映画コラム

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2020年10月05日

『ベテラン』は『ポリス・ストーリー』へのオマージュ満載!意外なゲストも登場する「3つ」の見どころ

『ベテラン』は『ポリス・ストーリー』へのオマージュ満載!意外なゲストも登場する「3つ」の見どころ




第29回:『ベテラン

今回ご紹介するのは、Amazonプライム・ビデオの見放題タイトルで配信中の、2015年日本公開の韓国映画『ベテラン』です。

ファン・ジョンミン演じる熱血刑事が巨大財閥の悪事を暴くストーリーや、現実の社会問題や政治への不満を解消してくれる内容、更に韓国映画でも屈指の名悪役の登場や名バイプレイヤーの大挙出演など、今観返しても見どころ満載の本作。

公開当時、韓国で大ヒットを記録した、その内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


ソウル警察庁の広域捜査隊に所属するソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は、悪党は容赦なく叩きのめすが人情に厚いベテランの熱血刑事。突然の解雇と賃金不払いに対する抗議のために、知り合いのトラック運転手がシンジン物産の本社ビルを訪れた直後、意識不明の重体に陥ったことを知ったドチョルは、事件の状況に不審を抱き真相の究明に乗り出す。
事件の黒幕である巨大財閥シンジン・グループの御曹司、チョ・テオ(ユ・アイン)の卑劣な捜査妨害にも負けず、ドチョルはこの巨大な悪との闘いに身を投じていくのだが…。


見どころ1:実はあの名作アクション映画の影響が!



自ら出演するだけでなく武術指導も兼任するなど、過去の監督作でもアクションへの強いこだわりを見せてくれたリュ・スンワン監督だけに、本作に登場するアクションシーンは、どれも迫力とアイディアに満ちたものばかり。

例えば、冒頭に登場する自動車窃盗団とのアクションでも明らかなように、身近にある道具や家具を武器にしたり、アクションの中に笑いを盛り込むなど、実はジャッキー・チェンの名作アクション映画『ポリス・ストーリー/香港国際警察』へのオマージュが全編に盛り込まれている点は、本作の隠れた見どころとなっています。




実際、リュ・スンワン監督にとってジャッキー・チェンは子供の頃からの憧れの存在であり、本作の終盤に登場する、道路脇に並ぶ屋台を跳ね飛ばしながら爆走する車や、頭からガラスを突き破ってくる俳優をガラス越しに撮った有名なシーンの再現には、ファンの方なら思わず反応してしまうはず!

残念ながら日本では未公開でDVDスルーとなった、2008年の監督作『史上最強スパイ Mr.タチマワリ ~爆笑世界珍道中~』でも、何故か香港映画『ブレード/刀』のパロディを登場させたリュ・スンワン監督だけに、主演のファン・ジョンミンが身軽に飛び回って危険なスタントを見事にこなすなど、香港アクション映画のようにスピーディな見せ場の連続で楽しませてくれるのです。

ちなみにファン・ジョンミンは、2013年の作品『フィスト・オブ・レジェンド』で総合格闘技のファイターを演じているだけに、ラストで繰り広げられるユ・アインとの路上対決シーンは迫力満点!




更に、悪役のテオが総合格闘技のスパーリングで、相手の足を折るシーンが映画の中盤にちゃんと用意されていることで、観客が自然とドチョルに声援を送りたくなる演出も、実に上手いのです。

実は『ポリス・ストーリー』に多大な影響を受けたり、オマージュを捧げた海外作品はこれだけではなく、シルベスター・スタローン主演の1990年日本公開作『デッドフォール』などは、道路のど真ん中に立った主人公が走ってくる車に銃を向け、急停車した車のフロントガラスを突き破って人が落ちてくる! という名シーンをそのまま再現している上に、共演のカート・ラッセルの服装やキャラクターも、『ポリス・ストーリー』のジャッキーを思わせるものとなっています。

加えて、ファン・ジョンミンとオ・ダルスの傷の自慢合戦や、終盤に登場する白バイでの追跡シーンなど、メル・ギブソンの『リーサル・ウェポン』シリーズへのオマージュも盛り込まれている本作。

リュ・スンワン監督のアクション映画への想いに満ちた素晴らしいアクションシーンの数々を、ぜひご堪能頂ければと思います。

見どころ2:『#生きている』のユ・アインが演じる名悪役!



韓国映画に登場するさまざまな悪役の中でも、間違いなく上位にランキングされる凶暴で狡猾な悪役チョ・テオ。

とにかくプライベートで絶対に関わりたくないタイプの男として、韓国映画ファンに強い印象を残す名悪役なのですが、先日この連載でもご紹介した『#生きている』で主人公を演じたユ・アインが、初の悪役に挑戦して見事に演じきってみせた点も、本作が成功した大きな要因と言えるでしょう。




自ら人を殺したり暴力を振るうという、過去に見慣れた分かりやすい悪役ではなく、相手が自分に歯向かえないことを知っていて、相手のプライドや人間としての尊厳までも踏みにじる、この男の残酷さは、不当解雇に対する抗議のためにオフィスを訪れたトラック運転手父子への仕打ちにも、よく表れています。

テオ自身が暴力を振るうことなく、相手が父親として一番精神的にダメージを受ける方法を選択するという、まさに悪魔のようなこの男の行動は、ぜひご自分の目で目撃して頂きたいのですが、要求された未払い賃金の額の低さに逆ギレする! というテオの態度には、財閥という特権階級の思い上がりや、他人の痛みや哀しみに対する共感性を持たないサイコパスとしての一面が描かれていて、実に見事!

こうしたテオの悪行が徹底して描かれることで彼への憎しみが高まり、ラストでこの男がどういう報いを受けるのか? 観客の期待がより増大する点も上手いのです。

実は当初、この悪役は『シークレット・ミッション』や「サイコだけど大丈夫」のキム・スヒョンにオファーされたのですが、残念ながらスケジュールの都合で実現しなかったとのこと。

ちょうどドラマや主演映画への出演が重なっていた時期でもあり、『ベテラン』が製作された2015年には、ドラマ「プロデューサー」でペク・スンチャン役を演じているキム・スヒョンだけに、「プロデューサー」とは真逆のキレた悪役演技も見てみたかった! そう思われるファンの方も、きっと多いのではないでしょうか。

巨大財閥の御曹司という特権階級に守られて、警察の手が届かない存在だったテオに対して、ドチョルが彼を直接叩きのめすのではなく、その悪事を一般市民が目撃して拡散することで社会的に制裁を加えるという展開は、文字通り"倍返し"のカタルシスを観客に与えてくれるもの。

加えて、この映画が製作された頃に起きた、実際の財閥関係者による理不尽なパワハラ事件に対して、多くの国民が感じていた怒りや不満を見事に解消してくれる内容も、本作が韓国で記録的な大ヒットを記録した理由と言えるのです。

『ワンドゥギ』での高校生役や『カンチョリ』で演じた親思いの息子というイメージが強かった頃に、いきなり振り切った悪役に挑んだユ・アインのキレた演技は、必見です!

見どころ3:韓国映画の名バイプレイヤーが大集合!



前述したように、ユ・アイン演じる最凶の悪役が印象に残る本作ですが、名前と顔が一致しなくても、顔を見れば「あ、この人ね!」とすぐに分かる名バイプレイヤーたちが多数出演している点も、本作の重要な見どころとなっています。

例えば、主人公が所属する広域捜査チーム長として笑いを誘うオ・ダルスや、本作ではメガネとスーツ姿で悪党側に回ったユ・ヘジン、更に自動車窃盗団のボスとして散々な目に会うペ・ソンウなど、この俳優たちが出演していれば観て損なし! そう韓国映画ファンが絶大な信頼を寄せる名優たちの顔合わせは、必見の素晴らしさ!

更に、韓国映画の名バイプレイヤーと言えばもう一人、今や大スターとなった"あの人"が思わぬシーンで特別出演している点も、ファンにとっては嬉しいサプライズとなっているのです。

果たして誰が、どのシーンで登場するのか? そこはぜひご自分の目で目撃して頂きたいのですが、こうした男優陣の共演に加えて、大事なシーンで確実に笑わせる広域捜査チームの紅一点、ミス・ボンの活躍ぶりは必見!

彼女が絶妙のタイミングで決めるドロップキックの素晴らしさと一緒に、韓国映画の名バイプレイヤーの共演が楽しめる作品なので、全力でオススメします!

最後に



2014年12月に韓国で大問題となり、日本でも連日報道された"大韓航空ナッツリターン事件"後に製作されただけに、家族経営の財閥グループの横暴さや、彼らが社会的に制裁を受ける姿が描かれる、この『ベテラン』。

実際、劇中で強烈な印象を残すトラック運転手に対する暴力シーンも、実は当時の韓国で実際に起きた事件をモデルにしていたりします。

このように、当時の韓国で実際に起こった事件や、現実の社会問題を反映することで、社会的弱者の声を代弁して卑劣な悪に立ち向かう主人公の姿が、多くの観客の心をつかんで大ヒットに繋がったのは、実に納得できる結果と言えるでしょう。

家父長制度の強い韓国だけに、息子の目の前で屈辱を受けたトラック運転手がその後に取った行動にも共感できるのですが、巧妙に法の目をかいくぐって警察の捜査から逃れ続けるテオを、大勢の一般市民を目撃者にすることで自滅に追い込むドチョルの頭脳プレイや、前述したジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー/香港国際警察』へのオマージュなど、よく練られた脚本と激しいアクションが見事に融合している点も、本作の大きな魅力となっています。

加えて、卑劣な悪役との壮絶な対決が描かれるにも関わらず、実は人が一人も殺されないという展開が鑑賞後の爽快感に繋がる点も、実に上手いのです。

現在の目で見ても、豪華な出演キャストの顔ぶれと迫力あるアクションの数々、そしてユ・アインのキレまくった見事な悪役ぶりとその結末に胸がスカっとする、この『ベテラン』。

悪徳実業家によって生活を破壊される人々の無念さと、そんな巨悪をぶちのめす主人公の活躍が、今観返すと『半沢直樹』に通じる痛快さを与えてくれる作品なので、ぜひ一人でも多くの方にお楽しみ頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)

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