超実写版『ライオン・キング』、アニメ版に劣らず優れている「6つ」のポイント

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映画鑑賞料だけでアフリカに行けるって凄くないですか? と問いかけたいくらいに、“超実写版”の『ライオン・キング』という世界観は、観る者を圧倒する映像を提示してみせた。監督を務めたジョン・ファブローは、今や監督としてだけでなく俳優としてMCUになくてはならない存在になっていて、『アイアンマン』第1・2作の監督を務めたと思いきや『スパイダーマン』シリーズのメイおばさんと仲良しになっていたり。

そんなファブロー監督が、『ジャングル・ブック』に続いてディズニーの名作アニメを実写へとアップデートした『ライオン・キング』。何をもってして“実写”と呼ぶのかはさておくとして、今回は超実写版として生まれ変わった作品の見どころをご紹介したい。

敢えてアニメ版を完全踏襲した物語

さて、アニメ版『ライオン・キング』はディズニーアニメーション史に残る作品だということは言うまでもない。1994年公開作品なので遡ること25年前に製作されたことになるが、はっきり言っていま観直してみても全く色褪せるところを感じさせない。アフリカのプライドランドを舞台にした壮大な物語は、観客の胸に深く刻まれているのではないだろうか。

ざっと作品を振り返ると、プライドランドの“王”として君臨するライオン・ムファサの息子シンバの視点で物語は展開する。やがて王になることを定めれたシンバだが、そこに立ちはだかるのは叔父にあたるライオン・スカーだ。ムファサの弟であり、その生き方は狡猾にして姑息。内に秘めたる野望はプライドランドに大きな悲劇をもたらす。まだ幼いシンバはプライドランドを離れざるをえず、行きついた先でティモンとプンバァという何物にも代えがたい“友達”と出会うことになり──。

今回の実写化で何よりも驚いたのは、アニメ版のストーリーを逸脱することなく構図すらも踏襲して描かれていることだろう。ハリウッドにおける実写化やリメイクの潮流はこの数年数えきれないほどの作品を生み出してきたが、ここまでオリジナルに忠実な実写化というのは珍しいのではないだろうか。

近年のリメイクでは時代背景を新たに物語に組み込むことで、オリジナルにはなかったメッセージ性を持つ作品が多い。そのこと自体が“いまリメイクする”ことに意味を持たせ、観客に新しい感動と興奮を与えることになる。では今回それを敢えてしなかった超実写版『ライオン・キング』は失敗かと言えば、そんなことは有り得ない。

そもそもオリジナルでは野生の動物王国を舞台にした“サークル・オブ・ライフ=生命の環”をテーマにしており、それで間違いなく完成・完結された物語になっている。今回同じ野生の王国であるプライドランドを舞台にして同じキャラクターが登場するのだから、敢えて新しい価値観を見出さずともオリジナルに忠実にすれば、作品の魅力は自ずと継承される。オリジナルにないものを求めるのではなく、原点を忠実に再構築してくれたことの方が筆者としては喜びが大きかった。

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プライドランドを現実化した圧倒的映像美!

とにもかくにも本作で驚かされるのは圧巻の映像美だ。上映開始後アフリカの大地にさんさんと朝日がなだれ込み、やがて動物たちが顔を上げて“その日”=シンバのお披露目が来たことを知る。セリフもない、単純に動物たちが目覚めそして動き大地を一歩ずつ踏みしめて歩き出すファーストシーンで、観る者をあっという間にプライドランドへと誘う。CGとはいえプライドランドを彩る草木や土、水、そして動物たちの息遣いによって、観客は映画館ではなくプライドランドの住人になるのだ。この高揚感は間違いなく最新技術を駆使した映像の賜物であり、この時点で“実写化”した意味はあったのだと思う。

つい数年前までは「動物のリアルな毛並みをCGで表現することは難しい」と言われていたのが、今回の映像には驚かされるばかり。風にたなびくムファサのたてがみ。幼きシンバの、幼体らしいふさふさの毛並み。その1本1本が陽光を反射して輝く様は、そこに本当に存在しているかのようだ。毛並みだけではない、体に走った血管の膨らみや皮膚のシワに至るまで、細かい描写が観る者の目を通して肌触りを伝えてくれるようにも感じられる。手で触れることはできないものの、視覚を通した肌触りが作品にリアリズムを与えて世界観を再構築したことは、やはり実写化の上で大きな価値になったのではないだろうか。

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“キング・オブ・エンターテイナー”、ジョン・ファブロー

往年の名作を実写化するにあたって、ファブロー監督が背負っていたプレッシャーはいかほどのものだったのだろうか。それでも完成した作品を観てみればそんなことは微塵も感じさせないのだから、ファブロー監督の度量たるや凄まじい。『ジャングル・ブック』を見事に実写化して実績を残しているとはいえ、だからといって同じように作品をモノにできるかどうかは予め決められるものではない。

本作は実写化において賛否が分かれている点もあるが、本国では公開初週末の興収が約1億8000万ドルのスタートダッシュを決めており、世界興収ではディズニーアニメの実写化作品No.1の称号を獲得したばかり。さぞファブロー監督も胸を撫でおろす思いではないだろうか。MCU以外にも『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』やスター・ウォーズの新作ドラマ『The Mandalorian』(原題)を手がけるなど、近年はとにかくその多才ぶりに一層磨きがかかってきたと言える。

もともとアニメ版は“キング・オブ・エンターテインメント”の呼び声が高く、続編やミュージカル化など世界観の拡張が続いていた。ここにきて満を持しての実写化となったが、いま考えてみてもやはりファブロー監督の起用はこの上ない選択だったはず。アニメ版と構図を同じにするだけでなくその構図の中でどんな映像が展開しているのか。ファブロー監督によってスポットを浴びた動物たちがどのように話し、どのように行動するかという点でも統制された演出意図によってアニメ版の魅力を崩すことなく再びスクリーンに映し出した。ガイ・リッチーだからこそ実写版『アラジン』をまとめられたように、ファブロー監督だからこそ超実写版『ライオン・キング』は成功を収めたのだと思う。

豪華ボイスキャストにより吹き込まれた命

アニメ版・超実写版にしろ重要になってくるのはボイスキャストによる演技。たとえ声だけだとしてもプライドランドという世界観を作り上げる上では繊細な感情表現を必要とし、なおかつミュージカルナンバーが多いことでも半端なものは許されない。その点は本作でもオリジナルに劣らず実力派のメンツが揃い、シンバ(大人)役のドナルド・グローヴァーやラナ役のビヨンセといったように、キャスティングからも製作側の“本気度”が窺える。

特に注目したいのはビリー・アイクナー演じるミーアキャットのティモンと、セス・ローゲン演じるイボイノシシのプンバァ。シンバを救うという意味において本作になくてはならないコンビだが、なといっても魅力的なキャラクターにあっという間に引き込まれてしまう。プンバァの初登場シーンではセス・ローゲンらしさ全開で、陽気なプンバァというキャラを確立するトーンが始めから最後まで耳に馴染みやすい。ティモンもアイクナーの美声があってこそ「ハクナ・マタタ」や「ライオンは寝ている」といった楽曲で実に効果的。

ちなみに日本語吹き替え版はシンバ(大人)を賀来賢人、スカーを江口洋介、ラナを門山葉子、ティモンを亜生(ミキ)、プンバァを佐藤二朗といったようなキャスティングになっており、もちろん劇中で見事なボーカルナンバーも披露している。字幕版・吹き替え版両方の楽曲を耳で楽しみたくなった時には、本作のオリジナルサウンドトラック・デラックス版がおススメ。英語版CDに加えて日本語吹き替え版キャストによる日本語版もセットになっているのでぜひ耳を傾けてみてほしい。

オリジナルメンバー集結&新たな魅力が加わった音楽! ボーカル編

本作はアフリカンボーカリスト・レボMによるズールー語のボーカルによって幕を開ける。そのダイナミックなパフォーマンスはオリジナル版で大きなインパクトを与え、『ライオン・キング』と聞けば自動的に頭の中で「ナー! ツィゴンニャー!」と再生される人が多いのではないだろうか。

これはディズニーミュージックを代表する1曲である「サークル・オブ・ライフ」の冒頭部分で、レボMとスコアを担当したハンス・ジマーによる共作パート(「ナー・イゴンニャマ」)にあたる。本作ではレボMのボーカルパートに続いてリンディウェ・ムキゼによる圧倒的なパフォーマンスが光る「サークル・オブ・ライフ」へと引き継がれ、鳥肌が立つほどカッコいいタイトルクレジットへ続く。

本編を彩るボーカルパフォーマンスでは、ドナルド・グローヴァーやビヨンセら主要キャストが歌声を披露。さらに面白いのはエルトン・ジョン&ティム・ライスの黄金コンビが手がけた楽曲を、ファレル・ウィリアムスのプロデュースで新録を行なっていることだろう。ファレルといえば言わずもがな「Happy」などのヒット曲を持つシンガーであり、近年ではジマーとタッグを組むことが多い。そんな流れもあって本作への参加となったと思うが、ファレルは「王様になるのが待ちきれない」「ハクナ・マタタ」「ライオンは寝ている」「愛を感じて」「ムブーベ」でプロデュースを担当しているので、オリジナル版との違いを探ってみるのも楽しみ方のひとつかもしれない。

オリジナル版で数々の名曲を生み出したエルトン&ライスのコンビは、本作で新作「ネバー・トゥー・レイト」を披露している。これがなかなか意表を突く楽曲というべきか、実にアップテンポな曲調でエンディングに挿入されている。オリジナルから25年の時を経てなおこのような楽曲を生み出すとは、2人の底知れない音楽への欲求が見事に提示された形なのではないだろうか。

オリジナルメンバー集結&新たな魅力が加わった音楽! スコア編

ハンス・ジマーはオリジナル版でスコアを作曲した25年前、見事にアカデミー賞作曲を初受賞。ジマーにとって大きな転換点となった作品だが、当初は引き受ける予定ではなかったというのだから驚きが大きい。それでも作曲することに決めたのは娘のゾーイ・ジマーのためで、奇しくも本編と同じく音楽面でも父と子の物語が展開していたのだ。

それから25年が経ち、超実写版でもスコアを担当したジマーがゾーイとともにワールドプレミアに参加した姿がなんとも感慨深い。ゾーイは父親の跡を継がなかったとはいえモデル・写真家として活動していて、最近では父親の宣材写真も撮っているほどの仲良しぶりを見せている。そんなジマーが本作ではどのようなアップデートを加えたかといえば、筆者としてはジマーがディズニーで『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズを手がけたことが大きいように感じられた。オリジナル版よりも洗練されたスコアになり、ライブ感を重視した楽曲が過剰な演出にならず映像をサポートしていたのだ。

そもそも今回の曲作りではコーチェラのライブで『ライオン・キング』の楽曲を演奏した際にジマーが手応えを感じ、ライブ感を出そうとファブロー監督に持ち掛けた経緯がある。実際にサウンドトラックを聴いてみると、たとえば「ヌーの暴走」や「思い出せ」のように迫力と情感のうねりを伴う楽曲でもオーケストラで音の厚みを出しているわけではない。ひとつひとつの楽器に重点を置き、それが重なることによってドラマ性を高めていることがわかる。ちなみに『ワンダーウーマン』のテーマ曲で有名になったチェリストのティナ・グオが本作では一転してドラマチックなチェロの音色を響かせているので要注目。

まとめ

25年という長い時間を経てスクリーンに蘇った、或いは生まれ変わった『ライオン・キング』。テーマとする“生命の環”と同じく作品そのものも様々な状況下で循環して今という時代に生まれ、新たに語り継がれていくというのも趣の深さを感じはしないだろうか。エンターテインメントの神髄をぜひ劇場で確かめてほしい。

(文:葦見川和哉)

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    葦見川和哉

    葦見川和哉

    葦見川和哉 映画が好き。旅が好き。小説が好き。 映画開眼と同時に映画音楽の魅力にも取りつかれたサウンドトラック収集家。

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