『必ず捕まえる』老人VS連続殺人鬼の死闘から目が離せない「3つ」の見どころ!

第18回:『必ず捕まえる

Amazonプライム・ビデオやNetflixで配信中の作品の中からオススメの韓国映画を紹介する、この連載。

今回ご紹介するのは、Netflixで配信中の2017年製作の韓国映画『必ず捕まえる』です。

30年前に姿を消した連続殺人鬼が再び犯行を開始したことで、アパート大家の老人と元ベテラン刑事が犯人を追うという、緊迫感溢れるストーリーが展開する本作。

日本未公開の未ソフト化作品であるのに加えて、サムネイル画像やタイトルからも内容が掴みにくいのですが、気になるその内容と出来は、いったいどのようなものなのでしょうか?

ストーリー

アリ洞で複数のアパートを経営する、口が悪く家賃の催促が厳しいシム・ドクス(ペク・ユンシク)は、住人や町の人々に煙たがられる存在。ある朝、202号室の住人で元刑事のチェが首を吊った状態で発見され、前日に家賃の催促をしに訪問したドクスが自殺に追いやったのだと、住人たちは一斉にドクスを責めるのだった。
自身の身の潔白を証明するため、独自に調査を開始したドクスの前に、チェの同僚だった元ベテラン刑事のパク・ピョンダル(ソン・ドンイル)が現れる。30年前の未解決連続殺人事件の犯人が再びこの町で犯行を始め、チェもその犯人に殺されたとピョンダルから知らされたドクスは、二人で協力して独自に捜査を始める。一人暮らしの老人で殺害の練習をしてから、目当ての若い女性を殺す卑劣な犯人の犯行を、果たして二人は阻止できるのか?

見どころ1:韓国の厳しい現実が描かれる!

30年前の未解決連続殺人事件に酷似した手口で、次々に殺される一人暮らしの老人たち。

自分と心を通わせたアパートの住人が犠牲になったことから、周囲の住人から頑固で口の悪い老人として煙たがられていたアパートの大家が、危険の中に飛び込んで凶悪な犯人を追い詰めていく本作。

後述するサスペンスシーンへの配慮や、魅力的な登場人物の設定に加えて、バスタブに残されていた血が付いたままの歯や、冷蔵庫の中に置かれていた”ある物”といった残酷描写も、本作の大きな見どころとなっています。

中でも壮絶なのが、子供が偶然発見する孤独死した老人の姿!

演じた役者さんの苦労を考えずにはいられない遺体の描写は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、こうした老人の孤独死以外にも、映画の中には経済や住宅問題といったさまざまな韓国の社会状況が登場します。

例えば、元刑事で今はトラック運転手として働いている202号室のチェが、腰を痛めて働けないために家賃を滞納したり、支援団体から食事の提供を受けている様子や、母親の面倒を見なければいけないために家賃の支払いが毎月遅れてしまう205号室のジウンなど、年齢や仕事に関係なく貧困に陥る状況にあることが、観客に示されるのです。

特に、アパートを出ることをドクスに告げにきたジウンが言った「この町の住人は、人一倍頑張って生きてます。努力しても何も変わらないのが、現実なんです」というセリフは、個人の努力では抜け出せない貧困の深い闇を観客に実感させるもの。

アリ洞という寂れた町に突然起こった殺人事件を通じて、庶民の厳しい生活や社会状況を浮き彫りにするその内容を、ぜひご鑑賞頂ければと思います。

見どころ2:追跡シーンの演出に注目!

英語版タイトルの『The Chase』が示すとおり、スリリングな追跡シーンが次々に登場する本作。

とはいえ、本作の主人公ドクスは70代の老人。しかも朝起きて血糖値を測ったり、外出する際に玄関先に常備してある一口羊羹をポケットに入れて出かけるなど、低血糖症に気をつけている彼が、いったいどうやって容疑者や真犯人と追跡を繰り広げるのか?

実は、こうしたハードルを観客に納得させるための工夫が施されている点も、本作の見どころの一つなのです。

例えば、ドクスが追う相手が足にケガをしていて走れなかったり、急な坂が続く町中や雨で足元が泥沼のようになっている状況で追跡が繰り広げられるなど、全速力で走ったり激しいスタントに頼らなくても、十分サスペンスが盛り上がる演出が施されているのは見事!

確かに、激しいカーチェイスや狭い路地から屋根へと飛び移るパルクールアクションを見慣れた目には、本作の追跡シーンが逆に新鮮に映るのも事実なのです。

加えて、決して派手ではありませんが、主人公たちの年齢を考えれば十分に激しいアクションシーンが用意されているなど、登場人物の年齢を逆手に取ったその演出と工夫が、主人公たちの危機感を更に盛り上げる点も実に上手いのです。

30年間犯人を追い続けるピョンダルの執念や、親孝行なジウンを救おうとするドクスの想いに観客が感情移入できることで、派手な仕掛けやスタントに頼らなくても成立するスリリングな追跡シーンは必見です!

見どころ3:主人公と犯人の設定が見事!

朝鮮戦争の頃からアリ洞で暮らし、この地域の隅々まで知り尽くしているドクスと、30年前の連続殺人事件の忌まわしい記憶に苦しめられているピョンダル。この二人がコンビを組んで、再び殺人を開始した連続殺人鬼を追い詰めていく、この『必ず捕まえる』。

魅力的な登場人物が多い本作ですが、中でも印象的なのは主人公ドクスと犯人のキャラクター設定でしょう。

事件が発生した地域に複数の賃貸物件を所有していて、しかもカギ職人という主人公の設定は、殺人事件の捜査には非常に役立つものですが、とにかく金にうるさくて頑固な性格な上に言葉遣いも乱暴なドクス。

確かに、多くの観客に拒否反応を起こさせるような老人なのですが、この男の意外な内面が早い段階で明かされることで、ドクスに対する観客の印象も徐々に変わっていくことになります。

例えば、昼間家賃を催促に行ったチェの部屋を、その夜再び訪ねたドクスとチェが心を通わし、ドクスがチェにある頼みごとをする描写で彼の弱さを表現したり、カギが壊れていてチェの部屋のドアが閉まらないことに気付いたドクスが「ドアノブは明日の朝直してやるから」とチェに告げることで、犯人の侵入やドクスが第一発見者になる展開が不自然でなくなるのは見事!

更に、ドクスがチェの死に疑問を抱いて独自に調査を開始する展開にも、説得力が生まれることになるのです。

他にも、毎月家賃の支払いが遅れるジウンの部屋を夜に訪ねたドクスが、呼び鈴を押そうとしてドア越しに、彼女が中学のときからバイトで母親の面倒を見ていることを聞き、そのまま黙って立ち去る描写や、ジウンと二人で真犯人に追い詰められたドクスが彼女を励ますセリフには、粗暴な言動に隠されたこの男の真の姿が、見事に描かれています。

加えて、彼の普段の言動から一斉にドクスを犯人扱いする住民の描写によって、いかに普段の自分の言動が他人を傷つけていたか? を、ドクスが身をもって知ることになる点も、実に上手いのです。

この主人公と好対照なのが、本来の目的である黒髪の若い女性を襲う前に、一人暮らしで身寄りのない老人を練習代わりに殺害するという、犯人の異常性や残虐さでしょう。

30年経っても絶対に変わることのない犯人の異常性を強調する、その本性と外見とのギャップも実に効果的なのですが、犯人が30年前に犯行を止めた理由や、再び活動を開始するまでの期間に行ってきた残酷な行動は、鑑賞後に思い起こすと実にゾッとさせられるもの。

ここで詳しく書くことは避けますが、一見思いやりと優しさに満ちた犯人の行動の裏側に隠された狂気は必見!

普段の言動が災いして、周囲の人々から誤解されがちな善人と、善人の皮を被った悪魔のような真犯人との対決が、最後の最後まで観客を引きつけて離さない作品なので、全力でオススメします!

最後に

突然姿を消した連続殺人事件の犯人が、30年後に再び犯行を重ね始めたことで、アパート大家の老人と元ベテラン刑事がコンビを組んで事件の真相に迫ることになる、この『必ず捕まえる』。

犯人の設定や自宅の描写からは、『クリーピー 偽りの隣人』を連想する部分も多いのですが、猟奇的犯罪や犯人探しのミステリーに加え、韓国が抱えるさまざまな現実的問題が描かれていく本作。

特に、主人公を頑固で口の悪い老人に設定した点は素晴らしく、その言動から周囲の人々に守銭奴と誤解されているドクスが、自分が経営するアパートの住人のために危険を顧みない行動に出る展開に、大きな説得力を与えてくれています。

更に、ドクスの過去の行いが自身に疑いをかける原因になるという教訓に加えて、ピョンダルやドクスだけでなく、真犯人を含む登場人物たちの意外な側面が描かれることで、外見だけでは判断できない人間の二面性が明らかになる点も、本作が緊迫感溢れるサスペンス映画として成功した要因と言えるのです。

ただ、205号室に踏み込んだドクスとピョンダルが犯人に拉致されたジウンのことを警察に知らせず、自分たち二人で彼女を助け出そうとする展開に多少違和感を覚えたのも事実。

確かに、映画の中では「警察が動いたら犯人がその場で彼女を殺すから」という説明がされるのですが、ジウンが殺されるまでのタイムリミットが明確に提示されないためか、二人の捜査の様子が妙にのんびりしたものに感じられてしまうので、ここはもう少し観客を納得させる説明が必要だったのでは? そう思わずにはいられませんでした。

とはいえ、ただ一人彼の内面を理解してくれたジウンが犯人に拉致されたことで、彼女の救出のために命がけで事件を追うドクスの姿から目が離せない、この『必ず捕まえる』。

実は、ジウンの監禁方法からある程度犯人の正体が絞られてしまうのですが、その後に用意された観客の予想を覆す展開により、最後まで犯人の正体が分からなくなるのは見事!

過去の類似作品のように、昔犯人の犠牲になって生還した人物がトラウマから犯行を再現していたり、犯人の近親者が復讐のために再び犯罪に手を染めていた、そんなよくある展開にはならないので、ぜひご期待頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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