『アンダー・ザ・シルバーレイク』ヤバすぎる「3つ」の魅力はこれだ!



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10月13日より映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』が公開されています。本作はいろいろな意味でとんでもない映画であり、観ている間じゅう「なんなんだこの映画は!」と混乱し、鑑賞後も「いったい何を観ていたんだ…?」と呆然となることは必至の、“普通の映画に飽き飽きしている”という人にオススメできる内容になっていました。その魅力をネタバレのない範囲で、以下にお伝えします。

1:ジャンルすら不明瞭?
良い意味でわけのわからないカルト映画だった!


本作『アンダー・ザ・シルバーレイク』がいかなる作品か……身も蓋もない言い方をすれば、“わけのわからないカルト映画(少数から熱狂的な支持を得る映画)”であると表現できます。

“失踪した美女を探す”というわかりやすいプロットはあるものの、劇中には“犬殺しの噂”や“大富豪の失踪事件”や“呪われた街について書かれた同人誌”や“奇妙な記号”などの“意味ありげな何か”がそこらじゅうに散りばめられており、常に不穏な空気が漂っています。良い意味で気味が悪く、ほとんど“悪夢”に招待されたかのような感覚を得られることでしょう。

監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルの画づくりには独特の魅力があり、“暗がり”が美しく見える一方でどこか不気味でもあることや、“プール”というモチーフも印象的に使われているなど、一貫した特徴があります。今回はR15+指定も大納得の突発的なバイオレンス描写、本気で恐怖を覚えるホラー描写、良い意味でギョッとしてしまうエロティックな描写もあり、良い意味で頭がクラクラしてしまいそうな刺激的な作風にもなっていました。

ミッチェル監督の長編デビュー作である『アメリカン・スリープオーバー』は青春映画で、全米で大ヒットを飛ばした2作目『イット・フォローズ』はホラー映画と、一応のジャンル分けは明確ではあったのですが、今回の『アンダー・ザ・シルバーレイク』は“ジャンルすら不明瞭”とさえ言えます。 何しろ(詳しくは次の項で書きますが)“ダメ人間の日常”や“謎解きをしていくミステリー要素”や“ゲームや映画などのポップカルチャーへの愛憎”といった要素までもがあるのですから。

2時間20分という上映時間をたっぷりと使って、悪夢のような世界に迷い込み、様々なジャンルや要素が“ごった煮”になっているかのような印象……これこそが『アンダー・ザ・シルバーレイク』の最大の魅力であると言い切って良いでしょう。お世辞にも万人向けとは言えませんが、一定以上のエンターテインメント性も十分に備わっている、ハマる人にハマりまくるであろう、まさにカルト的な魅力を放っている作品なのです。

なお、『イット・フォローズ』に続いて撮影監督を務めたマイケル・ジオラキスは、本作の映像について「主人公の感情を取り入れた、エネルギーに満ちた悪夢のような映像を目指しながらも、映画の巨匠へのオマージュを加えた」と語っており、本編には『第三の男』、『愛よりもはやく撃て』、『三つ数えろ』、『アフター・アワーズ』、『タクシードライバー』などの映画からの引用があるのだとか。映画に詳しい方であると、さらに奥深く楽しめる一本とも言えるでしょう。



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2:夢を叶えられなかったダメダメなオタクが主人公!
「ゼルダの伝説」が示しているものとは?


本作の主人公の男性は、はっきり言ってダメ人間です。いい年をして仕事もなく家賃も滞納している一方でセックスをしまくり、適当に車を乗り回しては駐禁も取られたりもしていて、事態を好転させるための努力もしていなさそうで、とにかくブラブラとばかりしているのですから。

重要なのは、彼が暮らしているシルバーレイクが実在の地名(貯水池および周辺の住宅地)であり、それがロサンゼルスの東北部、映画産業の中心地であるハリウッドの東側にあるということ。つまりシルバーレイクとはエンターテインメント業界で“夢を叶えられるかもしれない者”たちが集う場所でもあり、その場所でくすぶり続けている主人公は“夢を叶えられなかった負け組”でもあるのです。

その主人公は映画やゲームに詳しい“オタク”でもあります。彼は街に散りばめられたポップカルチャーにとあるメッセージや暗号が仕込まれていることに気づき、時にはそのオタク知識が功を制して“謎解き”にも成功し、とある真相に近づいていきます。なんと、劇中には誰もが知るゲーム「スーパーマリオブラザーズ」や「ゼルダの伝説」も登場したりもするのです。しかも、その謎解き要素そのものが「ゼルダの伝説」を彷彿とさせるところもありました。



“オタク知識を活用して攻略していく”というのは映画『ピクセル』や『レディ・プレイヤー1』のようでもありますが、本作は決してストレートな成長物語にはなっていきません。様々なポップカルチャーに散りばめられた“謎”に取り憑かれたかのような主人公の姿はどこか狂気的でもあり、時には取り返しのつかなさそうな暴走もしでかすのですから。

本作はポップカルチャーへの愛が込められている一方で、それに対し盲信的になりすぎたために進むべき道を誤ったり、夢に破れてしまうことも現実にはよくある……という普遍的な“好きなことを仕事にすることの難しさ”を、このダメダメかつ狂気的な主人公の姿を通して、寓話的に描いている内容とも言えるのかもしれません。同時に、主人公が自身の無力さを痛感しつつも“生きる意味”を模索する姿は哀れでもあり、人生に迷っているという人にとっては感情移入がしやすい人物にもなり得るでしょう。

なお、全編に響く音楽には独特の“レトロ”な雰囲気があり、作曲者は尺八や蒸気オルガン向けに作曲された楽曲の他、なんと「ゼルダの伝説」のサントラも参考にしていたのだとか。これだけでゲーム好きにはたまらないでしょうし、音楽こそが本作にさらなる唯一無二の魅力を加えているのは言うまでもないでしょう。



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3:“悪夢版『ラ・ラ・ランド』”と呼ばれる理由とは?
『マルホランド・ドライブ』との類似点も要チェック!


本作は“悪夢版『ラ・ラ・ランド』”であるとも揶揄されています。『ラ・ラ・ランド』と『アンダー・ザ・シルバーレイク』は両作品とも“ハリウッドという表向きは華やかな場所で夢を叶えようとしている(していた)”という共通点はあるものの、前者はきらびやかなミュージカルに彩られ、後者は悪夢的な雰囲気で覆われているという、まさに正反対の作風になっているのですから。



 Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.



しかも、両作品とも“グリフィス天文台”が重要なシーンで出てくる他、『アンダー・ザ・シルバーレイク』でキーパーソンの美女を演じたキャリー・ヘルナンデスは『ラ・ラ・ランド』では主演のエマ・ストーンのルームメイトに扮していました。両作品を見比べると、“光と影”や“栄光と没落”となどといった、“表裏一体かつ真逆”の要素を感じ取れることでしょう。

さらに、『アンダー・ザ・シルバーレイク』に似ている映画には『マルホランド・ドライブ』があります。こちらは(もちろん語弊はありますが)“わけのわからないカルト映画”の代表格と言える問題作にして名作で、“記憶喪失の美女と生活を共にする”というわかりやすいプロットはあるものの、それ以外は本気でさっぱり意味がわからない、終盤はもはや悪夢そのもの(?)という、とんでもないという言葉では足りないほどの内容になっていました。




事実、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督はロサンゼルスを舞台にした様々なフィルム・ノワール(退廃的または悲観的な指向がある犯罪映画)への愛情が『アンダー・ザ・シルバーレイク』の本編に込められているとも語っており、その中には『欲望』や『ボディ・ダブル』や『キッスで殺せ!』の他、『マルホランド・ドライブ』もあったのだそうです。(他にも『裏窓』や『めまい』といったアルフレッド・ヒッチコック監督作への愛情も反映されているのだとか)

“わけのわからないカルト映画”とだけ聞くとつまらなそうに思われるかもしれませんが、手の込んだ演出や話運び、「こういうことではあるのだろう」と観客に“謎を解かせる”要素を残しておくと、ここまで観客を惹きつけるのだと、『マルホランド・ドライブ』および『アンダー・ザ・シルバーレイク』を観た方は驚けることでしょう。両作品とも、我こそは映画が好きだという方や、“一筋縄ではいかない作品”に挑戦したいという方にこそ、観ていただきたいです。

(文:ヒナタカ)

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