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2018-10-20

コラム

見逃し厳禁!今秋の大穴的秀作!『ごっこ』の魅力!

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(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA



今回はこの秋の大穴的秀作、いや2018年全体を見渡してもかなりのハイレベル、熊澤尚人監督、千原ジュニア主演の『ごっこ』を紹介したいと思います。

正直、今の日本では邦洋合わせて年間1000本前後の映画がひしめきあいながら劇場公開されている中、こういった小規模の作品はついついうっかり見落としがちなのですが、ひょんなことから見させてもらえる機会をいただき、いざ接したところ……何じゃこりゃ! の衝撃と感動!

もうこれは映画ファンなら絶対に見逃し厳禁!

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街338》

……などと四の五の前置きを並べる前に、もうとっとと始めちゃいたいと思います!

およそ3年の歳月をかけて完成した
親子「ごっこ」の物語


『ごっこ』は小路啓之の同名コミックを原作にしたものです。

舞台は大阪。齢40目前にしてニートの城宮(千原ジュニア)が、実家の寂れた帽子屋に5歳の娘ヨヨ子(平尾菜々花)を連れて戻ってきました。

城宮の幼馴染で彼のことをよく知る警察官のマチ(優香)は、人との接し方が苦手なはずの彼が、いつのまに子どもを? と疑いの目を向けます。

そう、実はふたりの関係は……。

もっとも、城宮とヨヨ子はいつも仲良く日々を過ごしているようではあります。

しかし、どこか親子ごっこをしているような、ときに狂気にも似た不安定さすら感じられることすらあります。

そして、やがてある事件によって、ふたりの「ごっこ」は……。



(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA




監督は『君に届け』(10)『近キョリ恋愛』(14)『心が叫びたがってるんだ。』(17)など従来のキラキラ映画の枠を打ち破る繊細な青春映画の秀作を連打し、昨年は野心作『ユリゴコロ』で人間の心の闇の描出にも挑戦した熊澤尚人。

脚本は『ある朝スウプは』(05)で日本映画監督協会新人賞を受賞し、『凶悪』(13/共同)『秘密THE TOP SECRET』(16)『坂道のアポロン』(18)などの脚本家としても旺盛に活動する高橋泉。

撮影は『星ガ丘ワンダーランド』(16)や『帝一の國』(17)、そして今年の注目作の1本『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)など、メジャーもインディペンデントも問わずに話題作を手掛け続ける今村圭佑。熊澤作品『ユリゴコロ』も担当しています。

音楽は『八日目の蝉』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞し、今年も『孤狼の血』『空飛ぶタイヤ』『菊とギロチン』などの話題作を手掛け、熊澤監督とも『君に届け』『ユリゴコロ』など熊澤監督とのコンビ作も多い安川午郎。

こういった現代日本映画界の精鋭を集結させた『ごっこ』は2015年の秋から翌2016年初頭まで撮影を敢行しつつ、その後、諸事情で完成が先送りとなり(たとえ小品であろうともそれなりのお金や人が動く映画制作には、何某かのトラブルが往々にして起きてしまいがちなのです、残念なことではありますが……)、その間原作者が死去(2016年10月20日)するなどの不幸にも見舞われつつ、作品の存在を知った関係者の尽力などで再び動き出し、ようやく完成して2018年10月20日よりロードショーできる運びとなりました(つまり、原作者・小路氏の命日に本作は公開初日を迎えることができたのです)。



(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA




主演男優賞ものの千原ジュニア!
キャストの好演がもたらす社会の闇


撮影開始からおよそ3年にして、一度は頓挫しかけた企画が見事に復活した理由、それはひとえに作品の出来そのものの素晴らしさにあります。

仮編集の段階のものを見てくれた映画業界人たちに作品の秀逸性を察知し、この企画を埋もれさせてはいけないと奮闘させるだけの力がみなぎっている作品なのです。

まずは主演・千原ジュニアの圧倒的存在感。そもそも人好きのする温かみを表に出した人気お笑い芸人としての顔が好評の彼ですが、俳優としても『岸和田少年愚連隊 血煙り純情編』(97)『ポルノスター』(98)、『HYSTERIC』(00)、最近ではTV&映画『新・ミナミの帝王』シリーズ(10~)でも活躍中。



(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA




そして今回はお笑い芸人としてデビューした当時に謳われていた“ジャックナイフ”の異名を彷彿させる鬼気迫るほどの狂気が、もう一方の魅力である人情味と錯綜しあいながら、ヨヨ子との切なくも危ない関係性を見事に確立させており、今年度の映画賞における主演男優賞候補最有力といっても過言ではありません(各映画賞の選考委員がちゃんと映画を見てくれていれば……ですけど)。

ヨヨ子役の平尾菜々花ちゃんの名演も忘れられないものがあります。5歳にして世界を冷たく見据えた雰囲気を漂わせながら、一方ではヒーローに憧れる可愛さを両立させ、城宮のことを“パパやん”と呼ぶ幼さから醸し出される寂寥の想いなど、彼女の存在なくして本作の魅力は語れないものがあります。

ちなみに熊澤監督は本作の撮影の後も『心が叫びたがってるんだ。』『ユリゴコロ』と、続けて彼女を起用しています。

共演の優香もNHK大河ドラマ『花燃ゆ』(15)や映画『羊の木』(17)など、特にここ数年は女優としてめざましい飛躍を遂げていますが、本作も例外ではなく、主人公の闇をよく知りつつ、さりげなくも真摯につきあっていく幼馴染としての情愛が巧みに発散されていました。

そして清水富美加(今は違う芸名になっていますが、やはりここでは撮影当時のこの名を使いたい)!

何の役柄かはここでは明かせませんが、どの映画どのドラマでもその純度を高める好演を示してきた彼女の資質はここでも炸裂しています。

あまり深くは申せませんが、彼女が登場してきたら、もう感涙必至!

また、こういったキャストの名演によって、作品の持つニートや幼児虐待、年金不正受給などの社会的テーマ性もひときわ浮き彫りになっていきます。

ひいては、そういった現代社会の闇と隣り合わせに生き続けなければならない人間の哀しみや、その中で紡いでいく家族や友人知人との不器用な交流がもたらす喜怒哀楽、即ち人生そのものの縮図がシビアに、それゆえに感動的に本作から描出され続けていくのです。

決して生易しいタイプの作品ではありませんし、人の世の闇を見て見ぬふりをしながら生きていたいといった、安易なポジティヴ志向の人からは疎まれる類いのものかもしれません。

しかし、生きるということに常には前向きになれず、時に苦悩もする、いわば不安定でか細い心を待ちつつも健気に日々を過ごそうと欲する“普通”の人ならば必ずや心の琴線にひっかかり、何某かの感動をもたらしてくれることでしょう。

少しでも多くの人が、慈愛深く人間の狂気を見据えた小品ながらも傑出した本作に注目してくれることを願っています。

少なくとも、この秋の、いや今年の大穴であることに間違いはない! と断言しておきます。

(文:増當竜也)

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