『惑う』『東京ウィンドオーケストラ』、期待の女優・中西美帆の新作2本!

■「キネマニア共和国」

東京ウィンドオーケストラ 場面写真

(C)松竹ブロードキャスティング

昔も今も続々と芸能界に新たな俳優がデビューしてきますが、その中で誰に注目していくか、そのつどの作品との出会いによって大きく変わっていくことでしょう。
今回、ひとりの新進若手女優を紹介したいと思います……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.193》

中西美帆。実は彼女の出演映画2本が、奇しくも同じ1月21日に劇場公開されるのでした!

中西美帆は1988年12月5日、兵庫県神戸市生まれ。

幼いころから女優に憧れ、2009年に『奇跡の人」で初舞台を踏みました。

2011年、ドラマ『神様の女房』で準ヒロインを演じ、本格的にデビュー。

その後の主な出演に、映画『永遠の0』(13)、『ソロモンの偽証』(15)、ドラマ『八重の桜』(13)『純と愛』(13)『Dr.倫太郎』(15)『生きたい、助けたい』(16)などがあります。

三池崇史監督の『喰女―クイメ―』(14)の市川海老蔵の相手役といえば、ピンとくる映画ファンも多いことでしょう。

昭和後期を舞台にした女たちの絆
『惑うAfter the Rain』

(C)2016みしまびとプロジェクト/ものがたり法人FireWorks

そんな中西美帆が準主演を果たしたのが昭和の終わりを舞台にしたヒューマン・ドラマ『惑う After the Rain』です。

昭和55年(1980年)。結婚式前日を迎えた石川家の長女いずみ(佐藤仁美)が、それまでの自分と家族のことを思い返していきます……。

明治に建てられた古風な屋敷・楽寿亭で暮らす日本舞踊の名家でもあった石川家の人々。しかし父(小市慢太郎)が早逝し、いずみは遺された母(宮崎美子)と妹(中西美帆)のため、自ら家長として家族を支える決意をして久しい日々を過ごしてきました。

そんなある日、都会に出ていたかえでが帰省してきます。彼女は妊娠していました……。

時間軸を巧みに錯綜させながら、姉妹と母、女3人それぞれの人生の葛藤や家族の真相、またそれゆえの断ちがたい絆などを描き、連綿と続く日本独自の家族制度をノスタルジックに、しかしそこにおもねることなく冷静な視線で、そして美しく描出していくのは、北野武や黒沢清の助監督を務め、『らくだ銀座』(03)『ふるさとがえり』(11)と地域密着型の映画に定評のある林弘樹監督。

名手・高間賢治撮影監督ならではの、観る者すべてを一気に昭和へタイムスリップさせる映像美が素晴らしく、また音楽の宮本貴奈、衣裳の黒澤和子などスタッフのきめ細やかな手腕も、劇中の女性たちの「和」の佇まいに深みを持たせています。

かつて日本の日常のあちこちに見られたさりげない「美」に改めて気づかされる秀作。

家族のために献身的に生きてきた姉と、シングルマザーとして生きる決意をした、当時としては進歩的でもあった妹。

生きざまこそ異なりながら、どこか普遍的な姉妹の絆を醸し出していく佐藤仁美と中西美帆のコンビネーション、加えてふたりを温かく見守る母役の宮崎美子の名演がさりげなくも光ります。

笑いと感動の初主演映画!『東京ウィンドオーケストラ』

東京ウィンドオーケストラ 場面写真

(C)松竹ブロードキャスティング

一方、『東京ウィンドオーケストラ』は、作家主義×西遊発掘を掲げてたちあげた松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクトの『滝を見にいく』『恋人たち』に続く第3弾です。

舞台は屋久島。なぜか演奏を依頼されて現地を訪れた10人のアマチュア楽団員たちが、分不相応な歓迎の数々戸惑い始めていきます!?

どうやら、島で日本有数の吹奏楽団を招いてのコンサートを開くことになったものの、彼らはそのメンバーと間違えられて依頼されたようなのです(「ウィンド」と「ウインド」、微妙な違いですね)。

担当の町役場職員・樋口さん(中西美帆)は、自分のミスに気付いたものの、彼らを本物として騙し通そうとします。一方、事の次第に気づいた10人は、島を脱出しようと画策し始めます。

さてさて、そんなアマチュア楽団員の運命や、いかに?

中西美帆扮する樋口さんの、どこかやる気なさげで、ほとんど笑顔を見せない、しかしながら自分のミスを棚に上げて10人を糾弾するさまが実に妙味です。
(いるんですよね。お役所に行くと、ときどきこういうオール事務的な人⁉ ちなみに『惑う』の小市慢太郎も共演しています)

そして10人のアマチュア楽団員に扮するのは、ワークショップで選抜されたキャリアも年齢もバラバラな新人俳優たち。

つまり、ここではアマチュアがプロに転じることができるか?という意味において二重構造にもなり得ているのです。

監督も東京藝術大学大学院在学中に撮った『ビートルズ』や(11)や『神奈川芸術大学映像学科研究室』(13)が高く評価され、これが劇場用商業映画デビューとなる新進・坂下雄一郎。

このように新進ずくめのメンバーが、屋久杉の大木さながら古き伝統ある屋久島を舞台に、どこかしらじらほのぼのとした雰囲気の中でそこはかとない騒動を繰り広げつつ、いつしかハートウォーミングな世界へいざなってくれます。
で、彼らのコンサートの顛末は一体どうなるのか?……は見ての楽しみということで!

『惑う』と『東京ウィンドオーケストラ』、中西美帆というひとりの若手女優が双方全く異なる役柄を果敢にこなすさまを一気に、そして楽しく見られる好機です。

そもそも、ひとりの俳優の2本の出演作品が同時に公開されるという偶然に遭遇するのもまた、映画を楽しむひとつの楽しみ方であり、後々の好みの俳優を見出す術となってくれることでしょう。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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