『シンドバッド 空とぶ姫と秘密の島』を見ながら、いろいろな感慨にふけってしまいました。

7月4日から公開中の『シンドバッド 空とぶ姫と秘密の島』を見ながら、いろいろな感慨にふけってしまいました。

まず、この作品は日本アニメーション40周年記念作品として製作されたものですが、同社はこれまで『フランダースの犬』(75)や『赤毛のアン』(79)などの“世界名作劇場”や現在もオンエア中の『ちびまる子ちゃん』(90~)などを手がけてきたアニメーション制作会社の老舗でもあります。その意味で『シンドバッド』は“世界名作劇場”路線の流れを汲む最新作ともいえるでしょう。

シンドバッド、その原典とは?

ただし、シンドバッドの物語と一口で言っても、意外に本当はどんな内容なのか知らない方も多いのではないでしょうか。

もともとシンドバッドとは、インド地方などに伝わる膨大な数の説話を8世紀ごろのイスラム世界でまとめあげ、その後も話数を増やしながら、さまざまなバリエーションを存在させていった説話集『千夜一夜物語』(日本では『アラビアンナイト』とも呼ばれています)の中に登場する『船乗りシンドバッドの冒険』(第290夜~第315夜)の主人公ですが、今では大海を航海するイスラム商人の冒険者を象徴する名前として捉えられることのほうが多いです。ちなみにシンドバッドとはアラビア語で“インドの風”という意味。また日本ではシンバッド、シンドバードと表記されることもあります。

冒険者シンドバッドを主人公にした映画は、特撮を駆使した『シンドバッド7回目の航海』(58)を筆頭に数多く作られており、日本でも長編アニメーション映画『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』(62)が東映動画(現・東映アニメーション)製作で劇場公開されています。また『千夜一夜物語』そのものも、手塚治虫が“大人の見るアニメーション映画”といったふれこみでプロデュース&構成&脚本を手がけた同名作品(69)が存在します。

『未来少年コナン』のごとき作画と設定の数々

これらは先に述べたとおり『千夜一夜物語』に忠実な映像化というよりも、むしろシンドバッドというキャラクターだけを抽出したオリジナル要素の強い作品となっておりますが、今回の『シンドバッド』もその例に漏れません。しかも、ここでのシンドバッドは海の冒険に憧れている少年ですが、そんな彼の前に空からひとりの少女が現れ、さらには彼女を追う謎の集団と、何やら宮崎駿監督作品を彷彿させる展開となります。

実は日本アニメーションこそは、宮崎駿が初監督したTVアニメーションの傑作『未来少年コナン』(78)を手がけた会社でもあり、思えばあの作品もボーイ・ミーツ・ガールに始まるSF冒険ドラマでありました。
そう、今回の『シンドバッド』は、『未来少年コナン』に倣ったかのような、特に私のようなおっさん世代には懐かしい作画とストーリーで展開されていきます。途中の戦闘シーンなどに登場する敵のメカなどがジュール・ベルヌ風なのも楽しく、またシンドバッドが飼っているペット・キャラなど、往年の“世界名作劇場”へのオマージュや遊び心も多々見受けられます。

適材適所のヴォイス・キャスト

新しさを挙げるとしたら、空から馬に乗って降りてきたヒロイン、サナの気丈でクールな無表情を装うといった一見きつめの見た目と性格でしょうか。これが声優初挑戦という15歳の女優・田辺桃子の声は硬質気味ではありますが、それがキャラの品格とマッチしていて、好印象ではあります。その伝でいくと主人公シンドバッド役はTVアニメ『ワールドトリガー』(14)の空閑遊真役でも知られる村中知で、さすがに安定した声質。女性声優が少年の声を請け負うという日本のアニメ・シーンの王道を心地よく担ってくれています。

嬉しかったのが、シンドバッドの母親役をベテラン女優の薬師丸ひろ子が担当していたことで、実は彼女、デビューしてまだ間もない1980年、長編アニメ映画大作『地球(テラ)へ…』に少年ジョナ・マツカ役で声優デビューしたのですが、正直そのときはこちらを複雑な想いにさせるものが多々あり(私、当時は彼女と結婚したいと思うくらいのファンでした!?)、現に彼女自身、以降はアニメの仕事をやることもなかったのですが、さすがにあれから35年の月日を経ての第2作、わが子を冒険の旅に送り出す母親の心情をごく自然に声で表現してくれていました。

シンドバッドらが乗る船の船長ラザック(私らの世代には、彼のほうがシンドバッドというイメージがありますね)は鹿賀丈史。彼は『ブラックジャック ふたりの黒い医者』(15)のドクター・キリコ役も良かったですが、今回もさりげなくも貫禄の演技でしたね(私自身は、顔の知られたタレントなどを安易に声優に起用する風潮が好きではありませんが、舞台出身の役者さんの場合、往々にして声優の仕事も巧みにこなしてくれるので安心できます)。

中篇連続作品のストレス

さて、この作品、実は1本50分の中篇で、しかも3部作仕様なのですが、正直50分はあっという間で、早く続きを見たいものの第2部は12月、第3部は来年春くらいの公開予定とか。こういった中篇連続ものは、できれば『トワノクオン』6部作(11)のように2、3ヶ月くらいのスパンでやっていただけたら、前作の筋を忘れないうちに見られるのでストレスも溜まらないし、何よりもこれを機に映画館通いする癖もできるので(シネコンの場合、ついでに他のものも見ていくかという気分にもなりますし)、本当はありがたいのですが、作画スタッフの労苦などを思うに、あまり強いことも言えないですね。いずれにせよ、第2部が楽しみではあります。

(文:増當竜也)

©プロジェクト シンドバッド

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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