映画コラム

REGULAR

2017年06月12日

『LOGAN/ローガン』に、何故これほど多くの観客が泣けて感情移入するのか?

『LOGAN/ローガン』に、何故これほど多くの観客が泣けて感情移入するのか?



(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX



Xメンシリーズの人気キャラクター「ウルヴァリン」を主人公にしたスピンオフ作品、『LOGAN/ローガン』。

6月1日の公開以来、楽しむためにはある程度のリテラシーが必要なアメコミ映画でありながら、男女や年齢を問わず幅広い層の観客の高評価を得ている本作。果たして、その理由はいったいどこにあるのか?

今回鑑賞したのは公開二日目の最終回。確かに幅広い客層で満席状態だった本作の、内容と出来はどうだったのか?

予告編


ストーリー


近未来では、ミュータントが絶滅の危機に直面していた。治癒能力を失いつつあるローガン(ヒュー・ジャックマン)に、チャールズ・エグゼビア(パトリック・スチュワート)は最後のミッションを託す。その内容は、ミュータントが生き残るための唯一の希望となる少女、ローラ(ダフネ・キーン)を守り抜くことだった。武装組織の襲撃を避けながら、車で荒野を突き進むローガンたちだったが……。


女性も必見!これこそ、真の意味でのアクション映画だ!


原作となったアメコミ「オールドマン・ローガン」で描かれている様に、本作で描かれるのは、いつものウルヴァリンのカッコいい姿では無い。

そこに登場するのは、意外にも年老いて戦闘能力や回復力の衰えた、ファンが一番見たくないであろう、現実味を帯びたローガンその人の姿。

すでにミュータントは根絶され、指導者たるプロフェッサーXでさえも、痴呆と発作による「お荷物老人」と化している世界で、彼の最後の戦いが展開する!

そう、思えばこれは、コミックスファンが目を逸らして来た、現実の世界に他ならない。

コミックの中の登場人物は永遠に年を取らず、いつまでもカッコいい。それに対して読者である現実の自分は確実に年を取り成長して、社会や仕事、結婚や家族といった問題に直面し、そして嫌でも老いや死を迎えなければならない。だからこそ、人々はコミックに夢中になり、その登場人物に自分を重ねることで、心の平穏を得るのだろう。

本作『LOGAN/ローガン』は、敢えて見たくない彼の老醜の姿を晒すことで、それでも次世代に伝えなければならない大切なこと、最後に自分が果たさなければならない使命について教えてくれる。そう、文字通り「志の高さ」で出来ている映画だと言えるだろう。

自身の衰えと対峙しながらも、それでもなりふりかまわず戦い続けるローガンの姿は、確かに血まみれ泥まみれで、過去作品の豪快なカッコいい戦いとは真逆の描き方だ。

しかし、いやだからこそ、その姿とメッセージが、これほど人々の心に直接響くのではないか?

アメコミの知識の有無や性別・年齢を超えて、これほどの観客の心と感情を「動かす」という意味で、本作は真のアクション映画だと言えるだろう。



(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX



実は「レオン」や「アジョシ」好き必見の「守られたガール」映画だった!


実はもう1点、本作が観客の心を掴んだ理由がある。今回特に女性観客に多かった意見、それはローガンに守られるローラの側に感情移入した、という物だ。思えば、頼りがいのある男性に守られたい!と言うのは、多くの女性が本能的に持つ理想のシチュエーション。

過去の作品で言えば『レオン』や韓国映画『アジョシ』、最近では『トワイライト』シリーズなど、思えばこうした「守られたガール」映画は、時代と共に世に送り出されて来た。

守る側のローガンに自分を重ねるも良し、守られる側のローラに感情移入するも良し。男女のカップルで見に行っても、二人同時に楽しめる最適のデートムービー、それがこの『LOGAN/ローガン』なのだ!

LOGAN/ローガン サブ1


(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX



最後に


いわゆるスーパーヒーローのアイコンとしてのコスチュームを完全に排除し、生身の人間が地に足の付いたドラマを展開する本作。今回の『LOGAN/ローガン』のアプローチは、日本人観客にとってアメコミ映画を楽しむのに障害となっていた、リテラシーの必要性を解消してくれたと言える。だからこそ、これほど多くの観客を劇場に呼び込むことに成功しているのだろう。

きっと今後はこうした方向性が、より多くの「アメコミに詳しくない」観客の取り込みに対する、重要な要素となる筈だ。

更に増えるTVシリーズ化作品と合わせ、TVでは再現できないスケールの大きな作品世界が、今後も劇場の大スクリーンに展開して行くことを思うと、個人的に非常に楽しみでならない。

本作でウルバリンが治癒能力を失いかけている設定は、同じ監督による前作『ウルヴァリン: SAMURAI』にも描かれているので、出来れば鑑賞前に見返しておかれると、より作品世界に入りやすいかも?

もちろん何の予備知識や情報無しに見ても、充分に楽しめる本作。普段アメコミ映画やハリウッドのCG大作に馴染みの無い方にこそ、是非見て頂きたい作品なので、全力でオススメいたします!

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(文:滝口アキラ)

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