最初の感想は「え、うそ!?」——『予兆 散歩する侵略者』夏帆インタビュー

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劇作家・前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の舞台作品を黒沢清監督が映画化し、9月から公開された『散歩する侵略者』。そのスピンオフ作品としてwowowで放映された全5話のドラマ『予兆 散歩する侵略者』が、再編集で140分の劇場版に生まれ変わり、2017年11月11日(土)より2週間限定で、新宿ピカデリーほかで全国公開されます。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

人の“概念”を奪う侵略者を描いた『散歩する侵略者』のアナザーストーリーで、別の町で侵略者に翻弄される人々を描いた本作。今回は主人公の山際悦子を演じた夏帆さんにお話を伺いました。

念願の黒沢清監督作品に「え、うそ!?」

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──本作への出演が決まったとき、どう思いましたか?

夏帆:黒沢清監督の作品に出演することがすごく憧れだったので、お話が来たときは驚きました。まさか、自分が参加できるとは思ってもいなかったので、本当にうれしかったですね。

──「黒沢組に参加するのが目標だった」というコメントもされていましたが、黒沢作品のどのようなところに魅力を?

夏帆:黒沢監督にしか出せないあの独自の空気感と世界観ですね。それがどういう風に現場で作られているのかを見てみたかったですし、単純に作品が好きというのもあって、いつかご一緒してみたいと思っていました。

黒沢さんの作品に呼んでいただけるなんて夢のまた夢だと思っていたので、お声をかけていただけてうれしかったです。お話を最初にいただいたときに「え、うそ!?」と思ったのをよく覚えているんですが、ちょうどそのときにやっていた現場がすごく大変だったこともあり、「頑張っていれば、憧れていた人とお仕事できるんだ」と、当時の現場を乗り越える力にもなりました。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──実際に黒沢監督の現場に入ってみて、思い描いていたイメージと実際と違いはありましたか?

夏帆:いろいろなものが削ぎ落とされた無駄のない、すごく素敵な現場でした。撮影期間は3週間とタイトでしたが、スムーズに現場が進んで、撮影が夜遅くになることもなく、この分量とこの内容で、この撮影時間内に撮れるということに驚きました。

通常、現場に入ると自分の生活を成立させるのが難しいんですが、夜の6時か7時には家に帰れたので、自分の時間も作れたんです。これだけ短時間でできたというのは、黒沢監督の演出の力だと思います。

──撮影中はリハ—サルを繰り返すという感じでもなく……?

夏帆:そうですね。テイクもそれほど重ねないですし、長回しのシーンが多く、撮影時は黒沢組ということにまずすごく緊張していて、さらにワンカットにかけるプレッシャーもありました。ただ、その一回にすべてをかける緊張感がすごく心地よくて。

ワンカットに自分の力をすべてぶつけるという、とても神経を使う作業ではありましたが、それも決して嫌なものではない、終わってからもしばらく興奮状態というか、心地よい充実感がありました。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──現場で何か心がけていたことはありますか?

夏帆:特別何かをしたというのはないですね。染谷将太さんとも二回目の共演で周りのみなさんも信頼している方ばかりなので、現場に入ってそれぞれの役割を全うしている感じでした。

でも、撮影期間中は自分の時間もあったのに、振り返ると不思議と撮影のことしか覚えていないんですよね。それだけ密度の濃い現場だったのかなと思います。

主人公の悦子は「深い愛のある強い女性」

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──今回、夏帆さんが演じられた主人公の悦子は、深い愛情と内面的な強さを兼ね備えた女性ですよね。

夏帆:そうですね。母性が強く深い愛のある女性だと思います。怯えるシーンも多かったですし、悦子のような状況に陥ったら恐怖心はもちろんあるんですけれど、その中でも悦子の強さを大切にしたいと思っていました。それは、たびたび黒沢監督からも演出を受けたところです。

──悦子の強さを演じるうえで心がけたことは?

夏帆:自分でも意識はしていましたが、怯えや恐怖心が強く出てしまうと、その都度黒沢監督から「悦子の強さをもう少し意識してください」という演出をしていただいたので、その中で自然に引き出されていった感じですね。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──ご自身と悦子の共通点、そして、自分と違うなと思うところは?

夏帆:共通点というか、悦子が最後までぶれないで、どんなに環境が変わっても夫の辰雄や自分が大切にしている日常を守るために突き進んでいく、そういう強さに憧れますね。すごく素敵な女性で、自分もこうありたいなと思います。強い女性はかっこいいですね。

──本作の中で悦子は侵略者と対峙するわけですが、なぜ、対峙するのが悦子だったのか…ということは劇中でも謎ですよね。

夏帆:そうなんですよね。なぜ、 悦子には特別な力があるのかというのを突き詰めて説明しようとすると難しいです。ただ、悦子自身も、なぜ侵略者たちが自分に対してこういうことを言ってくるのだろう? というのは、わからずにいたと思います。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──今回、夫婦役を演じた染谷将太さん、侵略者の真壁を演じた東出昌大さんの印象はいかがでしたか?

夏帆:染谷くんとは以前もドラマでご一緒させていただいて、すごく信頼しているので、彼が入ると聞いてとても安心したのを覚えています。彼は年下なんですけれど、どしっとしていて、ぶれないすごい役者さんだなと改めて思いました。前回は幼なじみの間柄だったんですが、今回は夫婦というまた違った関係性でご一緒できてとても楽しかったです。

東出さんとは今回初共演だったんですが、独特の佇まいと雰囲気のある方で真壁役にぴったりだと思いました。今回の現場では、私が真壁として見ていたからかもしれませんが、立っているだけで威圧感があって不安になって、目が合ったら何かもっていかれるんじゃないかという感じで。

難しい役だったと思うんですが、すごく魅力的に演じていらして、お芝居をしていたときも、出来上がった作品を見たときも素敵だなと思いました。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──東出さん演じる真壁と悦子が対峙するシーンが何度かありましたが、いずれもなんともいいようのない緊張感があったように思います。

夏帆:そうですね。ただ、真壁とのシーンだけでなく、映画の全体を通して常に緊張感がありました。現場の雰囲気の中に威圧的ではない良い意味でのそれが続いていて、そういう環境でできただけに、集中していいお芝居ができたかなとは思います。

「また、黒沢監督の作品に呼ばれる役者でありたい」

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──完成した作品はすでにご覧になっているんですよね。見てみていかがでしたか?

夏帆:話の流れを知っているのに、息をつめてドキドキしながら拝見していました。撮影していたときから、作品として手応えを感じていて、今回、WOWOWで放送していたドラマが劇場公開されることが、すごくうれしいです。

撮影に入る前に脚本を読んだ状態で映画『散歩する侵略者』を観たので、よりいっそう深く世界観を感じることが出来ました。みなさんにもふたつの作品を合わせて楽しんでいただければと思います。

──本作は侵略者が人が持つ“概念”を奪おうとするストーリーですが、これまで、夏帆さん自身の演じることへの“概念”が変わったというお仕事や作品はありますか?

夏帆:二十歳を過ぎて初舞台を踏んだときに概念が変わりました。役を演じるという根本は映像と変わらないですが、作り方やお芝居の仕方、見せ方やアプローチの仕方も違うので、世界がとても広がりました。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

あと、舞台のほうが役者同士が密に接するんですよね。映像だと同じシーンに出ている人としか会わないけれど、舞台だと稽古が始まって2、3か月ずっと一緒にいるので、先輩たちの役を作っていく過程を間近でみられてすごく刺激を受けました。

舞台を経験してからまた映像の仕事をしたときに、現場での在り方や脚本の読み方、作品との向き合い方もすごく変わったなと思います。

──今回、念願だった黒沢清監督の作品への出演を達成して、今どんなお気持ちですか?

夏帆:「仕事を続けてきてよかったな」と思いました。憧れていた監督と仕事ができて、これまでいろいろなことがあったけれど、頑張ってきてよかったなと。

──悦子は非常に難しい役だったのではないかと思うのですが、今後、演じてみたい役はありますか?

夏帆:特別にこういう役をやりたいというのはないんですが、最近は母親役を演じたり、年齢とともに役柄も変わってきたので、今しかできない役を楽しんでいきたいですね。とはいえ、役も出会いなので、いい役と出会っていけるよう、日々積み重ねていきたいです。

(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

──今後のさらなる目標を聞かせてください。

夏帆:毎作品、逃げずに、役と自分に向き合っていきたいです。仕事だけではなく、日々の生活も大事にして身も心も常に健康でいられたらな、と。そして、また黒沢監督の作品に呼ばれるような役者でありたいと思います。

──最後に、公開を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いいたします。

夏帆:WOWOWのドラマから劇場版へということで、音も映像も劇場版仕様にグレードアップして、よりこの作品の世界観を楽しんでいただけると思います。ドラマ版をご覧になった方もそうでない方も、ぜひ大きなスクリーンで楽しんでいただきたいです!

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『予兆 散歩する侵略者』は2017年11月11日(土)より、新宿ピカデリーほかで2週間限定ロードショーです。

(写真:結城さやか、取材・文:田下愛)

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    ライタープロフィール

    田下愛

    田下愛

    フリーランス・ライター。雑誌、書籍、Webメディアで、幅広いジャンルの仕事をこなして活動中。ファンタジー映画が大好物で、『オズの魔法使い』『ナルニア国物語』『アリス・イン・ワンダーランド』など、魔法やおとぎの国を扱った作品にはすぐ飛びついてしまいますが、一方、『レインマン』のような人間をきっちり描いたドラマも好き。石ノ森章太郎先生をリスペクトする昭和特撮フリークでもあります。

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