼のスタントマンであったハル・ニーダムを監督に起用して『トランザム7000』(77)や『グレート・スタントマン』(78)など映画マニア垂涎の快作を発表しています。

特に70年代前半から80年代前半にかけて絶大なる人気を誇るマネーメイキング・スターであり、時のセックスシンボルとしてももてはやされたバート・レイノルズではありますが、残念なことに80年代後半から一気にスランプに陥って低迷していまい、おかげで今の若い映画ファンで彼のことを深く認識している人は少ないのではないでしょうか……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街405》

しかし、そんなバート・レイノルズが自身の人生を自虐的かつ微笑ましい笑いに転換させた最後の主演映画『ラスト・ムービースター』がようやく日本でも9月6日より公開となりました。

これぞまさに「ワンス・アポン・ア・タイム~なんて言ってられないよ!」とでもいったレイノルズならではの飄々とした存在感と、単なるノスタルジーの域に留まらない映画愛に裏打ちされた、すべての映画ファン必見の快作なのでした!

往年の映画スターに突如
映画祭招待!その実態は?

『ラスト・ムービースター』の主人公は、かつてハリウッド映画スターとして一世を風靡しながらも今は高齢となり、広大な邸宅で長年一緒に暮らしていた愛犬にも先に去られて独りきりになり、落ち込みがちな日々を過ごすヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)です。

そんなヴィックにある日「国際ナッシュビル映画祭」から招待状が届きました。

どうやら彼の主演映画を回顧上映するとともに特別功労賞を贈呈したいので、ぜひ映画祭に出席してほしいとのことなのです。

同映画祭賞の過去受賞者はロバート・デ・ニーロにジャック・ニコルソン、クリント・イーストウッド。さすがの大スターばかりです。

ヴィックは旧友の元映画スター、ソニー(チェビー・チェイス)からも勧められ、映画祭に赴くことを決意しました。

が、いざ手配された飛行機の切符はエコノミー・クラスで、ナッシュビル空港に着いてもなかなか迎えは来なくて、ようやくポンコツ車で現れたのがおよそ自己健康管理もできていなさそうなヤンキー娘リル(アリエル・ウィンター)。しかも案内されたホテルはスターが泊まることなどあり得ない安宿で、決定的なのは、映画祭の会場は映画館ではなく、ただの酒場!

つまりこの映画祭、パブを経営する映画オタクでリルの兄ダグ(クラーク・デューク)とその仲間たちが主宰する自主上映会みたいなもので、特別功労賞にしても彼らが勝手に決めただけのことでしかなく、過去3回の受賞者も当然ながら誰も招待に応じることはなく、第4回目にして初めてヴィック・エドワーズという大スターが来訪したということで酒場、いや場内は大騒ぎなのでした。

プライドを傷つけられて愕然となり、酔いつぶれて思わずダグらに悪態をついてしまったヴィックは、翌朝、家に帰ろうとリルに命じて車を空港に向かわせるのですが、その途中「ノックスビル」の標識を目にした彼は、急遽進路を変更。

実はテネシー州ノックスビルは、ヴィックの故郷だったのです……。

映画と映画ファンに向けての
感謝の意を表した快作!

このように、いくら落ちぶれたとはいえ、往年の映画スターにこのような扱いはないだろう! と突っ込む声もあるかもしれませんが、単に映画ファンの熱い思いが高じて催される映画祭なんて、意外にこういった手違いや勘違い、映画界に精通していないが故の配慮の足りなさみたいなことから生じるトラブルも往々にして起きるもので、誇張こそあれ決して絵空事ではありません。

本作の素晴らしいところは、そんな良くも悪くもの手作り映画祭に往年の大スターが呆れ返りつつ、次第に主宰する側の純粋な映画愛に気づかされ、ひいては一時は傷つけられたプライドはもとより、自分が映画ファンにとっていつまでも永遠の映画スターであるという誇りを取り戻していくところにあります。

つまりはバート・レイノルズ自身が自分と自分の映画をいつまでも愛してくれるファンに向けての感謝の意を表すべく出演した映画、それが『ラスト・ムービースター』であるともいえるでしょう。

実際、この映画の中にはレイノルズ・ファンなら思わず口元が緩んでしまう主な瞬間が多数あります。

特に嬉しいのは、レイノルズの過去主演映画の数々が劇中で引用されるばかりではなく、その中に本作の主人公が入り込むことで(つまりはCG合成で)、バート・レイノルズとヴィック・エドワーズの共演がなされていること!

また劇中幾度もクリント・イーストウッドの名前が出てきますが、彼とレイノルズは70年代から80年代にかけて人気を二分していた時期もあり(むしろレイノルズのほうが人気があった?)、そんなふたりは『シティ・ヒート』(84)で初共演するも、これを境にイーストウッドはますます躍進し、逆にレイノルズは低迷していきました。
(ジャック・ニコルソンにしても、実はレイノルズは『愛と追憶の日々』83のオファーを断り、結果としてニコルソンが出演してアカデミー賞助演男優賞を受賞しています。他にもレイノルズは007シリーズや『スター・ウォーズ』ハンソロ役を断るなど、結構ステップアップのチャンスを逃してきた俳優人生なのでした)

それでも『ブギーナイツ』(97)でポルノ映画監督を演じてアカデミー賞助演男優賞候補になり(ゴールデングローブ賞では助演男優賞を受賞)、それこそ今日本で話題のネットフリックス問題作『全裸監督』の山田孝之に先駆けるようなセンセーショナルなことも飄々とやってのけてしまえる、彼ならではの大胆奇抜さが帰結しての本作ではないかと思われるところもあります。

一方で特筆しておきたいのは監督・脚本のアダム・リフキンで、彼は1978年を舞台にした『デトロイト・ロックシティ』(99)で人気ロックバンドKISSのコンサートを見に行こうとする4人の高校生のドタバタ行動を通して、ある事象の虜になっていくファンというものが内包する気質の素晴らしさを前向きに捉えていました。

本作も「国際ナッシュビル映画祭」を主宰する面々を通して、多少的外れではあっても映画ファンの熱い想いを肯定しようとする作り手の姿勢の心地よさが大いに感じられてなりません。

何よりも本作の彼らは映画ファンとして、自分たちが愛する映画とそのスターを少しでも世に広めたいと行動し続けています。

その意味ではノスタルジックな悦に入り、殻の中に閉じ籠って夢想したかのような自身の映画愛を過激に炸裂させながらひけらかすのも結構ですが、本作の彼らのほうが、そして本作そのもののほうが、より映画に対して前向きで勇気ある行為を成しているのではないでしょうか。

『ラスト・シューティスト』(76)のジョン・ウェイン、『アドベンチャー・ロード』(80)のウィリアム・ホールデン、『黄昏』(81)のヘンリー・フォンダなどなど、映画スターの中には自身の人生そのものを晩年の映画出演の中で体現し、その存在を永遠のものにしていく者がいます。

バート・レイノルズもまた本作をもって、その中のひとりに加えられることは間違いないでしょう。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に彼が出演できなかったことを惜しむ声も最近よく耳にしますが、その前に『ラスト・ムービースター』なる映画スター、バート・レイノルズの名声と魅力を永遠に語り継ぐ作品が既に存在していたという事実をもって良しとしてもいいのではないか?

もちろん彼にはもっといっぱい映画出演してほしかったという哀しさもあるものの、それとは別の不可思議で妙に心地よい感慨にも包まれている次第です。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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