『新感染』監督が手掛けた驚愕のアニメ映画2作品!

■「キネマニア共和国」 

現在、『新感染 ファイナル・エクスプレス』が日本でも大きな話題を集めながら上映中です。

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日頃「ゾンビ映画は当たらない」という日本の映画業界のジンクスはをはねのけてクリーン・ヒットとなった要因は、疾走する列車という密室の中でゾンビ・ホラーものとしての狂暴性を携えつつ、そのおぞましさと往年のパニック映画の韻を踏んだ映画的記憶の数々、またそこに人間そのものの業まで巧みにシンクロさせながら、見事なヒューマン・スペクタクル・エンタテイメントとして屹立させているところにあるでしょう。

さて、この作品の監督はもともとアニメーション作家であり、大人をターゲットにした数々のアニメ作品で世界的な評価を得続けている才人なのですが(『新感染』は彼にとって初の実写映画監督作品)、そんな彼がアニメーション映画で『新感染』の前日譚を作っていたことをご存知でしょうか……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.258》

長編ホラー・アニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』。そしてもう1本、およそ日本では企画の実現は不可能であろう問題作『我は神なり』と、ヨン・サンホ監督のアニメ作家としての実力を知らしめる2本の傑作が公開されます!

『新感染』前夜、ソウルの街を恐怖に染める
『ソウル・ステーション/パンデミック』

『ソウル・ステーション/パンデミック』は、『新感染』の前夜、ソウルの街で何が起きたのかを知らしめる作品ですが、もともとは『ソウル・ステーション』の企画を進めていく中で『新感染』の企画が立ち上がったという経緯があり、その意味ではこのアニメーション映画のほうが出発点といえるでしょう。

今回のパンデミックの原因そのものは『新感染』のほうでそれとなく触れられていますが、『ソウル・ステーション』のほうは特にそのあたりを言及することはなく、冒頭、既に何者か(『新感染』では犬も感染の媒介となっていましたが)によって感染されたホームレスの老人がソウル駅に現れたことから、地獄の一夜がスタートとなります。

この作品の主軸となるのは、風俗店を逃げ出した若い娘ヘスン。この夜、彼女はどうしようもない彼氏のキウンによって勝手に出会い系サイトに登録され、体を売るよう強制されかけていました。

やがてサイトを見た客とキウンが接触しますが、その客は何とヘスンの父親で、ずっとヘスンを探していたのでした……。

感染してゾンビ化した者たちが徐々に増えていき、ソウルの街が混乱に陥っていく中、ヘスンたちもまた恐怖の運命に翻弄されていくのですが、ユニークなのはゾンビ・ホラーものとしてのジャンルの中に、現代韓国社会が抱える格差社会などの闇を、こうしたキャラクターを通して巧みに描出していることで、しかしながら社会派的側面とホラー映画としての恐怖を見事に両立させたエンタテインメントに仕上がっているあたり、ヨン監督の鋭い人間観察と映画的センスにうならされっぱなしです。

ドラマとしてもかなりスリリングな展開で、ではいかなる結末を迎えるかまではネタバレになるので記すことはできませんが、クライマックスではアッと驚く仕掛けが用意されていたりとか、最後の最後まで目が離せない優れもの。

『新感染』と2本立てで見直したくなること必至の作品です。

インチキ教団サギを通して
人間の心の闇を描出する『我は神なり』

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しかし、日本におけるアニメーション事情などを鑑みますと、よくぞまあ『ソウル・ステーション/パンデミック』のような作品が作れるものだなと感心してしまうのですが、それ以上に驚嘆させられるのが、その前にヨン監督が作りあげた長編アニメーション映画『我は神なり』です。

ここで描かれているのは、何と宗教サギ! 
まもなくダム建設で水没することになっている田舎のさびれた村に、立ち退き保証金を目当てにした詐欺師ギョンソクがインチキ教団を伴って現れ、村人たちを洗脳し、なけなしの金を巻き上げていきます。

そんな折、粗暴な嫌われ者ミンチョルが村に戻ってきて、ギョンソクの正体を見破り、村人たちに通告しますが、そもそも札付きのワルであるミンチョルのいうことなど誰も信じようとせず、警察すらも相手にしてくれません。

とにもかくにも、このミンチョルのキャラクターが強烈で、娘の大学進学のため健気に貯めていた貯金も勝手に使い果たし、何かといえばすぐ暴力をふるう、まさに人間のクズのような男なのですが、そんな彼が真実を訴え、一方ギョンソクが雇った牧師ソンのカリスマ性によって村人たちが心救われていくというジレンマ。

ヨン監督は本作に関して「真実を語る悪人」と「偽りを言う善人」の対決を描きたかったと語っていますが、よくぞまあ、こういった人が生きていく中でのどうしようもない確執をアニメーションで描こうと思い立ったものだと感服してしまいます。

少なくとも今の日本のアニメーション界でこういった企画を挙げても実現することなど、自主製作を別にしてほぼ不可能でしょう。

もっともこの作品、ヨン監督は実写企画として立ち上げたものの、予算上の問題や、やはり自分はアニメーション作家であるという自負もあり、この題材をアニメーションで描こうと決意したのだとか。

しかしながら、この作品、まるでキム・ギドク監督作品をアニメにしたかのような、ドロドロとした人間の心の闇がこれでもかと言わんばかりに描出されていきます。

まったくもって共感できない主人公ミンチョルではありますが、まるで自分がどうしようもない破滅に向かっていくのをわかっていながら、それを自らの意思で止めることのできない哀しさをも帯びているようです。

彼以外のキャラクターもすべて「なぜ?」と言わんばかりの矛盾した悲劇性を伴っていますが、そこには朝鮮半島に古来から伝わる“恨(ハン)”の思想を垣間見ることもできます。個人的にはそう思えてなりませんでした。

“恨”とは恨みといった意味合いの言葉ではなく、簡単に申すと、人が生きていく上での理不尽な仕打ちの数々に対して、成す術もなく嘆き悲しむ慟哭の心情みたいなものをさしています。

人生に対する無常観そのものは日本にも存在する思想ですが、“恨”の場合もっと悲嘆にくれており、まるで罪という名の十字架をずっと背負って生きるのが人間のサガであると言わんばかりのものです。

以前、韓国映画の某監督に「韓国映画の主人公は愛する者を救うことができず、その贖罪として生き続けるといった結末のものが多いのはなぜですか?」と質問したら「それのどこがおかしいのでしょうか?」と逆に問い返され、「日本映画の場合、主人公は愛する者を救うために自分を犠牲にして終わることが往々にして多いのです」と返したら、「それは非常に興味深い!」と驚かれたことがありました。

また、その監督からは「もう“恨”の思想は韓国国内では古いものとされていて、実際はもっと細分化されています」とも言われましたが、私個人は昔も今も韓国映画の大半に、やはり“恨”を原点的に感じ、またその思想を理解することが両国のさまざまな意識の相違からもたらされるトラブルを解決する大きな手段として有効ではないかと思えてなりません。

その意味では『ソウル・ステーション/パンデミック』にも『我は神なり』にも“恨”の思想が感じられました。また、その意味においては『新感染』の結末は従来の韓国映画とはやや異なるようにも思えましたが、愛する者たちが次々と感染していく悲劇の連鎖そのものに、やはり“恨”を痛感させられました。

ヨン・サンホ監督に“恨”について聞いてみたい。今はそんな欲求も湧き上がっています。

現在『新感染 ファイナルエクスプレス』は絶賛上映中。

『ソウル・ステーション/パンデミック』は9月30日より全国ロードショー。

『我は神なり』は10月21日より東京ユーロスペースを皮切りに順次上映予定。

徹底したエンタテインメント性の中から人生のどうしようもない哀しみを帯びたヨン・サンホ監督ならではの心の闇の世界を、どうぞ堪能してみてください。

ヘビーではありますが、決して見て後悔はしないでしょう。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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