『雪女』監督&主演・杉野希妃インタビュー、どんなキラキラ映画よりもキラキラと、美しくも哀しく輝く雪女の愛と絆

雪女と人間の間に生まれた娘は果たして雪女なのか?

―― 私自身は今回、母娘の関係性にこだわって描いているのが非常に興味深かったです。つまり、雪女の娘は雪女なのか?

杉野 実は原作を読み返したとき、一番気になったのがそこだったんですよ。

── 今回の映画がどうなっているかはネタバレになるので申しませんけど、やはり母と娘の絆にはこだわりたかったのかなと。

杉野 そうですね。雪女が人間化していく過程も含めて、今回は雪女=ゆきとその夫・巳之吉、ふたりの娘ウメの3人にフォーカスを絞って作っています。

──時代設定がパラレルワールドとでも言いますか、最初は原作通りの時代劇かと思いきや、やがて戦後昭和っぽい照明器具の工場も出てくるし、かと思うと着物を着ているキャラクターも多いので原作が書かれた明治か大正時代かなと思っていると、学校の校庭で少女たちがちょうちんブルマをはいて踊っていたりする(笑)。

杉野 ちょうちんブルマはお気に入りです(笑)。衣裳さんが持ってきてくださったとき、もう叫んで喜びましたね。「これを求めてました!」と(笑)。あのシーンは村に代々伝わる舞踊といった設定で、オリジナルの踊りを振り付け師の方に作っていただきました 。

──その伝で申しますと、この映画の端々から「儀式」という要素がすごく意識させられますね。それは日本独自の“美”でもありますが、同時に“恐怖”というか畏怖の念をも呼び起こしてくれています。

杉野 儀式も含めた古来の伝統的なものに対するシンパシーとアンチテーゼの両方が、上手く出せたらいいなと思いました。

── ラブシーンにしましても、この映画で特に見せなくても成立はするのに、あえてゆきと巳之吉の温泉での絡みを描いています。あれもひとつの契りとしての美しい儀式と捉えてよいのかなと。

杉野 そうですね。あそこは絶対にやりたくてこだわったシーンでもあります。

── ただ、雪女も風呂に入れるんですね(笑)。

杉野 入れるんです(笑)。真面目にお答えしますと、ゆきは体温が低いがために一度流産してしまっているので、身を削ってでも温泉で体を温めて、今度こそ愛する人の子を産むのだという、彼女の決意を表しているんです。

(C)Snow Woman Film Partners

哀しみと優しさを醸し出す杉野監督独自のストイシズム

──こういった美しくも不可思議な画の連なりが導く世界観は非常にあやふやなもので、しかもアートにもファンタジーにも偏ることもなく中庸を保ちながら、あたかも人の世と魔物の世の狭間に位置する「逢魔ケ時」とでも言いますか、もはや言葉ではうまく表現できない世界が全体的に描出できているように思えました。

杉野 私としましては、この映画をご覧になってくださる方々をずっと幻惑させたかった。そんな想いが作っている間ずっとありましたね。

── 今回出演もされている、“逢魔ケ時”が大好きな佐野史郎さんも、きっと好みの画であろうと思います。

杉野 佐野さんは小泉八雲ゆかりの島根県松江のご出身で、八雲の朗読活動をライフワークにもされていますので。

── そこでお聞きしたかったのは、杉野さんはこれまでの監督作品は毎回キャメラマンを変えてらっしゃいますよね。割と新人若手監督の場合、同じスタッフ編成になることが多い傾向がある中、これは面白いなと。もっとも今回のキャメラマン上野彰吾さんは、杉野さんが主演とエグゼクティブ・プロデューサーを兼任された『3泊4日、5時の鐘』(14)の撮影を担当されています。

杉野 いろいろな方とお仕事してみたいというのが、私の中にあるんです。おそらく私自身が監督としてのテイストを模索中だと思うんですよ。もちろん確固としてこういうものを伝えたいとか、こういうものが好きだというのはあるんですけど、監督としての画作り等に関しては、いろいろな方々と組みながら、自分の個性みたいなものを見出していきたい。それで毎回その作品のテイストに応じながら、一緒にやってみたい方々にお声がけしているというのはありますね。ですから今はまだ発展途上ですけど、みなさんから刺激を受け、揉まれながら、いずれは「これは杉野希妃の画だ」と見る方に思っていただけるようなものを確立させていきたいと思っています。

── でも今回はかなり杉野監督ならではの画というか、色が出ているように思えました。ある種のストイシズムとでも言いますか、もちろんクリエイターとして妥協しないといった部分もありますが、それ以上に自分を厳しく律している感覚は、監督デビュー作の『マンガ肉と僕』(14)も2作目の『欲動』(14)も一貫していますし、今回もそのストイシズムゆえに“雪女”というシンプルな物語を過剰に肉付けすることなく、巧みにバランスを取りながら、全体の世界観から醸し出される人の営みの厳しさと哀しさ、そして優しさを見る者に訴えかけている。

杉野 ストイシズムって、生まれて初めて言われました(笑)。でも、何だかしっくりくる気はします。作品を作る上で自分に負荷をかけたいという想いは、実は毎回あるんですよ。

── 台詞を極力排し、画そのものでドラマを語ろうという姿勢も、まるでTVドラマのようなわかりやすさのみを押し付けがちな最近の日本映画界と相対するものではないかと。

杉野 実は脚本だともう少し台詞があったんですけど、編集していくうちに饒舌だなと思えてきたんです。「この映画に饒舌さはいらない」、そう思ってどんどん削ぎ落としていきました。

── 説明がなくても、銀幕の大画面で見ればちゃんと伝わるようになっている。その意味では巷で流行のキラキラ思春期映画などよりも、本作のほうがよほどキラキラしています。

杉野 キラキラ映画、私も作ってみたい(笑)。

── 『雪女』こそ今の説明台詞まみれの映画やドラマに慣れ切った、特に若い世代の観客にも感覚的に十分受け入れられるキラキラ映画だと確信しています。何よりも画の美しさ、加えて各キャラクターの美しさ、すべてが輝いています。

杉野 その意味では、私も観客の方々を信じていますね。きちんと描けば、必ず理解してくれるはずだと。それと私は、映画ってご覧になられる方々それぞれの解釈に間違いはない。そう思っているんです。ですから、よく「こういう風に思ったんだけど、合ってる?」って聞かれると、すべて「合ってます」と答えるようにしています。というか、そう答えるしかないと(笑)。

── 100人が見れば100の誤解が生じるのが映画の醍醐味でもありますし。

杉野 またそれで映画そのものが膨らんでいくと言うか、豊かになっていくとも思います。

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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