韓国刑事映画『犯罪都市』が魅せる中国新興犯罪組織と警察の熾烈な攻防!

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韓国映画の好調ぶりは今に始まったことではありませんが、ことヴァイオレンス映画は年々躍進していくのみとでもいいますか、時に昭和の東映実録ヤクザ映画をも凌駕した、徹底して執拗な暴力描写や、全編ヒリヒリする熱い感覚などは、今の規制まみれの日本映画ではなかなか醸し出し得ないものでもあるでしょう。

そしてまた1本、火傷しそうに熱いコリアン・ヴァイオレンス刑事映画『犯罪都市』がお目見えとなります……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.303》

まず作品の背景として、1990年初頭から中国同胞(朝鮮族などの韓国系中国人)が多数、韓国ソウル市九老地区の加里峰洞(カリポンドン)に移住し、チャイナタウンを築くようになったという歴史があります。

まもなくしてその地に朝鮮族暴力団が入りこみ、次第に犯罪組織が乱立していくようになりました。

そして本作は、韓国のクムチョン警察が敢行した2004年の朝鮮族組織一掃作戦にヒントを得て、韓国警察VS朝鮮族組織VS韓国マフィアの熾烈な抗争を描いた作品なのです!

ソウルの街に進出してきた
中国新興犯罪組織との攻防

2004年、カリポンドンのチャイナタウンにあるビリヤード場で、毒蛇(ドクザ)組の組員が対立するイス組の男に刺される事件が発生しました。

ソウルのクムチョン警察・強力班(強行犯係)のコワモテ刑事マ・ソクト(マン・ドンソク)は難なく犯人を捕らえた上で、双方の組のボスの仲を取り持ちます。

このように、ソクトは裏社会に通じながらも、常に街の朝鮮族暴力組織の勢力均衡を保つことで、市民の平和を守ることに腐心していました。

しかし、あるとき中国・慶尚道(キョンサンド)から朝鮮族の新興犯罪組織・黒竜(フンリョン)組が乗り込んできて、ボスのチャン・チェン(ユン・ゲサン)はドクザ組組長を殺害。

ドクサ組を乗っ取ったフンリョン組は、次第に街を我が物顔でふるまうようになります。

ソクトら強力班はフンリョン組を一網打尽にしようと策を練りますが、縄張りを荒らされたイス組も黙っておらず、さらには韓国最大勢力暴力団ファン社長の逆鱗にも触れ、ついにクムチョン警察VSフンリョン組VSイス組VSコリアン・マフィアの攻防が開始されていくのでした!

本作は激しいヴァイオレンス描写のため、韓国本国では青少年観覧不可映画に指定されましたが、公開されるや観客動員数680万人を超える大ヒットとなり、『インサイダーズ』(915万人)、『友へ チング』(818万人)に続く韓国映画歴代動員数3位の成績を計上。

第38回(2017年度)青龍映画賞では、フンリョン組の狂気に満ちた武闘派幹部ソンラクを鬼気迫る存在感で演じたチン・ソンギュが助演男優賞を受賞。

また、これが長編劇映画デビュー作となったカン・ユンソン監督は韓国映画評論家協会賞で新人監督賞を受賞しています。

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“マブリー”ことタフガイ俳優
マ・ドンソクの頼もしき存在感

1971年生まれのカン・ユンソン監督は30歳のころに監督デビュー作品の準備を進めつつ、製作会社の倒産によってこれを断念。その後はPVやドキュメンタリーなどを制作しながら劇映画デビューの機会をずっとうかがっていたところに、2012年の暮れに友人の俳優マ・ドンソクから「一緒にリアルな刑事映画を作ろう」と誘われ、そして2017年、ついに5年越しの企画『犯罪都市』を完成させました。

マ・ドンソクは昨年日本でもクリーンヒットとなったゾンビ・パニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)の中で、おびただしいゾンビの群れに何と体一つで立ち向かい、命をかけて愛する妻を守り抜く“漢”を見事に演じきった個性派俳優です。

それまで『殺人者』(13)や『アンダードッグ 二人の男』(16)など日本では悪役のイメージが強かった彼ですが、『新感染』および自ら企画した本作、そして現在日本でも公開中のラブ・コメディ『グッバイ・シングル』(16/何と敏腕スタイリスト役!)などによって、今ではイメージも一新。コワモテながらも優しいタフガイといった好感度バツグンなのです。

現に素顔の彼は実に優しい性格で、映画ファンは彼のことを親しみを込めてマブリー(マ・ドンソクとラブリーを掛け合わせた言葉)の愛称で呼んでいます。

そういったことも影響しているのでしょうか、本作は深作欣二監督作品『県警対組織暴力』のラインに沿ったヴァイオレンスなテイストを大いに醸し出しつつも、最終的には正義を貫くためには手段を択ばないダーティ刑事の奥に潜む熱いヒロイズムにシンパシーを寄せた作りがなされているように思われます(マ・ドンソク自身、刑事たちの労苦に敬意を払った作品にしたいという企画意図があったとのこと)。

その意味では、日本でも5月に久々の東映ヴァイオレンス刑事映画『孤狼の血』が公開されますが、見比べてみると双方の相違点が垣間見えて一興。

様々な組織暴力が入り乱れての抗争がメインとして描かれつつ、最後まで主人公としての存在感を見事なまでに保ち続けるマ・ドンソクの人間臭い魅力あってこその『犯罪都市』ともいえるでしょう。

本作のヒットによって、現在カン・ユンソン監督とマ・ドンソクはソクト刑事を主人公にしたシリーズを企画しているとのこと。かつての『ダーティハリー』シリーズや『フレンチ・コネクション』2部作のようなノリを期待したいものです。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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