戦時中にダンケルクの映画を作る!映画人凱歌『人生はシネマティック!』

人生はシネマティック! ポスター

(C)BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

第2次世界大戦初期、フランス・ダンケルクからのイギリス軍撤退作戦を描いたクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が映画ファンの間で大きな話題を集めたばかりではありますが、戦時中、そのダンケルク撤退作戦にまつわる美談が映画化されていたとしたら?
このモチーフで作られたユニークな作品が日本で公開されます……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.270》

その名も『人生はシネマティック!』、戦時中の映画制作にまつわる裏話の数々を、ひとりの女性脚本家の目を通して見据えた、今年屈指の快作です!

国策映画の製作に振り回される
新人脚本家とその仲間たち

映画『ダンケルク』には、その撤退作戦に数多くの民間人が参加していたことが描かれていますが、その中に双子の姉妹がいたという感動秘話が、戦時中のイギリス国内で噂になっていました。

戦時中はどの国の映画界も戦意高揚させる国策映画を製作し、軍に協力するのが常です。

では、その双子の姉妹を主人公にしたプロパガンダ映画『ナンシー号の奇跡』を作ろうではないか!

やがてひとりの女性カトリン(ジェマ・アータートン)が、たまたま書いた広告コピーが情報省映画局特別顧問の目に留まり、この映画の脚本家としてスカウトされます。

映画制作のことなど何も知らない新人のカトリンは、双子の美談の意外な真相に驚いたり、政府や軍部の横やり、俳優陣のわがまま、さらには戦場の英雄(要するに役者としてはド素人!)を重要な役で起用するはめになるなど、日々翻弄されながらも、脚本部の先輩たちに叱咤激励され、脚本を何度も直し続けていきます。
(当時の英国映画界では撮影現場に脚本家が立ち合い、そのつど脚本の変更につきあうのが常だったようです)

とまあ、小説や絵画などと違い、さまざまな人々の思惑が交錯してはぶつかりあう映画制作にはトラブルがつきものではありますが、それでも何とか映画は完成に近づいていきます。

しかし、何せ空から爆弾が落ちてくるのも当たり前の戦時中ですから、いついかなる非常事態が勃発するかわかりません。

当然、カトリンにも人生最大の困難が……。

人生はシネマティック! メイン

(C)BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

“戦争と映画”というものに対する
女性ならではの意見具申

本作は、いわゆる戦意高揚映画を作る映画人たちの物語ではありますが、映画そのものは戦意高揚的な要素を巧みにすりぬけながら、困難な時代に映画を作り続けることの困難さと、それでも成し遂げようとするプロフェッショナルたちへのリスペクトに満ちた快作となっています。

戦時中、どの国も国民の士気を鼓舞するプロパガンダ映画を製作していますが、たとえば日本では「お国のために死ね」と言わんばかりに主人公らが名誉の戦死を遂げるといった作品が主流を占めていたのに対し(戦後、日本を占領したGHQは、こういった日本の当時の戦争映画などを見て、それらが戦意高揚に繫がることがにわかに理解できなかったとも聞きます)、アメリカ映画は大国のゆとりの姿勢をもって、日本やドイツなどへの敵愾心をあおり続けました。

そして日々の空襲におびえるイギリスでは、むしろ国民に明日の希望と誇りを与えるものが多く作られる傾向があり、やがてはそれが戦後のイギリス映画のヒューマニズムの基幹にも繋がっていった感があります。

人生はシネマティック! サブ2

(C)BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

その意味でも本作の中身を通して、当時のイギリス映画人たちが何を考え、映画制作を敢行し続けていったのかが実によくわかるとともに、改めて戦争の惨禍というものに対する忸怩たる訴えまでもが見る者に伝わってきます。

今、世界的にきな臭いご時世の中、本当に必要なのは、こういった作品なのかもしれません

本作の監督は『幸せになるためのイタリア語講座』(00)『17歳の肖像』(09)などで知られるロネ・シェルフィグ。彼女の女性に対する繊細な目線は本作のヒロインにも巧みに踏襲されており、戦時中の女性が映画界という男所帯の中でどう真摯に立ち回っていったかを見事に描出しています。

また当時のイギリスではメインの映画観客は女性だったとのことで、そういった背景もあって本作に登場する女性たちの描出には大いに着目するものがあります。

ヒロインを演じた『007/慰めの報酬』(08)や『アンコール!』(12)『ボヴァリー夫人とパン屋』(14)などのジェマ・アータートンの存在感も、本作の気品と貫録に拍車をかけています。

また個人的には、今は落ち目のわがままな(でも根は良い奴だったりする)元大スターを演じたビル・ナイも印象に残りました。

映画好きに見てもらいたい作品は多々ありますが、これは映画作りに従じる人々の凱歌として、特にお勧めしたいのと同時に、このように苛酷な苦労を強いらされる戦争というものに対する意見具申としても大いに着目すべきものがあるでしょう。

私は映画『ダンケルク』は3回しか見ることができませんでしたが、『人生はシネマティック!』はその倍くらい見ないといけないなと自省しているところです。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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