『パッセンジャー』に導いてほしい宇宙マインドSF映画の輝かしき未来

■「キネマニア共和国」

このところ、宇宙を舞台にしたSF映画が増えてきているように思います。しかもそれは『スター・ウォーズ』的な戦争アクションものだけでなく、もっと本格的にサイエンス・フィクション的なものを追求したもの……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.216》

『パッセンジャー』もその中の一つに含まれる傑作サイエンス・フィクション映画でした!

宇宙船の中で独り目覚めた男の孤独を描くマインドSFとしての『パッセンジャー』

『パッセンジャー』は、20XX年の未来、新天地を目指して地球から出航し、目的の惑星に到着するまでの120年の間、宇宙船の中で多くの仲間たちと一緒に冬眠しているはずだったジム(クリス・プラット)が、システムのトラブル(?)か何かで途中目を覚ましてしまいます。再び冬眠することは叶わず、他の仲間が目を覚ます頃におそらく自分は生きていないであろう、そんな長い期間をたった独りで過ごさなければならなくなったジムの焦燥と絶望。しかし、やがて若き女性作家オーロラ(ジェニファー・ローレンス)も目を覚まし、ふたりは次第に惹かれあっていくのですが……。

宇宙移民や長期冬眠装置といったモチーフ、また舞台となるのは宇宙船の中のみといったSFで、人生の孤独と愛を描出していく本作、かなり意外な展開も待ち受けているので、事前にこれ以上のストーリーなどは知らぬままに接したほうが得策の、ネタバレ厳禁の作品でもあります。

ただ、ひとつだけ確実に言えることは、これは1977年に『スター・ウォーズ』が誕生する以前に顕著だった人間のマインドを重視したSF映画の流れを汲んだ作品であるということです。

かつて、それこそ1950年代のSF映画は『宇宙戦争』(53/2005年にリメイク)など当時の米ソ冷戦を反映させた侵略宇宙人ものなどが幅を利かし、日本でも『ゴジラ』(54)をはじめとする怪獣特撮ものが戦争の惨禍や核批判などを内包するなど、社会派要素を巧みに採り入れながらエンタテインメントとして成立させてきた流れがあります。

こうした流れは60年代後半の『2001年宇宙の旅』(68)や『猿の惑星』(68)などの登場によって、SFに哲学や反体制もしくは社会的メッセージをより強く打ち出していきながら、登場するキャラクターたちの心情にもスポットを当てるようにもなっていきました。

特に70年代前半、近未来ゾンビもののパイオニアでもある『地球最後の男オメガマン』(71/64年の『地球、最後の男』のリメイク。2007年には『アイ・アム・レジェンド』として再度リメイク)や、体制による人口調節社会と環境破壊を背景にした『赤ちゃんよ永遠に』(72)、食糧不足をモチーフにした『ソイレント・グリーン』(73)、未来社会を通して国家の管理体制批判を訴えた『2300年未来への旅』(76)などの問題作が多数生まれています。

宇宙を題材にしたものでも、地上から消えた植物を宇宙船の中で育てる男の孤独を描いた『サイレント・ランニング』(72/※どことなく『パッセンジャー』と相通じるところもある作品です)や、有機生命体の海を通して妻への愛をアーティスティックに綴ったロシア映画『惑星ソラリス』(72/2002年にはハリウッド映画『ソラリス』としてリメイク)などが登場しました。

この時期、特にハリウッド映画はベトナム戦争の影響が色濃く、SF映画もそうした背景下で社会批判を盛り込みながら、人間個々の人生を見つめ直していこうといった傾向が強かったように思えます。

パッセンジャー メイン

アクション&ファンタジー色の強い80年代以降から、9・11を経て

しかし、『スター・ウォーズ』の登場によって、SF映画の流れは特撮を駆使したアクションやファンタジー色の強いものへと一気に変貌していきます。SFX技術の進歩は83年『ブレードランナー』のような反骨の近未来SFも生み出しましたが、人間のマインドを重視したものは少数派になっていった感は否めません。

一方、こういった80年代から90年代にかけての傾向によって、SFとファンタジーはどこかごっちゃに語られるようにもなっていきました(そもそも『スター・ウォーズ』自体が宇宙を舞台にしたファンタジーであり、サイエンス・フィクションと呼ぶことには抵抗があります)。

この流れが覆されるのは、2001年9月11日のNY同時多発テロ事件以降でしょう。あの惨劇によってハリウッド・エンタテインメントは単に戦いの勝敗の行方のみを重視するのではなく、そこに従事する人間の心に再びスポットを当てるようになっていった。そんな気がしてなりません。

SF映画にしても、どこか70年代に回帰したかのような、マインド重視のものが急増していきます。
特に、宇宙空間の事故を驚異的3D映像技術で描いた『ゼロ・グラビティ』(13)の大ヒットによって、『インターステラー』(14)や『オデッセイ』といった宇宙を舞台にしたマインドSFものが増えていきました。

少なくとも70年代に星野之宣のSF漫画を読んで育った世代としては、今のこういった宇宙マインドSF映画の数々が、非常にしっくりくるものがあります。単に宇宙空間でドンパチするだけがSFではない(宇宙戦争を描いた2013年の『エンダーのゲーム』も、子どもたちがまるでテレビゲームのように現実の戦争に参加させられていく悲劇を描いていました)。

繰り返しますが、SFとはサイエンス・フィクションであり、サイエンス・ファンタジーと言い換えることも可能ですが、いずれにしましてもそこには人間が必ず介在するわけで、ひとりひとりの人生と喜怒哀楽が綴られてしかるべきかと思います。

どのようなことも映画は描けてしまうわけですが、できればそこに心があってほしい。今後も『パッセンジャー』のようなSF映画が増えてくれることを切に願う次第です。そして、願わくば日本でも!(アニメなら既にハリウッドを凌駕する傑作を多々生んでいますけどね)

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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