『さよならの朝に約束の花をかざろう』のタイトルが意味するものとは?

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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称『あの花』)や『心が叫びたがってるんだ。』(通称『ここさけ』)など、実力と人気を兼ね備えた脚本家の岡田麿里。

思春期の少年少女の繊細な想いを描出することに長けた才人が、このたびアニメーション映画初監督に挑戦しました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.292》

『さよならの朝に約束の花をかざろう』

さて、このタイトルが意味するものとは?

見た目の成長が止まったまま
数百年生き続ける民の悲劇

『さよならの朝に約束の花をかざろう』は、ジャンルでいえば、ファンタジーに属します。

舞台は、とある世界。

人里離れた土地に住むイオルフの民は、10代半ばで外見の成長が止まり、そのまま数百年生き続けることから“別れの一族”と呼ばれています。

そんなある日、イオルフの長寿の血を求めるメザーテ軍の侵攻により、村は全滅。

辛くも生き延びた少女マキアは、暗い森をさまよう中、ひとりの男の赤ん坊を見つけ、彼を育てることを決意します。

赤ん坊はエリアルと名付けられ、すくすくと成長していきますが、やがて思春期を迎え、少女のままのマキアに対して素直でいられなくなっていき……。

日本には不老不死の尼僧・八百比丘尼の伝説があり、星野之宣の傑作SF漫画『幼女伝説』の中に登場したりもしていますが、本作もまた周囲と時の流れが異なるがゆえのヒロインの悲しみが描かれています。

なぜイオルフの民が“別れの一族”と呼ばれているのか、見る側の素朴な問いに対しても、説得力を持って答えが提示されています。

ファンタジーの衣をまとってはいるものの、その本質はやはり繊細な人間ドラマであり、『あの花』や『ここさけ』のラインと同一線上にあるものととらえていいでしょう。

鑑賞後もずっと心に残る
ヒロインの哀しみの想い

岡田麿里監督作品らしいと唸らされるのは、見た目が老いることのないマキアが、齢を取り続けていく少年を健気に育てていくことから醸し出される母性や、幼いころから見た目がそのままの母に戸惑い、やがては反抗期も伴って素直でいられなくなってしまうエリアルとの絆の描出にあるでしょう。

もちろん壮大なバトル・シーンも用意されていますし、古獣レナトといった怪物も登場、またメザーテ国王朝内のドラマなど、ファンタジーとしての見せ場にも怠りはありませんが、しかしながら鑑賞後はそういった要素はどんどん薄れ、やはり最後にはヒロインの哀しみの想いこそがいつまでも心に残る作りになっています。

その意味ではイオルフの民が織る布が、ある種の記録装置の役割を果たしているといった設定も、本作の世界観に即したものでした。

クライマックスが思い入れたっぷりすぎて感傷過多になってしまうところなど、短所もないわけではありませんが、そこは初監督ということで、むしろ今回は十分すぎるほどの及第点の出来に仕上がっていることを讃えたいと思います。

キャラクターデザイン&総作画監督・石井百合子らによる気品のある静謐な画の美しさと、川井憲次の堅調な音楽など優れたスタッフワークも特筆しておくべきでしょう。

さて、戦乱の世の中、母と息子の運命はどうなるのか?

タイトルの『さよならの朝に約束の花をかざろう』には、大きなヒントが隠されていますが、正解は実際に映画を見て把握していただければと思います。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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