『パトリオット・デイ』が見せるテロの惨劇と、人間の叡智

■「キネマニア共和国」

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「これを映画化したら、すごいことになりそうだ」と思わされる事件は現実にごまんとありますが、果たして本当にそれをやっていいのか? 特に今のご時世、扱う事件をどの角度からとらえるか慎重な姿勢が求められるものがあり、そこを誤ると実際に関わった人々への冒涜にもなりかねない……

しかし、さすがはアメリカ映画とでもいいますか、現実に起きた凄惨な事件を完璧に再現しながら、人間の誇りと叡智を讃えた快作がまたまた生まれました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.238》

『パトリオット・デイ』が描いたのは、ボストン・マラソン爆弾テロ事件、あの脅威的惨劇です。

ドキュメンタリー・タッチでつづる
凄惨なテロ事件の全貌

2013年4月15日、アメリカ独立戦争開戦記念日でもある“愛国者の日(パトリオット・デイ)”にマサチューセッツ州ボストンで開催されたマラソン大会が無差別爆弾テロの標的となり、多くの犠牲者が出ました。

映画『パトリオット・デイ』はその全貌をあますところなく描いていきます。

パトリオット・デイ サブ

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前半はボストンマラソン会場におけるテロの模様が、後半は犯人グループが逮捕されるまでがドキュメンタリー・タッチで描かれていきます。

全体的に淡々とした語り口からは、やはりあの事件に対してデリケートに対処しなければならない製作サイドの姿勢も垣間見えますが、それと同時に、いかにしてあの惨劇に巻き込まれた人々はもとより、この作品を見る観客に救いと希望を与えていくかを映画的ダイナミズムをもって描出していこうとする、作り手たちの真のエンターティナーとしての信念がみなぎったものに成り得ているあたり、まさにアメリカ映画ならではの逞しさであるともいえます。

テロリスト犯人グループがどのような境遇や精神状況であの凶行に及び、そして自滅していったのかまで冷静に見据えているあたりも、「テロ許すまじ!」の姿勢を根本に起きつつ、決して単なる善悪の基準で彼らを捉えるのではなく、「犯罪者もまた人である」とでもいった人間の闇の部分に可能な限りスポットを当てようと腐心しているあたり、実に興味深いところです。

一方で、彼ら犯人グループを特定していく際の捜査側の描写など実に科学的かつ論理的で唸らされるものもあり、こういった日頃窺い知ることのできない官憲の舞台裏などを覗き見できるあたりも本作ならではの妙味でしょう。

パトリオット・デイ サブ

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特定の人物を英雄視しない
バランスの取れた姿勢

少なくとも、もし日本で同じ事件が遭ったとしても、それを映画化するのはさまざまな意味で困難であろうとは思われますが、アメリカ映画はこれまでにも数々の現実に起きた事件や事故などを果敢に映画化し、成功してきました。

本作の監督ピーター・バーグもそのひとりで、彼はこれまで戦場で孤立した男のサバイバル『ローン・サバイバー』(13)や、海底油田火災事故の全貌を描いた『バーニング・オーシャン』(16)、そして本作と、立て続けに壮絶な実話の映画化に挑戦していますが、いずれもエンタテインメント性の中から関係者への配慮を忍ばせたものばかりで、だからこそ本作でも、事件の関係者たちが実際に画面に登場して、当時を振り返る映像などを収めることもできたのでしょう。

また本作には結果としてヒロイックな行為に及んだ者はいても、特定の人物を英雄視することはなく、あくまでも良い意味で普通の人間として扱っていることで、逆に人は勇気さえあれば何でも乗り越えることができるというメッセージを送ることにも成功しています。

パトリオット・デイ サブ

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その伝では先に述べた3作品、いずれもマーク・ウォルバーグが主演ですが、彼もまた今では名コンビともいえるバーグ監督の意向を理解&共感しているからこそ、スター映画としての作りではない、さまざまな人物が折り重なりながら紡がれていく現実社会の機微を映画化していくことに善処していることが容易に見て取れます。そしてその結果、彼はもとよりケヴィン・ベーコンやジョン・グッドマン、J・K・シモンズなどの“顔”がひときわ忘れられない“名優たちの映画”としても屹立しているのです。

パトリオット・デイ サブ

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この緊迫したご時世の中、本作に対してもさまざまな見方はあるかと思われますが、いずれにしましてもこういった題材を通して見る者に感慨を与えることに長けたアメリカ映画はすごい。改めて感服させられた次第です。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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