『シライサン』のレビュー:貞子や加耶子に負けず劣らずの新たなホラー・クィーン誕生!

恐怖のポイントを巧みに突いた
秀逸な演出とキャストの魅力

この後、映画は3人の変死事件に疑問を抱いて取材を始めるジャーナリストの間宮(忍成修吾)を絡めながら、シライサンの謎を追う瑞紀と春男の恐怖体験が描かれていきます。

シライサンが現れたら、決して目をそらしてはいけない。そらしたが最後、殺されてしまう……。

こうなってくると、見る側としてはシライサンは実際どういう姿をしているのか気になってくるかと思われます。

普段のホラー映画のパターンだと、なかなかその姿をクライマックスあたりまで見せないのが通例ではあるでしょう。

しかし本作はかなり早い段階でシライサンの姿を堂々と提示し、各登場人物と対峙させてくれます。

そのおぞましい形相は夢に出てきそうなほどで、特殊メイクの妙もさながら、なかなか大胆不敵な手に打って出て、それが成功していることにも感服。

これまで「乙一」名義で様々なジャンルの小説や脚本、短編映画の監督などクリエイティヴな活動を続け、これが長編映画デビューとなる安達寛高監督の演出はオーソドックスながらも恐怖のポイントを巧みに突いた秀逸なもので、いわゆる下世話なこけおどし的なことは一切やっていないあたりも好感がもてるとともに、このジャンルに対するリスペクトみたいなものまで感じられてなりません。

キャストの活かし方も実に心得ていて、飯豊まりえ&稲葉友をはじめとする若手俳優の個性を魅力的に引き出しつつ、シライサンのおぞましさとのギャップを大いに醸し出してくれています。特に飯豊まりえはさりげなくも存在感豊かにシライサンと対峙し得ており、その意味でも見事にホラー・ヒロインとしての大任を全うしてくれています。

知る人ぞ知る自然と野生と人の関係性を綴った秀作『アルビノの木』(16)の監督としても知られる金子雅和撮影監督が映し出す映像も、見事なまでにダークでファンタジックな世界観を構築しており、総じてスタッフワークも良好なのでした。

スマホとイヤホン持参で愉しむ
ユニークな音響システム!

また本作は音響面でも「イヤホン360」なるユニークな方式が採用されています。

要はスマホにアプリをダウンロードして(上映直前に場内でできます)、持参したイヤホンを耳に付けて360度サラウンド音響をダイレクトに愉しむというシステム。

世代的には、かつてダリオ・アルジェント監督の傑作ホラー『フェノミナ』(85)が日本公開された際、ラジオ付きウォークマンで場内を飛ぶFM電波をキャッチして、イヤホンで立体音響を愉しむという“クランキー・サウンド”方式で上映していたのを思い出します(あのときは怖かった! 実は今回悔しいかな、試写当日うっかりイヤホンを持参するのを失念していたもので、このシステムを未だ体験できておりません。今度は忘れずに劇場に行かねば!)。

通常の映画館のスピーカーから聞こえてくるテイストのものとは一味異なる、耳に直接ダイレクトに響く恐怖の音を、ぜひお試しのほどを。
(ただし上映中のスマホの光など、マナーにはくれぐれも留意してくださいね)

正直、見る前はさほど期待していたわけではなかったのですが、まさかここまで自分好みのホラー映画になっているとは思いもよらず、上映終了後は恐怖心もさながら、どことなくカタルシスあふれる気分にすらなっていたのでした。

それでは、目をそらすことなくご鑑賞ください!


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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