「現場がヤバすぎて仕事を辞めたいです」映画で答える人生相談

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読者の皆様から寄せられたお悩みにアンサーしつつ、相談内容に沿って一本の映画を処方する当コラム。映画以外はすべてがでっち上げ、お悩みなんて完全なる嘘八百、出たとこ勝負の見切り発車は打ち切りルートを回避しながらまさかの4駅目に到達。今回のお悩みはこちら。

現場がヤバすぎて仕事を辞めたいです

今回のお悩み

こんにちは。

私は映像関係の仕事をしているのですが、現場でのストレスに悩んでいます。今の現場は

「え? 本当にこんな理不尽な人が存在するの? 人の形を保っている何かじゃないの?」

と感じてしまう人ばかりで、日々ストレスを感じています。

そのせいか、昨日なんて家でカレーを食べようとして用意をしてたんですけど、ご飯を盛った上にご飯を盛ってしまい、なぜか悲しくなって涙が止まりませんでした。

最近ではこの仕事に向いていないのではないかと思い、転職も考えています。
こんな状態で現場に出続けるのはもう無理だとも思います。いっそのこと、辞めたほうがよいのでしょうか?

(東京都:23歳女性 映像関係)

現場がヤバすぎて仕事を辞めたいあなたに処方する映画は

ご相談ありがとうございます。

まず、カレーを食べようとして皿にご飯を盛り、その上にルーではなくご飯を盛ってしまうあなたの精神状態は、現場のヤバさよりヤバいと思われますので、心療内科や精神科に行くことを強くおすすめします。突然涙が流れるというのは、完全にNGサインです。

さて、あなたは23歳ということですので、現場でもまだまだ下っ端ですよね。私も個人事業主ですので、文句を言えない立場で理不尽を要求されることの大変さ、よくわかります。

もちろん、そこまで心が追い詰められている場合は当該現場から逃走・退職をしたほうがよいでしょう。ですが世の中は不思議なもので、ヤバい現場の方が、よいものができたときの達成感が強い場合が多く、その「クソみたいな現場だったけど、終わってみれば最高だった」という反転は、強烈な幸福感をもたらします。

もっとも、ヤバい現場でヤバいものができた場合のヤバさは、もう本当にマジでヤバく、あまりのヤバさに語彙力も知能指数も低下してしまい、端的に言って、今書いているバカみたいな文章しか生成できない状態に陥ってしまいます。これはヤバい。

そんなヤバい現場に悩むあなたに処方したい一作が、平成最後の夏に爆誕した傑作『カメラを止めるな!』です。

(C)ENBUゼミナール  

『カメラを止めるな!』

注:ここからは『カメラを止めるな!』のネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

現在、あと一歩で社会現象かというところまで来ている『カメラを止めるな!』ですが、ご覧になった方であれば「ヤバい現場の話」であることはおわかりでしょう。

ここで「お前、『カメラを止めるな!』について書きたいだけじゃねぇか」と、どこからか聞こえてきそうですが、ご指摘まさにそのとおりでございます。

映画の話はもとより、最近では現実世界でのちょっとしたゴタゴタも起き、これもなかなかヤバいなと思うばかりですが、あれこれ突っ込んだり邪推するのは野暮天です。ヤバい状況に自ら首を突っ込んでいくのはヤバい人のやることです。解決は当事者にお任せし、映画の話をしていきましょう。

斬っては捨てられない「ゾンビパート」

(C)ENBUゼミナール  

本作を考えるうえで、ワンカットシーンを斬って捨てることはできません。前半部がやや冗長で違和感があり、後半でそれらをすべて払拭していく。つまり「裏ではこうなっていました」という、巷間言われているような三谷幸喜しかり、スティーブン・ソダーバーグしかりなネタばらしの爽快感が本作のキモですが、実は本作、単なるゾンビ映画としてもまさに「質はそこそこ」のクオリティをキープしています。

ワンカットながらも設定や展開は古今東西のゾンビマナーに則り、飛び道具は極力削り「ゾンビを知らない人でも想像できるゾンビ映画らしさ」を出すことに成功しています。まずここが凄い。

閉鎖空間のなかで状況に放り込まれ、建物の構造を上手に利用して話を展開させる。そしてゾンビではなく、結局は人がいちばん恐ろしいというお約束も、37分間でしっかりと見せていきます。なかでも女優(松本逢花/秋山ゆずき)の尻を追いかけるシーンは素晴らしく、誰も想起しないと思いますが、個人的には『カジノ・ゾンビ(2011年)』のエヴァレナ・マリーを想起させるにじゅうぶんなサービスショットで、よい意味でのB級さを感じます。

その「質はそこそこ」感がさらに現場のヤバさを感じさせ、「ここはどうするんだ」「今ちょっとアレだろう」と、本作をご覧になったあなたは気が気でないはずです。もしかしたら「私ならこうする」「なぜこうしないんだ」と突っ込みはじめているかもしれませんが、それは健康になってきた証拠ですし、物語の仕掛けにうまくハマっている証左です。

「現場あるある」と、モノづくりへの愛

さて、あなたは映像関係のお仕事だそうですが、まさに『カメラを止めるな!』の中後半部分は映像制作者たちの「現場あるある」を描いた物語であるとも言えます。

「ワンカットゾンビ映画」という、誰がどう考えても無謀な地雷案件を引き受けた監督(日暮隆之/濱津隆之)のもとに集まった役者や制作陣、プロデュース側も含めて、全員が業界をカリカチュアライズしたような強烈なキャラクターで、あなたもきっと「あ、こういう人いるわ/現場あるわ」と膝を打つことでしょう。

その「ヤバい現場」は、巧みな脚本と、素晴らしい間のとり方で大いに笑うことができますが、近しい体験をしたことがある方にとっては、大笑いというより苦笑いをしてしまうのもまた事実。しかし、ヤバかった現場を思い出して心の傷をえぐられることはありませんので安心してください。本作は徹頭徹尾、極上のテンポと愛に溢れたコメディです。

多くの方が指摘しているように、本作は「モノづくりへの愛」がたくさん詰まっています。その裏にはもちろん、劇中・現実問わず現場のヤバさが見え隠れしています。あなたの現場とは「ヤバさのベクトルが違う」と思われるかも知れませんが、通常、「この作品を失敗させてやろう」「むちゃくちゃにしてやろう」といった心持ちで仕事に挑んでいる人はいません。

誰しも少しくらいは「いいものを作ろう」と、仕事をしているのです。それが空回りしてしまったり、つい我が出てしまったりして、現場で齟齬が発生するわけですが、この「言ってる/やってる当人には悪気がなく、それでいいものが作れると思っている」ことがヤバさを加速させます。

あなたの周りの理不尽な人も、多くの場合「悪気なくやってる」「正しいと思った行為をしている」はずです。この「悪気がない」はかなり質が悪く、そう考えると、悪気がないバカに対して斧を振り下ろすことを止められない気持ちはわからなくもないですが、深呼吸をして「ああ、質の悪いバカなんだな」と思えば、いくらか気が楽になるのではないでしょうか。

バカの話はこのくらいにして、『カメラを止めるな!』は映画の完成に向かって、タイトルどおり「カメラを止めずに」ひた走ります。その疾走のなかには、モノづくりの大変さ、面白さ、楽しさ、辛さ、苦々しさ、驚き、楽しさ、痛さ、哀しさ、以下100項目ほどがすべて含まれ、喜劇という塊になり、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》(1981年)』で転がる大岩のごとく、あなたの心に向かって迫りくることでしょう。そして鑑賞後、あなたの心は見事に浄化され、何なら「最高の現場じゃねぇか!」と一人で打ち上げをはじめているはずです。

さてさて、本作に対しては、たくさんの感想が溢れていますが、私が聞いたなかで、最も美しかった感想は

「私、この映画2ヶ月前に観てたらAD辞めなかったなあ」

です。

又聞きなので真偽のほどはわかりませんが、そんなことはどうだっていい。この感想が、この映画のすべてでしょう。誰かと何かを作ることは楽しい。途中で嫌なことがあったりケンカをしたりしても、終わりよければすべてよしです。

上田慎一郎監督をはじめとした制作陣が、みんなで創り上げた、平成最後の夏に登場した傑作は、あなたの悩みやストレスを、必ずしや治癒してくれることでしょう。映画と同じく、人生もワンカットです。生きることは止められません。どうせなら面白いものにたくさん触れて、楽しく笑いながら生きた方が得ですよね。頑張ってください。

(文:加藤広大)

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