字幕派の私が『SING/シング』を吹替版を観たらド肝を抜かれた話

SING/シング ポスター

(C)Universal Studios.

近年、映画を鑑賞する上で「字幕で観るか、吹き替え版を観るか」が1つのポイントになっているという方も多いのではないでしょうか。

字幕にはオリジナル原語まで含めた俳優の演技力を楽しみ、吹き替え版には字幕を注視しなくて済む、というそれぞれにメリットがあります。ただ、最近は宣伝ありきの吹き替えキャストが問題になるのも事実。その多くは声優以外のタレントの起用によって映画の雰囲気を壊されるというもので、声の演技が未経験のタレントや芸人の名前が挙がるたびに映画が「間違った方向」で話題になっていました。

3月17日から始まった『SING/シング』も、そんなタレント吹き替え作品の1つ。

『ミニオンズ』のイルミネーションスタジオの最新作で、アメリカ本国では主人公のコアラ、バスター・ムーンの声をアカデミー賞俳優マシュー・マコノヒーが担当し、他にもリース・ウィザースプーン、タロン・エガートン、スカーレット・ヨハンソン、『テッド』の監督&声優でお馴染みのセス・マクファーレンらそうそうたるメンツが名前を連ねています。

SING/シング 第41回トロント国際映画祭 プレミア上映1

(C)Universal Studios.

一方の吹き替え版では、ムーン役の内村光良を筆頭に、ゾウのミーナに歌手のMISIA、ゴリラのジョニーにスキマスイッチの大橋卓弥、ヤマアラシのアッシュに長澤まさみ、ブタのロジータとグンターに坂本真綾、トレンディエンジェルの斎藤司、ネズミのマイクに山寺宏一と、まさに“芸能界のアベンジャーズ”と呼ぶべき面々が集結しています。
SING/シング 内村光良

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今回の「映画音楽の世界」では、そんな『SING/シング』を吹き替え版で鑑賞した「映画は字幕派」の筆者の、率直な評価を記したいと思います。

なぜその吹き替えキャストとなったのか、意味を知る

結論から言うと、『SING/シング』吹き替え版、最高でした。

これは凄い。

どのキャラクターも違和感を感じさせず、映画の世界観に“歪み”を覚えることはありませんでした。中でも圧巻なのはミーナ役のMISIA。筆者はMISIAの地声も好きなのでこの時点で本作はお得感があるのですが、MISIAの普段の声音はあのパワフルなボーカルとはまた違う、繊細で綺麗な声なんですよね。

声優初挑戦なので台詞にはたどたどしさもありますが、逆にそんなギャップがミーナという緊張ばかりでなかなかはっきりと物事を口にできないキャラクターにピッタリ。

歌唱力だけでなく「地声と歌声の差」という点も踏まえてMISIAをキャスティングしたのならば、担当者の慧眼は素晴らしいものだと思います。バスターがミーナの歌唱力に気付く[ハレルヤ]のシーンは静謐さの中に凛とした美しさがあり、一気に引き込まれます。そして「くよくよしていてはだめだ」とエールを送るスティービー・ワンダーの名曲[Don’t You Worry ‘Bout A Thing]は、名ステージ揃いの本作で随一のパフォーマンスではないでしょうか。

SING/シング メイン

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同じくポップス界から登板しているスキマスイッチの大橋卓弥のジョニーも、情感にあふれた歌唱で“本職”としての存在感を放っています。

ジョニーは父親のギャング団の行為に加担しつつ、それでも歌手としての夢を真っ直ぐに追い求めステージに上がります。そこには歌手を目指し、同時に父親に認めてほしいと願うジョニーの芯の通った真面目さと精神的な支えを欲する“弱さ”があり、大橋のどこか中性的な声色はそんなジョニーの性格にフィット。

ずんぐり体型のゴリラというキャラから紡ぎ出される伸びのある歌声は、ジョニーの持つ才能を如実に表現してみせています。「愛さなくてもいい、ただ、そばにいてほしい」としっとりと歌い上げるサム・スミスの[Stay With Me]や、エルトン・ジョンの[I’m Still Standing]、ジョン・レジェンドの[All of Me]など、ジョニーが披露する楽曲の吹き替えとして、美しい歌声を放つ大橋の抜擢はまさに適役だったと思います。

SING/シング 大橋卓弥 スキマスイッチ

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声優キャストの歌唱力も負けじと聴き応えたっぷり。25匹の子ブタを育てる主婦のロジータを演じる坂本真綾は、コンテストステージでケイティ・ペリーの[Firework]でその艶やかな歌声を披露。

SING/シング 坂本真綾

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「あなたは花火なのよ。価値がある。彼らに見せてあげなさい」という歌詞が持つメッセージの通り、家事に追われる毎日のロジータがこのステージをきっかけに徐々に開花していき、抜群の吹き替えセンスを見せたトレンディエンジェル斎藤司演じるグンターとのデュエットによるテイラー・スウィフトの[Shake It Off]は、コンテスト時よりもさらに煌びやかになった2人の歌声、パフォーマンス、舞台演出に至るまで一貫して意味を持っているので必見です。

SING/シング 斎藤司 トレンディエンジェル

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声優界のレジェンド・山寺宏一によるフランク・シナトラの[My Way]も、わがままで自分勝手な生き様を貫くネズミのマイクにイメージが重なるようになっていました。シナトラの渋さと翳りを帯びた哀愁の歌声をも再現、自分流に取り込んでしまうレジェンドの技術はさすがの一言!
SING/シング 山寺宏一

女優としての底力を見せた長澤まさみの歌声も素晴らしい。声優としては既に『君の名は。』などがありますが、舞台『キャバレー』などこれまでのキャリアで培った歌唱力を遺憾なく発揮しています。オリジナルソングとなる[Set It All Free]は、パンク少女のヤマアラシ・アッシュが見せる人としてならぬヤマアラシとしての成長の足跡をたどる歌詞になっていて、彼女のステップからステージが始まる意味も含めてオーディエンスの盛り上がりを最高潮へと導いていきます。

SING/シング 長澤まさみ

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ここまで書いてきて解る通り、本作でそれぞれのキャラクターに充てがわれた楽曲は、どれもが歌詞とキャラクターが密接に繋がり合っています。吹き替え版ではその意味を壊してしまわないよう丁寧に和訳され、かつ理解した上で各キャストが挑んでいることが並々ならぬ熱量から伝わってきます。

そして本作の魅力はそのステージシーンだけにあるのではないこともここに書いておきましょう。亡き父親の姿を常に自分の劇場の中に重ねるバスター、家族に背中を押され一歩を踏み出そうとする引っ込み思案のミーナ、父親との絆を求めるジョニー、家事に励みながら変わっていくロジータなど、本作のテーマの1つに家族との関係性があり、各キャラのバックボーンとして密接に描かれそれぞれが答えを見つけていく感動がクライマックスに待っています。

ステージで立ち竦んでしまうミーナにバスターたちが「Sing(歌って)」とエールを送る様子に、この瞬間彼らもまた本当の仲間=家族になったのだと、本作のタイトルの持つ意味に思わず胸が熱くなります。

まとめ

最後に本作の劇伴を担当したジョビィ・タルボットについて触れておくと、監督のガース・ジェニングスとは『銀河ヒッチハイク・ガイド』『リトル・ランボーズ』から続けての登板になるので専属作曲家的な信頼関係が出来上がっている様子。

本作はどうしても歌唱シーンに注目が集まってしまいますが、歌劇がハリウッドで黄金期を迎えていた頃を思わせるオーケストレイションやスウィング的なステップを見せるスタイルで挑んでいるので、それも合わせて『SIN/ シング』が音楽映画として隙間なく楽しめるようにもなっているのです。

と、言うわけで本作は「吹き替えだからこそ」の機能がしっかりと生きた、魅力満載の吹き替え版になっています。その歌声に酔いしれることは必至。どの世代でも純粋に楽しむことができる本作、ぜひ吹き替え版でもご鑑賞ください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

(文:葦見川和哉)

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