隠れた秀作『ルームロンダリング』こそ、池田エライザ版『フォースの覚醒』!

©2018「ルームロンダリング」製作委員会  

TSUTAYAが新たなクリエイターの発掘を目指してオリジナル企画を募集する、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM2015」で、『嘘を愛する女』(18)に次いで準グランプリ Filmarks賞を受賞した企画の映画化となるのが、7月7日より全国公開中の映画『ルームロンダリング』だ。

ポスターで見た主演の池田エライザの佇まいだけで、既に気になっていた本作を、今回は公開2日目午前中の回で鑑賞して来た。劇場ロビーでも流れていた予告編からは、心霊コメディといった印象が強かった本作。果たしてその出来はどんな物だったのか?

ストーリー

5歳で父親と死別した八雲御子(池田エライザ)。翌年には母親も失踪してしまい、祖母(渡辺えり)に引き取られた御子だが、18歳になると祖母も亡くなり、天涯孤独となってしまった。しかし、祖母の葬式に母親の弟である雷土悟郎(オダギリ・ジョー)が現れ、住む場所とアルバイトを用意してくれた。その仕事とは、ワケあり物件に住み込んで事故の履歴を帳消しにし、次の住人を迎えるまでにクリーンな空き部屋へと浄化すること=“ルームロンダリング”。だが、行く先々で待ち受けていたのは、幽霊となって部屋に居座る、この世に未練たらたらな元住人たち。ミュージシャンになる夢を諦めきれないパンクロッカー(渋川清彦)や見ず知らずの男に命を奪われ恨み節が止まらないOL(光宗薫)、カニの扮装をした小学生!?なぜか彼らの姿が見えてしまう御子は、そのお悩み相談に振り回されて…!?(公式サイトより)

予告編

明るいコメディと見せて、実はミステリーと感動のエンタメ作だった!

普段聞き慣れないタイトルの『ルームロンダリング』とは、違法な資金を使える金に換えるマネーロンダリング=資金洗浄の住居版のこと。自殺や殺人で住人が死んでしまった部屋を、一定期間次の住人に住まわせてから再び貸し出すことで、事故物件から通常の物件に再生するのが、本作のヒロインである御子の仕事だ。

幼い頃に父を事故で亡くし、母が突然失踪してからは祖母の元で育てられた御子。祖母が亡くなった後は不動産屋である叔父の悟郎の元に引き取られ、自身の特殊能力を活かせるルームロンダリングのバイトをすることになるのだが・・・。

実は彼女には、死んだ人間の霊が見えるという特殊な能力があり、自分のその能力のせいで母親が自分を置いて出て行ってしまった、そう彼女が思っていることが、次第に観客にも分かってくる。

こうして、自分は世の中から受け入れられない存在、親からも見捨てられた価値の無い存在だと自分で思い込んでしまった御子の、孤独な日常生活が前半は描かれることになる。

その中で彼女が出会うのは、将来を悲観して風呂場で自殺したパンクロッカーや、何者かに背後から刺されて死んだコスプレが趣味のOLなど、いずれも個性豊かでどこか憎めない幽霊たちだ。

自分たちの姿が見えて会話も出来る御子を頼って、生前の自分達の心残りを解決させようとする彼らの姿は、生きている人々と何ら変わりが無いほど生き生きとしている。
こうして移転先で御子が出会う幽霊たちとの交流の中で、人間が生きている意味とその価値、それに行動しなかったことで後から後悔することの悲しさが描かれるのだが、過去のトラウマと自身の特殊能力のために、周囲の声から耳を塞いでしまっている御子には、周囲の人々と再び関わるための一歩が中々踏み出すことが出来ない。確かに叔父の悟郎から、部屋の隣人との接触・交流は厳禁と言い渡されているせいもあるのだが、今も御子の心の奥深くに残る幼少期の母親に対するトラウマが、彼女の自由な行動を常に抑制することになる。

だが映画の後半、あれ程嫌っていた自分の能力で人々を助けられること、自分が他人から感謝される存在であることに御子がやっと気付くと、文字通りそこから映画自体もスピードを上げて疾走を始めるのだ!

こうして物語は、一気にクライマックスの意外な展開へ向かって突っ走ることになるのだが、やっと自身の使命と目的に目覚めた御子が、ついに自ら行動を起こすこのシーンは、正に観客にとって快感以外の何物でもないので、必見!

実は今回一番感心したのが、映画終盤のサスペンス的展開だった。なにしろ、アメリカ映画のサスペンス物に良くある様な謎解きと展開が待っている上に、普通ならヒロインの危機を救うヒーロー的な男性が助けに来るか、或いはヒロイン自身が勇気を持って犯人に立ち向かうのが定石なのに、残念ながら彼女の味方は、人や物に触れられない地縛霊の二人と、どこか頼りない隣の住人である亜樹人だけ・・・。そう、本作には一番必要なシーンでのヒーロー的男性の存在が無いのだ!

やっとコスプレOL殺害の犯人を突き止めながら、同時に絶体絶命の危機に陥ってしまった御子も、反撃するどころか自身が積極的に周囲の人々と関わろうとしたことを後悔するばかり、という展開には、観ているこちらが思わず「え、ここでこの展開なの」と心配になるほど。

再び犯人による殺人が眼の前で行われようとする中、ヒーロー不在で頼れるのは自分だけ!果たしてこの状況を、御子はどう切り抜けるのか?気になるその展開は是非劇場で!

©2018「ルームロンダリング」製作委員会  

コメディでありながら、実はヒロインを取り巻く環境は意外と深刻!

もちろんコメディとしても充分楽しめる本作だが、実はヒロインの御子を取り巻く環境は、予想以上に深刻でシリアスな物となっている。

例えば、自殺したパンクロッカーの心残りとなっていたデモテープに対する苦い結末や、コスプレOLが殺された理由の残酷な現実。更には、御子の失踪した母親に関する真実が明らかにされるシーンなど、幽霊が見えるという設定に頼って安易にファンタジー作品で終わらせない志の高さも、本作が観客に評価されている理由だと言えるだろう。

実際本編中には、御子が持ち歩いているスケッチブックにデッサンとして残されていた、彼女が過去に住んだ三ヶ所の物件で目にした幽霊のあまりに残酷で孤独な死の姿に、パンクロッカーの幽霊が絶句するという描写がある。御子自身は、別にもう慣れて何も感じないと言うのだが、観客は彼女がこれまで体験してきた残酷な世界を、ここで垣間見ることになるのだ。

この様に、主に脇役の個性や幽霊たちの明るいキャラクターの部分で大いに笑わせてくれるが、同時に彼らの背景や内面を丁寧に描くことで、登場人物たちの人間的成長や心の葛藤をちゃんと我々観客に伝えてくれる本作。ヘッドフォンで耳を塞ぐことで幽霊たちの声から逃避していた御子が、逆に自分に足りない部分を幽霊たちから学び、いつしか彼らと心を通わせて行く展開は見事!

今まで自身の夢を行動に移すことをためらったり、どうしても消極的になっていた方にこそ、本作を全力でオススメ致します!

©2018「ルームロンダリング」製作委員会  

良く出来た脚本をキャストの演技が更に引き立てる!

公式サイトから引用したあらすじや予告編からは、こじらせ女子が主人公の良くあるコメディ物の様な印象を受ける本作。

だが、鑑賞後のレビューや感想に見られる通り、本作の豊かなドラマ性と予想外に深いその内容には、きっと多くの観客が良い意味で予想を裏切られたのではないだろうか。

池田エライザ演じる御子の孤独な日常や、家族を引き離す原因となったと思い込んでいる、彼女自身が持つ特殊な能力。更には自分を苦しめた特殊な能力が他者の役に立ち、最終的に孤独だった御子に家族の絆と連帯感を与えてくれるその展開は、正に『スターウォーズ/フォースの覚醒』ではないか!

もちろん今回脇を固めるキャスト陣も、皆素晴らしい演技で映画を守り立ててくれるのは言うまでも無い。

いい加減そうに見えて、実は家族のことを考えている悟郎役のオダギリ・ジョーの演技は、『湯を沸かすほどの熱い愛』を思わせるし、短い出演シーンながら、その豊かな感情表現で観客の印象に残る、御子の母親役のつみきみほ。そして何と言っても幽霊役の渋川清彦と光宗薫が見せる、笑いを誘う中にも彼らの悲しみを見事に表現する演技は、本作の大きな見所となっている。

だが、個人的に一番印象に残ったのは、特別出演でセリフも一切無いにも関わらず、ただミニカーを見つけてしゃがむという演技だけで見事にその背景と感情を表現した、柄本時生の演技!

本編中では殆ど説明されないこのミニカーの持つ過去を、短いシーンの中で観客に理解させる彼の名演は、是非劇場でご確認を!

©2018「ルームロンダリング」製作委員会  

最後に

少ない公開館数での上映ながら、評価的にも興業的にもなかなかの健闘を見せている本作。

実際ネットでのレビューや感想にも、共感の声や好意的な物が多く見られるのだが、その反面途中で先の展開が読めてしまった、という意見も確かに多く、映画に意外性や驚きを求める観客層には物足りない印象を与えてしまった様だ。確かに母親を巡る謎に関しての部分は、映画の中盤で気が付いたという方も多かったのでは?

ただ、映画公開時には既にドラマ化が決定しているなど、そのクオリティの高さが観客の支持を得て、劇場公開後も更なる広がりを見せている本作。映画の楽しみや魅力は、実は意外な展開や凝ったストーリーだけでは無い!そんな基本的なことを観客に思い出させてくれる本作には、ここまで述べて来た様に出演キャスト陣による素晴らしい演技や、観客の心に残る印象的なシーンが数多く含まれている。

ちなみに本作で一番気になったのは、御子と亜樹人の二人が夜の道を並んで歩く長回しのシーン。二人が会話しながら歩き続ける姿を延々追うシーンなのだが、実は二人の会話の途中に絶妙のタイミングで、近くの線路を電車が通過するのだ、しかも複数回!これは偶然なのか、それともちゃんと計算されて撮影したのか?非常に気になるところだが、この一点だけを見ても、実は本作が細部にこだわって作られていることがお分かり頂けるのではないだろうか?

現段階では、7月末まで上映予定が組まれている本作。出来れば早めのご鑑賞をオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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