『ビューティー・インサイド』はラブファンタジー映画の傑作! その魅力を分析する!

■「映画音楽の世界」

ビューティー・インサイド

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みなさん、こんにちは。前回の記事でベストセラー小説を映画化した『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を紹介しました。実はこの映画を観ている最中、筆者の中で『ビューティー・インサイド』という韓国映画が重なっていました。公開されたのはちょうど1年前。正直、上映劇場も少なく大々的な宣伝も行われなかったのでスルーされがちっだったことが惜しまれるほど、見た人の間では評価の高い作品です。

設定は全く違うにも関わらず、“ぼく明日”と『ビューティー・インサイド』は考えれば考えるほど主題的な意味付けなど重なる部分が多かったように思えます。既にソフトリリースもされている作品なので、“ぼく明日”を気に入った方にこの機会にぜひとも併せて観てほしい作品ということで、今回の「映画音楽の世界」では、『ビューティー・インサイド』を紹介したいと思います。

愛するほど増していく痛みとその先にある純愛

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『ビューティー・インサイド』の主人公は、寝て起きるたびに見た目はおろか性別、人種まで変わってしまう体質を持つ青年、キム・ウジン。なんだかそれだけ聞くと安っぽいファンタジーにも思えますが、そうではありません。体質をしっかりと奇病、原因不明の病気として描いていています。

ウジンは特異な体質なので公共的な仕事に就くこともできず、才能も生かして人目に触れない家具デザイナーの道を選んでいました。そんなウジンが、取引先である家具店に足を踏み入れ出逢ったのが、従業員のイス。誰にも分け隔てなく接するイスの姿にウジンはやがて恋をします。しかし、当然ウジンは日々容姿が変わってしまうという秘密を抱える身。事実など口にすることはできず、ただただ毎日別の客として店を訪れてイスと話す姿がなんとも健気。それでも気持ちを抑えられなくなったウジンは、ついに一人の男=ウジンとしてイスに声を掛け……。

普通の恋愛映画ならば胸躍りそうなシチュエーションですが、ここから奇病を抱えたウジンの苦悩によりフォーカスを合わせていく展開に。イケメン男性の姿でイスとデートの約束を取り付けても、不本意な外見の男性に変化してしまったウジンは彼女の前に姿を見せることができません。イスも突然姿を見せなくなったウジンを心配し、そんなイスの姿に心を痛めたウジンはイスに真実を話す決心をします。

ウジンがイスに本当のことを告げる場面、実はこの時のウジンを演じているのが上野樹里。コミカルな印象は一切出さず、イスに真摯に語る上野樹里の演技と哀愁をにじませた表情のなんと美しいことか。イスとベッドに横たわり二人で語り合うシーンは、本作の転換点になる非常に重要な場面なのでじっくりと観てほしいところ。

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そしてウジンを受け入れたイス。ウジンの奇病という障壁を乗り越えた二人が手を取り合いデートを重ねる姿は温もりに満ちていて、誰もが「良かった、良かった」と思うはず。しかしそれだけでは終わらせなかったのが、本作が他の恋愛映画にはない新しい切り口でした。二人の想いが今度こそ繋がると同時に、本作の視点はイスに移行します。

ここから、日常ではまず有り得ないような「愛した相手の容姿が毎日別人になる」ことの意味をイスの立場を通して観客にも突きつけていきます。待ち合わせ場所で突然手を握られても振り向けば知らない顔の人間がいる。ウジン=特定の異性と時間をともにしている筈なのに、はたから見れば相手をとっかえひっかえデートしている、という誤解が生じてしまう。

「あなたはイスの気持ちが想像できますか?」と観客に問わんばかりに、徐々に精神的に追い詰められていくイスの姿が実に痛々しく描写し、その原因となっているウジンもまた、悩み苦しみます。やがて限界を迎えた二人は──。

青年期に突然発症したとはいえ我が子をそんな体に産んでしまった母親の悲愴も加え、本作はファンタジーロマンスでありながら他のどの作品よりもリアリティを重要視。二人が直面する苦悩と同時に、永久的な疑問でもある「外見で選ぶのか。内面で選ぶのか」という恋愛観も観客に問う本作の奥深さ。実は原案は東芝とIntelが共同制作した40分の短編フィルムで、「誰もが主人公になることができる」というコンセプトで、視聴者100人の映像を一人の主人公として描いた短編のモチーフをしっかりと取り込みながら、本作ではより現実的に長編として脚本に書き起こしています。

監督は本作が長編デビュー作となるCMディレクター出身のペク。これがデビュー作とは思えない素晴らしい手腕を発揮していて、なるほど確かに123人のウジンのストーリーを描くには、30秒程度で物語を伝えなければならないCM監督にはうってつけの題材ではあります。しかしそれが細切れになることはなく、あくまでウジンという一人の青年を描き、柔らかな照明や選曲センスなど美しい画作りもあってクオリティの高い作品に仕上げているのでご安心を。

映像を彩る美しい音楽たち

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本作の魅力の一つである音楽も要注目。要所要所で使われる楽曲の中でも印象的なのが、UKロックグループのCitizens!が歌う「True Romance」と、ホセ・ラカジェ作曲で劇中のシチュエーションに合わせてアンティークギターでの演奏となった「Amapola」の2曲ではないでしょうか。

「True Romance」は重くなりがちなテーマの本作の中で、二人の歓びや感情を現すようなエモーショナルポップスのテーマとして、映画が沈みすぎないよう音で世界観を持ち上げる役割を果たしています。

一方の「Amapola」はギターサウンドが織りなす二人の愛の賛歌といったところ。本来は愛する人をアマポーラ=ひなげしの花に喩え、ストレートな愛情表現を綴ったスペイン語の歌曲ですが、イスがアンティーク家具に勤めているだけあって、ヴィンテージ感のある音色が二人の世界をお洒落に彩るのだから音楽による印象付けというのが見事なところ。この辺り、ミュージックビデオの演出も手掛けるペク監督のイマジネーションが行き届いた采配で、サウンドトラックにもギターバージョンとオーケストラバージョンが収録されています。

まとめ

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本作が『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』と共通しているのは、「本来なら有り得ない非現実的な恋愛」だけでなく、その恋愛関係の中で、相手をどれだけ愛せるのか、という点にもあるのではないでしょうか。そして、恋愛映画として描くにあたって綺麗事だけではない、「普通」ではないがゆえの痛みをしっかりと描き、締め付けるような胸の苦しみを観客にも共有させているところが重なるのだと思います。

どちらの作品も主題だけでは重くなりがちなところを、明るく振る舞うキャラクター(“ぼく明日”だったら東出昌大演じる上山、本作ならイ・ドンフィ演じるサンベク。サンベクはウジンの秘密を知る友人で、いろんな意味でのナイスキャラ)が笑いをもたらしているのも救い。

もしも自分の立場だったら。絵空事という感想を軽く突き破るほどリアルな設定と緻密な脚本。ぜひこの機会に、韓国映画が底力を見せたウジンとイスが迎える結末を見届けてほしいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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(文:葦見川和哉)

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