ナシゴレン・ウエスタン『マルリナの明日』の壮絶な本質とその美学

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西部劇=WESTERNといえばもちろんアメリカが本場のジャンルですが、そのアメリカ製西部劇に陰りが見え始めてきた1960年代から、世界中でさまざまなWESTERNが作られるようになっていきます。

その筆頭はイタリア&スペイン合作によるマカロニ・ウエスタン(アメリカなどではスパゲッティ・ウエスタンと呼ばれていますが、日本では映画評論家の故・淀川長治さんがこのように命名)。『荒野の用心棒』(64)をはじめとするセルジオ・レオーネ監督のマカロニ3部作でクリント・イーストウッドがスターとなり、アメリカに凱旋したのは有名な話です。

日本でもザルソバ・ウエスタンと当時命名された『荒野の渡世人』(68)や、西部劇好きの岡本喜八監督が堂々アメリカに渡って撮った『EAST MEETS WEST』(95)などが製作され、一方でマカロニ・ウエスタンの日本版を狙った『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)みたいな作品もあります。

実際、血生臭い銃弾の嵐に見舞われた暴力的タッチのマカロニ・ウエスタンは、それまでお行儀のよかったアメリカ製西部劇以上にその後のクリエイターたちに多大な影響を及ぼしたところもあり、最近では世界中でマカロニ・ウエスタン・タッチの作品が見受けられるようになっています。

そしてインドネシアでも、まさに“ナシゴレン・ウエスタン”と命名されるに足る、あたかもマカロニ・ウエスタンの現代版ともいえる異色作が登場しました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街382》

『マルリナの明日』、これは2017年の東京フィルメックス作品賞を受賞し、2018年のアカデミー賞外国語映画賞インドネシア代表に選ばれるなど、世界中の映画賞で注目を集めた秀作であり、快作です!

マカロニ・ウエスタン調の
ヒロイン復讐劇

『マルリナの明日』の舞台はインドネシアの僻村から離れた荒野。

そこにぽつんと佇む小さな一軒家に住む未亡人マルリナ(マーシャ・ティモシー)のもとへ、強盗団の首領マルクス(エギ・フェドリー)が現れました。

「あと30分で仲間がここにきて、お前の金と家畜をいただき、7人全員でお前を抱く」

まもなくして仲間が到着しますが、その夜、マルリナは毒入りの鶏スープを飲ませて4人を殺害し、さらには自分を犯すマルクスの首を剣ナタで切断します。

翌日、マルリナはマルクスの首を持って、自分の無実を訴えるべく警察へ赴きますが、仲間が殺されたことを知った強盗団の残りふたりがマルリナを追いかけていきます……。

ロケ地となったスンバ島の荒涼たる大地はまさに西部劇の詩情ともどこか呼応するものがありますが、そこを馬ならぬバイクが走り、マカロニ・ウエスタン調の音楽が流れる中、銃ではなく剣ナタが主な殺戮の武器として用いられていきます。

マルリナの家の中には夫のミイラが置かれてあり(スンバ島独自の風習とのこと)、物言わぬ亡骸の彼こそが、実は妻に降りかかる災難をひそかに助けているのではないか? いや、やはり「死人に口なし」なのか? と、観る側を不可思議な想いに囚われせてくれたりもします。

マルリナが生首を持ったまま移動する画からは、サム・ペキンパー監督の現代ヴァイオレンス映画の傑作『ガルシアの首』(74)を即、連想させます。

またマルリナが乗るバスに友人の妊婦ノヴィ(パレンドナ・ララサティ)も同乗しているあたり、そのバスが名匠ジョン・フォード監督による西部劇の名作『駅馬車』(39)に倣っていることも一目瞭然でしょう。

この監督ならではの
全ての女性へのエール

犯されたヒロインの復讐劇という点では、バート・ケネディ監督がマカロニ・ウエスタン・タッチで手掛けた(何とイギリス映画)『女ガンマン 皆殺しのメロディ』(71)が思い浮かびますが、そこでのラクエル・ウェルチに負けず劣らずの美しき存在感を発揮している本作の主演マーシャ・ティモティーは、どことなく倍賞美津子を彷彿させるものがあります。

一方で本作は引き画の長回し撮影が意識的に導入され、それによってどこかしらバロック絵画のような趣がありますし、その中からは小津安二郎映画のような諦念までも感じられます。

本作のモーリー・スリヤ監督は現代インドネシアを代表する女性の若手監督で、本来映画を語るのに監督の性別など関係なしと自覚しつつ、この作品に関しては女性でなければ目くばせできなかったであろう点が多々見受けられます。

夫を亡くした哀しみや、レイプに対する怒り、交番近くの食堂で繰り広げられる幼女とのやりとり、またここでは妊婦ノヴィが重要な役割を果たしており、総じて女の生きざまが濃厚に描出されています。

反対に、ここに登場する男たちのほとんどはクズのようにみなされていて、同性からするとまさに「ごめんなさい!」の世界です。

また、時折マルクスの首なし死体がマルリナの前に現れたり、彼女の後をついていったりと、一見不気味なユーモアに包まれるファンタジックなショットも出てきますが、これはいかなる理由があろうとも、一度犯した罪(ここではマルリナが犯した殺人)からは一生逃れられず、悪夢のような影となってつきまとわれていく人生の厳しさを示唆しているようにも思えてなりませんでした。

一見マカロニ・ウエスタン・タッチで迫る現代版ナシゴレン・ウエスタンとも呼ぶべき『マルリナの明日』、その本質は昔も今も、そしてどこの国でも横行しがちな性差別と対峙しながら生き続ける全ての女性たちへの、厳しくも温かなエール(および男たちへの叱咤)と認識すべきなのかもしれません。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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