『アップグレード』SFアクションの枠を超えた「3つ」の見どころ!意外な映画へのオマージュも?

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人気ホラー映画『ソウ』シリーズの脚本や俳優としての出演を経て、『インシディアス 序章』で監督デビューを果たした、リー・ワネル。

彼の監督・脚本によるSFアクション映画『アップグレード』が、ついに10月11日から日本でも劇場公開される。

突然ある事件に巻き込まれ、妻を殺され自身も全身麻痺となった主人公が、AIチップを体内に埋め込むことで得た超人的な能力により復活!

独自に事件の真相と犯人を追うというストーリーからは、どうしても過去の類似作品を連想してしまうのだが、果たしてその内容と出来は、どのようなものだったのか?

ストーリー

近未来。グレイ・トレイス(ローガン・マーシャル=グリーン)は妻のアシャ(メラニー・バレイヨ)と仲睦まじい日々を送っていた。しかしある日、謎の組織に襲われ、最愛の妻を失い、自身も全身麻痺の重症を負ってしまう。失意の中、巨大企業の科学者からある提案をされる。彼の目的は、実験段階にある「STEM」と呼ばれる最新のAIチップを人体に埋めることだった。手術の結果、グレイは再び体を動かすことができるようになる。そればかりか、「STEM」に身をゆだねると人間離れした動きができるようになり、人間を超越した身体能力を手に入れてしまう。さらに、「STEM」は頭の中の相棒としてグレイと対話するようになる。身体能力を<アップグレード>されたグレイは手に入れたこの力を駆使して「STEM」と共に妻を殺害した組織に復讐を誓うのだが――。

予告編

見どころ1:単なるSFアクションに終わらないストーリー!

冒頭でも触れた通り、『ソウ』や『インシディアス』などの人気ホラー映画シリーズを生み出してきたリー・ワネルが、新たに送り出す映画だけに、魅力的なキャラクターや観客の予想を覆す意外な展開など、まるで海外テレビシリーズの1stシーズンを1本に凝縮したような内容に仕上がっている本作。

移植された相手の身体機能を補って、飛躍的に回復させる最新鋭のAIチップ「STEM」だが、移植された人間による許可が無ければ、勝手に単独での判断や行動は出来ないようにプログラミングされている。

こうした制約の中、主人公であるグレイの身に生命の危険が迫ったことで、「STEM」が単独で動く許可を与えられ、文字通り超人的な活躍を見せる展開は『ロボコップ』、更に「STEM」がグレイと脳内で会話する点は『ナイトライダー』を思い起こさせるなど、後述する様々な過去作からの影響や引用が見受けられる点も、ファンにとって楽しみの一つとなっている。

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身体機能を失った男が、最新のAIチップにより超人的な能力を得るという本作の設定は、一見するとアメコミ映画のヒーローを連想させるもの。

実際、映画の中盤までは「STEM」とグレイが互いに反目しながら、事件の犯人を追う一種の”バディもの”としても楽しめる本作。

だが、終盤からラストまではこの両者の関係を含めて、観客の予想を裏切る展開が容易されているなど、実によく脚本が練られているのだ。

そう、本作が単なるSFアクションに終わらない理由の一つは、このAIチップ「STEM」と主人公グレイとの関係性の描き方にあると言える。

ただ、100分という最近では短めの上映時間の中に、あまりに多くの要素を盛り込んだためか、全ての謎が明らかにされる終盤の展開が若干駆け足で進んでしまうことで、理解しにくくなってしまった点は否定できない。

とはいえAIテクノロジーが進み、自動で走行する車が普及している世界において、ガソリンで走らせる昔ながらの旧車のレストアと修理を仕事にしているグレイの設定が、彼の性格や行動への説得力を増し、同時に最新テクノロジーの象徴である「STEM」との対比を見事に表現しているのも事実。

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こうして、全身麻痺で身動き一つ出来ないという強力なアリバイを利用して、妻の命を奪った犯人への復讐を開始していく、グレイ。

犯人の一味を一人ずつ倒しながら、次第に事件の核心へと迫っていく中で、彼を執拗に疑う刑事や、周囲の人間に隠している「STEM」の存在が、果たしてバレるかバレないか? のサスペンスも、重要な見どころの一つとなっている。

後述する悪役との死闘の果てに待っている意外な結末は、是非劇場で!

見どころ2:意外な悪役設定が新しい!

体内に埋め込まれた最新のAIチップ「STEM」のおかげで、全身麻痺の車椅子状態から再び身体機能を取り戻し、人間離れした身体能力やスピードを身につけた、主人公のグレイ。

全身麻痺となった体が実は動くことを周囲に隠しながら、彼は自分と妻を襲った犯人たちを突き止めようと、独自の捜査を行っていくのだが…。

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絶望のどん底に落とされたグレイが、「STEM」によってもたらされた超人的な能力と情報処理能力によって事件の黒幕に迫っていくストーリーは、一見よくある設定に思えるかも知れない。

だが、本作は単なるSFアクションに終わることなく、そこから観客を予想外の展開や、個人にとっての幸福とは何か? といった、深い余韻を残す結末へと導くことになるのだ。

こうした意表を突く展開と並んで印象的だったのが、実は本作で主人公を苦しめる悪役フィスクのキャラクター設定だった。

どうしても過去の類似作品から受ける印象から、やはり主人公を最後まで苦しめる悪役や敵のボスともなれば、それなりの不気味さや凶暴さ、あるいは巨体や筋肉を備えた強そうな男という、勝手なイメージや先入観があったのも事実。

ところが、本作でグレイを最後まで苦しめる悪役フィスクは、痩せた小男で鼻の下にヒゲという、外見的には全く強そうには見えない男なのだ。

単に外見的なイメージだけだと、主人公が普通に勝てそうな気がするこの小男。だが、実はこのフィスクが予想外に強敵で、意外な悪役ぶりを披露することになるのが上手い!

相手を舐めきった薄ら笑いを浮かべているこのフィスクだが、物語が進むにつれて、この相手をバカにした態度が、その意外な強さや隠された自分の能力に対する自信からきていることが、観客に分かってくることになるのだ。

見るからに強そうな悪役を登場させることで、先の展開が観客に読めてしまうという危険を避け、しかも観客に強烈な印象を残すことに成功した本作の悪役像は、必見です!

見どころ3:実は意外な映画へのオマージュが隠れている?

リー・ワネル監督本人のインタビューによれば、本作の脚本執筆に関しては、映画『ターミネーター』から大きな影響を受けているそうだが、実はこれ以外にも、本作には様々な過去作からの影響や引用が含まれている。

中でも意外だったのが、往年の香港アクションスター、ジミー・ウォング主演の伝説的カルト映画『片腕ドラゴン』へのオマージュが登場する点だった。

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具体的に例を挙げると、「STEM」のお蔭で超人的な能力を身につけた主人公が、敵との戦闘の中で床に倒された状態から一瞬で起き上がるシーンがそれだ。

もちろんこの描写以外にも、主人公が格闘でキックをほぼ使わない点なども、ジミー・ウォングの独特な戦い方を連想させるものがある。

このように書くと、単に無理やりこじつけているように聞こえるが、実は同じ香港カンフー映画の名作、ブルース・リーの『ドラゴンへの道』の、あるシーンも再現されている! と言ったら、驚かれるだろうか?

この部分、実はマニアが観れば一発で分かるように撮られているのだが、相手が黒人である点や、主人公が見せる指の組み方など、完全に『ドラゴンへの道』のオマージュとなっているのは間違いない。

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この点を踏まえて考えれば、一見SFアクションとは関係ない、ともすれば一種のギャグとして受け取られかねない『片腕ドラゴン』へのオマージュが登場する理由も、きっと納得して頂けると思う。

一例としてここに紹介した作品以外にも、実は様々な過去作品のオマージュや引用が登場する、この『アップグレード』。

時間と余裕がある方は、是非『ドラゴンへの道』でのレストラン裏の黒人ボクサーとの対決シーンをチェックして頂ければと思う。

最後に

その二転三転するストーリーや意外すぎる結末、更に魅力的な犯人のキャラクターが素晴らしかった『ソウ』シリーズを始め、数々の作品に優れた脚本を提供してきたリー・ワネルの監督・脚本作品だけに、今回もかなりの期待を持って鑑賞に臨んだ本作。

正直最初は、よくある設定のSFアクションと思って観ていたのだが、次第にその先入観や印象は覆されていくことになった。

何故ならAIテクノロジーの発達がもたらす危険性や、人類が支配される可能性を描くと同時に、全身麻痺で人生を絶たれた男を復活させるというテクノロジーの利点が描かれていたり、最新のAIチップ「STEM」とのバディものに思えた内容が、映画の終盤に向けて次第にその本質を明らかにしていく展開など、脚本の内容が実に見事だったからだ。

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本来は人間の生活を便利にするために発達したテクノロジーが、次第に制御できなくなり暴走するという恐怖に加え、実は人間の方がテクノロジーに支配される日が来るのでは? という警告は、実は過去の類似作品においても繰り返し描かれてきたもの。

こうした普遍的なテーマを、二転三転する独創的なストーリーと過去のSFやアクション映画のオマージュを交えて描いた、今回のリー・ワネルの脚本・演出は、過去の類似作品を見慣れた観客にも充分楽しめるものとなっている。

まだ公開前なので詳しく書くことは避けるが、映画ファンの方ならきっと『未来世紀ブラジル』を思い出すはずの展開を含め、前述した過去の名作からの影響や引用を探すのも楽しみの一つとなっている、この『アップグレード』。

『アップグレード』というタイトルの持つ意味が、人間側とAI側とで全く別の意味を持つことになる結末が、観客に深い余韻を残す作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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