見ないと絶対に後々損する!この夏の大穴的快作『ウインド・リバー』!

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2018年の夏休み映画ラッシュとなり、『ジュラシック・ワールド 炎の王国』『未来のミライ』などが現在大ヒットする一方、インディペンデント映画『カメラを止めるな!』が都内上映館の満席記録を更新しまくる勢いで、ついには全国に感染、いや拡大する“大事件”が勃発。

そして8月にはいよいよ『ミッション:インポッシブル フォールアウト』が公開されるなど、話題に事欠かない映画界ではあります。

しかし、そういったイケイケ・ムードの中で、決して派手ではないものの映画ファンなら見逃し厳禁の作品が埋もれてしまうのは、あまりにももったいない!

というわけで、今回強くプッシュしたいのは、この作品……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街323》

ジェレミー・レナー主演の『ウインド・リバー』。

この作品、ただのサスペンス映画ではなく、現代アメリカの、ひいては人間の闇を見据えた見事な社会派エンタテインメント快作としても屹立しているのです!

雪深き白銀の山岳地帯で発見された
少女の凍結死体の謎

『ウインド・リバー』の舞台はアメリカ中西部ワイオミング州の雪深き白銀の山岳地帯“ウインド・リバー”。

そこはネイティヴ・アメリカン保留地でもあり、ある日ネイティヴの少女の凍結死体が見つかりました。

第一発見者となった野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、彼女が今は亡き愛娘エミリーの親友だったナタリーだと気付き、胸を痛めます。

薄着で裸足姿のナタリーは、マイナス30℃の雪原の中を走り、極寒の空気を吸って肺が凍って破裂し、息絶えたものと思われました。

まもなくしてFBIからジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が現地に到着しますが、彼女はまだ新米捜査官で雪の寒さにも全然慣れてない様子。

監察医の検視結果で、ナタリーは何者かの暴行を受けていたことが明らかになりました。

つまり彼女は暴行犯から逃れようとして雪原に飛び出していった……。

直接的死因が出血のため、法医学的には他殺と認定できないこの事件、その奥には今なお根深いネイティヴ・アメリカンに対する差別意識などが潜んでいるようでもあり、土地に不慣れなジェーンはコリーンに協力を依頼します。

やがて、ナタリーの恋人マットの遺体も発見されました。

コリーとジェーンは、マットが警備員として勤める山奥のトレーラーハウスへと赴きますが……。

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現代アメリカの闇を見据えた
“フロンティア”三部作最終編

本作は凍える大地の中で起きた殺人事件を通して、そのミステリアスでサスペンスフルな情緒もさながら、今なおアメリカ内部にはびこるネイティヴ・アメリカンに対する差別の実態を露にしつつ、さらには人間そのものが心の苦痛に耐えて生き続けていかなければならない人生の機微などを切なくも力強く描出した作品です。

監督は、アメリカとメキシコ国境麻薬戦争を背景にしたサスペンス・アクション『ボーダーライン』(15)の脚本を記して注目され、続いてテキサス州のさびれた田舎町を舞台にしたNetflixオリジナル映画『最後の追跡』(16)がアカデミー賞やゴールデングローブ賞などの脚本賞候補にもなったテイラー・シェリダン。

そう、『ボーダーライン』『最後の追跡』に続く現代アメリカの闇を描いた“フロンティア三部作”の最終編として、彼が初監督したのがこの『ウインド・リバー』なのです。

社会的メッセージを声高に叫ぶことなく、抑制の利いた演出を貫きつつ、さらには主人公コリーの孤独と苦悩が、全編雪に覆われた美しくも白く寒々しい映像美の中で見事に映え渡っていきます。

最近は『アベンジャーズ』シリーズのホークアイなどで知られる主演のジェレミー・レマーですが、ここでは孤高の男のダンディズムを巧まずして体現しており、久々に映画の中で真の(それこそ1970年代までは顕著だった)男くさい“ヒーロー”像を見せてもらった感があります。

ネタバレになるので深くは書けませんが、クライマックスからラストにかけての彼の行動は、戦慄と涙がまざりあい、もはや何も言葉にできない映画ならではのエモーションが炸裂しています。

同じく『アベンジャーズ』シリーズのスカーレット・ウィッチ役でも知られるエリザベス・オルセンも好演していますが、グラハム・ギリーンやギル・バーミンガムらネイティヴ系の名優たちとともにエキストラで出演しているネイティヴ・アメリカンの人々の“顔”も忘れることができません。

第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて監督賞を受賞した『ウインド・リバー』、今年の酷暑を一気に吹き飛ばすベン・リチャードソン撮影監督による極寒の映像美、荘厳で神秘的なニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスの音楽など、どこから斬っても映画ファン垂涎の優れた成果を示しています。

通好みの映画を見たい方、ちょっと渋めの映画を見たい方、少し考えさせられる映画を見たい方、孤高のヒーローの映画を見たい方、ただただ映画館の冷房に浸りたい方(ただし、観賞中はかなり寒くなること必至なのでご用心!)、もう全方向から見ても実はOKなこの作品、この夏見ておかないと後々後悔することになるのは必定です!

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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