映画コラム

REGULAR

2016年01月14日

『パディントン』から醸し出される イギリスの誇りとユーモア

『パディントン』から醸し出される イギリスの誇りとユーモア

■「キネマニア共和国」

パディントン


(C) 2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited


 

パディントンといえば、イギリスのマイケル・ボンドが58年に執筆した『くまのパディントン』に始まる小説シリーズや、何といってもぬいぐるみなどグッズで女の子に人気のキャラクターですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

そのパディントンがまさかの映画化! しかも既に全世界で興収300億円を超える大ヒットを記録しています!


クマの“ストレンジャー”パディントン
人間の家庭に入り込む!


映画『パディントン』は『ハリー・ポッター』シリーズのデヴィッド・ハイマンがプロデュース、英国TVコメディ番組を多数演出してきたポール・キングが監督したファミリー映画ですが、何よりも驚かされるのが、あの愛らしいクマのパディントンがVFXを駆使して実写映画化されたことでしょう。
その技術の成果に関しては、もはや何も言うことなどないほどにリアルな描出がなされており、およそ日本では実現不可能なクマと人間家族のコミュニケーション・ドラマがごくごく当たり前のように成立しています。

原作に忠実に作られたこの作品、ある種のストレンジャーがイギリスのごく普通の中流家庭の中に入り込んで騒動を巻き起こしていくという、ファミリー映画の王道をいくもので、犬の『ベートーベン』ネズミの『スチュアート・リトル』などの動物ものを彷彿させると同時に、イギリス・ロンドンの家族描写などからは名作『メリー・ポピンズ』のようなテイストも感じられます。

ただし、ここで繰り広げられるパディントンの大騒動はこちらの予想を大きく裏切るほどのドタバタ劇であり、そこまでやるかといった過剰さでもありますが、一方でパディントン自身は一貫して英国紳士気取りなので、そのギャップを狙っての意図であることは一目瞭然。ならばこちらも思う存分笑って楽しむのが得策でしょう。


名優たちに取り囲まれての
パディントンのドタバタ騒動!


パディントンの声を『スペクター』など007シリーズのQ役で人気を得たベン・ウィショーというのも、やはりパディントンはジェントルマンであるというイギリス本国でのイメージを代弁しているようで、日本人からすれば(というか私自身は)もっと可愛らしい、それこそ女性声優が男の子を演じるようなイメージでずっと捉えがちなので、その点も新鮮です(なお、日本語吹替版では松坂桃李がパディントンの声をあてています)。

人間側のキャスティングにジム・ブロードベンドやジェリー・ウォルターズなど名優を勢揃いさせているのも、これが単なるファミリー映画ではなく、イギリスを代表する名誉ある作品として、演じる側が認識していることも容易に理解できます。

さらには麗しき(というか私が個人的に大ファンなのですが)ニコール・キッドマンがここではパディントンを誘拐しようとする悪役を嬉々として演じていることで、『ミッション:インポッシブル』さながらのパロディも楽しんでやっているあたり、彼女の映画スターとしての懐の深さまで垣間見えてきます。

また、こういった演技陣の姿勢も相まって、徹底したドタバタ・コメディでありながらイギリス映画ならではの格調高さが巧みに両立し得ているのも、本作のユニークな点でしょう。

ロンドンの街並みをはじめとするポップ&カラフルな美術も作品のテイストに見事に呼応しており、改めて一流のスタッフ&キャストによって作られたファミリー映画としての誇りを痛感させられます。

とかくファミリー映画となると一段低く捉えられがちな日本の映画界は、こういった点をぜひとも見習っていただきたいものですね。

何はともあれ、この誇りとユーモアに満ち溢れたパディントンの大騒動をとくとご笑覧あれ!

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

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