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本日2018年12月21日より公開となった『シュガー・ラッシュ:オンライン』。ゲームの世界を舞台にしていた前作『シュガーラッシュ』から、約5年を経て公開されたこの作品は、ずばりインターネットの世界を舞台としたディズニーアニメだ。
ディズニーアニメというと熱烈なファンがいる一方で、どうしても敬遠する人がいたりするが、この作品については声を大にして私は言いたい。
「ディズニーにあまり馴染みがなくても、アニメを普段観ない人でも、インターネットが好きなら全員『シュガーラッシュ:オンライン』を観て欲しい!」
『シュガーラッシュ:オンライン』は、きっとあらゆる手段を尽くしてインターネットを調べたんだろうと思うような、ネットあるあるが満載だ。観れば観るほど、あの懐かしのサービスや、皆で楽しんだネットカルチャーが見つかるという、まさに”イースター・エッグ”を探すような作品なのだ。
予告編から、どうしても「ディズニーによるディズニーパロディ」「ディズニープリンセスが大集合」というところが注目されがちな本作だが、今回は元IT業界人として「インターネット界隈の人から見た、シュガーラッシュの面白いところ」を、ネット民の皆様向けに紹介したい。
1.インターネットの仕組みわかりやすく描かれすぎ問題
今回の「シュガーラッシュ:オンライン」は、主人公・ヴァネロペのゲームである「シュガーラッシュ」が壊れてしまい、ヴァネロペの帰る場所がなくなってしまうところから、物語がスタートする。
※ちなみに、わりと何の説明もなく話がスタートするので、できれば前作を観ておくことをおすすめしたい。ただ、さすがディズニーというべきか、本格的にストーリーに入るまでにだいたいの設定はつかめるので、前作を観る時間がない方は最初の5分間だけ耐えて欲しい
壊れたシュガーラッシュを直すため、ヴァネロペとラルフが飛び込んだのが「Wifi」で繋がるインターネットの世界である。これは、私達の世界に実在するインターネットが元になって作られており、YouTubeからTwitterから、そしてなんとmixiまで、ネット民の生活に欠かせない(もしくは欠かせなかった)サービスがこれでもかとばかりに登場する。
特にアメリカ発のオークションサイトであるeBayは孤軍奮闘の大活躍だ。もしeBayがなかったら映画自体が成り立たない、と言えるぐらい重要な役割を果たしており、映画を観た人はもれなくeBayの支払い方法に詳しくなれる。eBayに勤めるディズニーファンの方からしたら、一生ものの作品だろう。
さらにこの世界では、インターネット・ユーザーは全員アバターとして、カプセルのような乗り物でサイトを”ネットサーフィン”する。その乗り物にもいくつか種類が存在し、例えば、より安全に移動できるスポーツカー風の乗り物は「プライベート・モード」と呼ばれている。ネットをかじった人ならおわかりのように、これはインターネット上で履歴などを残さず、共有のパソコンで恥ずかしいサイトを見れるサイトに安全にアクセスできる実在の方法を元にしたアイデアだ。
こういった実在のインターネットの仕組みを元にした世界観は、リッチー・ムーア監督が『ズートピア』での経験を活かして作りあげたものである。『ズートピア』は動物たちのテーマパークが舞台となった作品だったが、今度はインターネットのテーマパークが舞台になっているというわけだ。
また、この『シュガーラッシュ:オンライン』で描かれる世界は「インターネットでは、新しいものが次々と作られるが、古いものが消え失せるわけではない」というコンセプトをもとに作られている。
つまり簡単に言えば、古いサービスの上に、どんどん新しいサービスが高層ビルのように重なって建てられている都市なのだ(ちなみに、この世界で一番高いビルとして描かれているのはGoogleである)
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この「古いサービスの上に、新しいサービスがどんどん建てられていく世界」というコンセプトは、ストーリー上は理解していなくても正直なんの問題もない。が、昔からインターネットを使っている人なら、時々クスッと出来るネタが隠されている。
たとえば終盤、ラルフが一人で地表で探しものをするシーンがある。ほとんどが廃墟となり、誰もいない古びたインターネットの世界で、唯一まだ点滅している看板がある。それが「Public Chatroom(チャットルーム)」だ。
ピンと来ない人もいるかもしれない(というか大半がそうかもしれない)が、Yahoo!チャットなど、インターネット黎明期には「チャットルーム」というサービスが一大流行を見せていた(いまでいうとFacebookグループが近いのかもしれないが、Facebookグループが大通りにある公園なら、チャットルームは路地裏にある公園のような場だと思う)
あの懐かしの「チャットルーム」が、廃墟の中でいまだに細々と、なじみ客を相手に看板を出している様子は(本編には何の関係もないが)昔ながらのネット民からしてみれば、哀愁ただよう名シーンだ。おそらくこれを作ったクリエイターも、かつてはチャットルームに参加して、エンタメカテゴリでディズニー映画の話をしていたのかもしれない。
そして、さらに面白いのは「ダーク・ネット」だ。中盤でラルフは、仲良くなったJP・”スパム”リーに連れられて、インターネットの闇とされる「ダーク・ネット」に案内される。ラルフ達がエレベーターで”地下”に降りた先にあるこのダーク・ネットは、インターネットに実在する闇のネットワークである。
「ダーク・ネット」は、我々が普段見ているインターネットのさらに下、最下層部にあるとされ、Google検索のようなやり方ではアクセスできず、特殊な方法でしかアクセスできない。実際にウイルス製造などにも使われているとされており、盗まれた仮想通貨のマネーロンダリングに使われたとして、日本でも今年話題となった。こちらも言ってしまえば本編には何の関係もないのだが(しかも出てくるシーンは一瞬で終わる)、ネット民であれば「ディズニーにまさかのダーク・ネットが?!」とささやかにテンションを上げることが出来る名シーンだ。
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2.デジタル派 vs アナログ派
とはいえ、こういった「ネットあるある」を扱う映画は、近年かなりの数が作られている。最近話題になった映画「Search」などもいい例だろう。それでも私が『シュガー・ラッシュ:オンライン』を見て欲しいと思う理由は、2人の主人公・ヴァネロペとラルフのキャラクターにある。
<ヴァネロペ>
レースゲーム<シュガー・ラッシュ>の天才レーサーにしてプリンセス。小さくて可愛い外見からは想像できない超一級のレーステクニックを持つ。好奇心旺盛で新しいことやワクワクすることが大好き。コースもアクシデントもすべて予測出来てしまう<シュガー・ラッシュ>でのレースに物足りなさを感じている。
<ラルフ>
初期型アーケード・ゲーム<フィックス・イット・フェリックス>の悪役キャラクター。不器用だけど心優しい。見た目も性格も正反対のヴァネロペとは大親友で、ラルフがヴァネロペを大切に思う気持ちは誰にも負けない。
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前作『シュガー・ラッシュ』は、この正反対な2人の交流を軸にした作品だった。そして今回は、この2人が「どうインターネットをとらえるか」がテーマとして描かれている。つまり、インターネット的に言えば、ヴァネロペは生粋のデジタル派、ラルフは昔ながらのアナログ派のキャラクターとして描かれているのだ。
インターネットを愛する人ならば、一度は身の回りの人に「ネットよりも紙がいい」「ネットは危ないし、よくわからない」などと言われて、悔しい思いをしたことがあると思う(そうしてパソコンのアップデートや、ネット機器の導入が遅れていく…)。今回のヴァネロペとラルフは、まさにその「デジタル派 vs アナログ派」の状態と言える。
おそらく、インターネット好きの多くの人は、ヴァネロペに共感できるはずだ。私は中盤あたりから、ヴァネロペが何を言っても「うん、その通りだ」「そのまま頑張れ!」と心の中で頷いていた。逆にアナログ派の方は、ラルフに感情移入できるだろう。ヴァネロペの無謀さや身勝手さに呆れつつ、ラルフの優しさや不安に共感して楽しむことができるはずだ。
現実でもミゾが深いこの「デジタル派 vs アナログ派」問題に対して、『シュガーラッシュ:オンライン』はかなり現実的でオトナな答えを出している。むしろ、あまりにオトナすぎて、自分が子どもの時に観たら少々納得がいかなかった気すらする。もちろん、基本は2人の深い友情を描いたストーリーではあるものの、相反する「デジタル派」と「アナログ派」でもあるこの2人の結末を、ぜひ皆様にも見届けて欲しいと思う。
3.実在のIT企業が一挙大集合問題
最後になるが、これがほとんどこの記事における本題だ。予告編でもわかる通り、『シュガーラッシュ:オンライン』には、実在のオンラインサービスがギッチリと詰め込まれている。私の場合、むしろそれに惹かれて観に行ったと言っても過言ではない。
というわけで、ここまで読んでもまだ『シュガーラッシュ:オンライン』を観ようか迷っている方のために、(だから観ようという気になるかどうかはわからないが)私が見つけられた限りの『シュガーラッシュ:オンライン』に登場する実在サービスを、以下にリストで紹介したい。
ストーリー上で重要な役割を果たすサービス
eBay:ネットオークションサイト
Oh My Disney:ディズニー公式サイト
ストーリー上は重要ではないが、かなり大々的に出てくるサービス
Amazon:ECサイト
Google:検索サイト(※1)
Instagram:画像SNS
Pinterest:画像SNS
Twitter:SNS(※2)
YouTube(※3)
※1:Googleをモデルとした「ノウズモア」という検索サービスが登場するほか、巨大なビルも登場。なお検索サービス・ノウズモアの隣には、24時間フォトショップ(Google画像検索)とアプリストア(Google Play)も併設している。
※2:Twitterロゴが何度か登場する他、お馴染みツイッターバードも登場。
※3:YouTubeをモデルとした「BuzzTube」というサービスが登場するほか、会話内でも登場。
ロゴなどが登場する実在の日本のサービス
mixi:SNS (※4)
楽天:ECサイト(※5)
※4:eBayのビルの前にmixiの看板がある(確認した限りで2回登場)。私は見つけた時、思わず「ミクシィー!!」と叫びそうになるぐらい驚いたので、皆様もぜひ探して欲しい。
※5:インターネットの世界に飛び込んですぐの序盤に、楽天ロゴが登場している。比較的探しやすいはず。
ロゴなどが登場する実在の海外のサービス
Apple:ハードウェア(※6)
Blogger:ブログサービス
Carvana:中古車販売
Chrome:ブラウザ
Cisco:ネットワーク企業
Facebook:SNS
Fandango:映画チケットサービス
Gmail:メールサービス(※7)
Hulu:動画サービス
IMDb:映画情報サイト
Kickstarter:クラウドファンディング
McAfee:セキュリティサービス
movistar:携帯電話会社
Myspace:音楽SNS
National Geographic:科学系メディア
Netgear:ハードウェア
purple:Wifiサービス
Skype:通話サービス(※8)
Snapchat:動画SNS
Spotify:音楽サービス
TripAdvisor:旅行情報サイト
Truthfinder:個人情報検索サイト
WhatsApp:メッセージアプリ
Yahoo!:検索サービス他
天猫 / Tmall:中国ECサイト
微博 / Weibo:中国SNS (※9)
※6:Appleアイコンやブランド名は登場せず、明確な表記もないが、中盤でMac book Proと思われるパソコンが一瞬登場する。
※7:終盤、「Gmail専用カー」で大量にメールが運ばれているシーンがある。
※8:eBayビルの前に置かれている「電話ボックス」に、Skypeのアイコンが描かれている。
※9:大きなビルが作られている他、看板として「sina weibo」ロゴも登場する。
いかがだろうか。個人的には、懐かしのMyspaceを見つけた時がもっとも感無量だった。見つけられていないサービスもまだまだ多数あるはずなので、ぜひネット民の皆様には映画館に足を運んでもらいたい。きっと、ディズニーが贈るこの”イースター・エッグ探し”を楽しんでもらえるはずである。
(文:まいしろ)