『暁闇』が示唆する、これからの令和時代の青春群像

最近新旧の日本の青春映画を立て続けに接する機会があり、そうなるとどうしても自分自身の青春期と照らし合わせながら見てしまうところがあります。

またそれぞれの時代の気運として、1960年代の反体制、70年代のシラケ、80年代の軽薄短小(私の世代です)、そして90年代に始まる平成の閉塞感は21世紀に入っても形態を替えつつ蔓延し続けていった感などなど、その時代時代の映画たちから見出すこともできます。

では令和という新たな元号に代わった今の青春映画は、これから先どう転がっていくのだろう? と思っていた矢先、まさにこれが“今”なのだなと痛感させられた青春映画を目の当たりにしました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街395》

阿部はりか監督のデビュー作『暁闇(ぎょうあん)』。

静謐に、繊細に、今の青春群像が見事に活写された今年度の収穫の一本です!

疎外感に包まれた中学生
3人の出会いと集い

“暁闇”とは「夜が明ける頃の闇」を指す言葉で、それはほのかに明るく、それまでの夜の暗闇から徐々に解放されていくのではないかといった希望と不安を示唆する言葉でもあります。

映画『暁闇』には、主に3人の中学生男女が登場します。

何に対しても無気力な少年コウ(相木柚)。

学校では明るく振舞いつつ、放課後になると見知らぬ男らに体を委ね続けるユウカ(中尾有伽)。

すれ違う両親の狭間に立たされ、行き場のない悲しみを不器用なまでに抱え続けるサキ(越後はる香)。

それぞれ誰とも繋がらない疎外感の中、3人はある音楽をきっかけに、都会のある廃ビルの屋上に集うようになります。

といっても、そこで何か一緒になってやるわけでもなく、特に目を合わせることもありません。

しかし、3人は今の自分の心に足りない“何か”を埋めようとするがごとく、そこに足を向け続けるのですが……。

本作はインターネットでカルト的人気を誇るLOWPOPLTD.の音楽からインスパイアされ、制作された作品とのこと。さすがに世代的ギャップでそのあたりの事情には疎く、宣材プレスシートを書き写すようなことしかできない情けなさではありますが、それでも3人個々の行動からそれが“今”の音楽であり、それを聴く者たちの“今”がここに描かれていることだけは世代間のギャップを越えてはっきり理解することができます。

令和の時代を「冷和」ではなく
優しい「れいわ」へ導く作品

本作の美徳は3人のキャラクター(加えてコウの彼女トモコ役の若杉凩も)それぞれの心の揺れが静謐に、しかしながら確実にドラマの進行とともに醸し出されていくところで、またそこに説得力を持たせる撮影:平見優子の映像美も特筆しておきたいところです。

渋谷の街からさりげなくも迷宮に入り込んだような先にある廃ビルのロケーションも見事で、その屋上に佇む3人の構図からもどこかしらファンタジックな趣が感じられるとともに、一見淡々としつつも人肌の温もりが感じられるようになっていきます。

ドラマ展開の中で「それは設定としていかがなものか?」といったご都合主義的な点も若干感じられなくはないのですが、そういった甘さも含めて、これが今の若い世代によって作り出された、つたなくも真摯な想いの吐露であり、決して熟達した技術のプロ映画人の手では作り出せないであろうインディペンデントならではのパワーであり賜物であろうかと思われます。

かつて自分らが普通に接していた感情と感情をあからさまにぶつけ合うような熱血青春映画やドラマなど、もはや今の時代にはそぐわないでしょうし、では彼ら彼女らの心の痛みや悲しみなどはどう描出していけばいいのかといった問いに答えてくれているのか、今はまだまだ暗いけどやがてほのかに明るくなり始めていくことを意味する『暁闇』というタイトルが象徴しています。

クライマックスからラストにかけての展開は、まさに目からウロコが落ちるかのようなカタルシスをもたらしてくれるとともに、いかに時代や風俗、流行などが変わろうとも絶対に変わることのない青春の普遍性を見出すことができるでしょう。

本作が制作されたのは2018年=平成30年であり、阿部監督らの青春期を反映させた内容でもあることでしょうが、同時にこれは「令和元年に劇場公開される青春映画」という響きにも見合った作品のように思われます。

「令和」という元号は今後「冷和」といった冷たい命令に支配されるような時代を示唆していくのか? それとも「麗和」でも「礼和」でも、それこそ平仮名の「れいわ」でもいい、どこか優しい情緒を甦らせてくれるような時代へ導いてくれるのか?

少なくとも本作は後者であると確信しています。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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